トンネルの女①
ー/ー ウェブサイトに表示されている電話番号にかけると、僕のスマホに電話がかかります。
わが事務所には固定電話がありません。また伊沢さんも「四六時中知らない人から電話がかかってくるなんて嫌」というわけで、僕のスマホの番号が使われているわけです。
電話を受けたときは、まず僕が内容を聞いて、相談のご依頼だった場合は伊沢さんにまわすようにしています。彼女は電話で通話するだけでも霊視することが可能なので、そういった意味でも伊沢さんに依頼者とお話ししてもらうようにしています。
たまに夜中とか、ひどいと深夜の一時とかに電話が来るときもあるのですが、そういう時は次回、事務所にいるときにまたかけ直してもらうようにしています。ただ緊急事態の場合は、ご依頼者様に伊沢さんの番号を教えて、そちらへかけ直してもらうようにしています。
このお話の依頼は、いわゆる緊急事態の案件でした。電話がかかってきたのは夜中の十一時で、その時僕は家にいて推しのライブ配信を見ていました。
僕
「お電話ありがとうございます。霊媒師伊沢凪海事務所の村山です」
依頼主
「すみません、絶対人なんているはずないのに外から窓を叩く音がずっとしてて、ここ三階なのに」
電話の声は、若い男の人のものでした。かなり焦っている様子でした。
僕
「大丈夫ですよ、落ち着いてください。今、どこにおられますか?」
依頼主
「家です」
僕
「であればまず、トイレの中へ移動してください」
トイレには烏枢沙摩明王という神様がいる、というように仏教では言い伝えられていますが、実際にそういったような神様はどの家庭のトイレにもいるそうです。僕は伊沢さんから、「もし電話してきた依頼主が危険な状況にあるなら、できることならトイレに避難させなさい」と教わっていました。
依頼主
「トイレに入りました。次はどうすれば?」
僕
「トイレの中にいる限りは安全ですので、安心してください。それから、今から教える番号に電話をかけ直してください。それが伊沢の番号ですので、つながりましたら今の状況をお伝えください」
依頼主
「わかりました。じゃ、電話切ります」
そこで、電話が切れました。
依頼主との電話を終えてから十分くらい経った頃に、また電話が鳴りました。今度は伊沢さんからでした。
僕
「村山です」
伊沢さん
「村山君。明日の朝七時くらいに車出して。○○県まで行く。具体的な行先については、車の中で説明するから」
僕
「わかりました」
それで電話が切れました。
それから、翌日の出張に備えて荷物をまとめたあと、寝て、それから自宅を出ました。
事務所で伊沢さんを拾って、目的地をカーナビにセットして、出発しました。
運転中に、僕は車中で伊沢さんに今の状況を尋ねてみました。
僕
「今回のご依頼者様はどういう理由で電話をかけてきたんですか? なんかやばい案件なんですか?」
伊沢さん
「危険な状態ではある。でも今は彼の住んでいるところが結界の役割を果たしているから、悪霊もたいしたことはできない」
どうやら彼を襲っていたのは悪霊のようでした。
僕
「彼の住んでいるところって、なんか特別なところなんですか?」
伊沢さん
「ううん。ただ、そこが彼のテリトリーになってるから、悪霊はまだ彼のテリトリー内で好き勝手動くことができない状態だから、部屋の中に閉じこもっている限り、何かされるってことはまずないと思う。問題は彼の友達のほう」
僕
「友達? 友達も危ないんですか?」
伊沢さん
「彼らは四人で行ってはいけないところに行って、そこから悪霊を連れてきてしまった。そのうちの一人はもう死んでる。だから彼は怖くなって私たちに助けを求めた」
僕
「死、え? いったい彼はどこに行ったんですか?」
伊沢さん
「トンネル。そしてあれは今、残った彼らのことも狙っている」
僕
「やばいじゃないですか。ちょっと飛ばしますか」
伊沢さん
「急がなくていい。目的地に着く前に私たちが交通事故で死んだら意味がないでしょ」
僕
「あ、確かにそうですね。じゃあ、いつも通り運転しつつ急ぎます」
二時間ほどかけて目的地の近くまで移動して、依頼主の住むアパートの近くにある駐車場に車を停めました。そして依頼主のアパートを訪ねました。
依頼主の方(仮にHさんとします)は、若くて細身の男性でした。大学生だそうで、その日は大学を休んだみたいでした。
伊沢さん
「それで、どうでしたか? ちゃんと連絡はつきましたか?」
Hさん
「一人は連絡がついたんですけど、酔っぱらってしまっていて、全然話が通じなくて、ちゃんと伝わったかどうかわかりません。もう一人のほうは全然電話に出なくて」
伊沢さん
「そうですか」
それから伊沢さんが僕のほうを見ました。話の続きをしろ、という合図です。
僕
「ではHさん。改めて、何があったのか話してもらえますか? トンネルに行ったんですよね」
Hさん
「そうです」
僕
「そこへは何しに行ったんですか?」
Hさん
「それは・・・・・・」
彼は言いよどみました。おそらく、肝試しに行ったと言うのが怖かったのでしょう。そういう方はよくいらっしゃいます。自業自得だろ、と怒られると思ってしまって、なかなか言えないかもしれません。
僕
「肝試しで行ったとしても、怒るつもりはありません。見えないものを信じろっていうのも無理がありますし、その場の雰囲気的に断れなかったということもありますから。けっして怒りませんので、本当のことを話していただけますか?」
Hさん
「Nっていう僕の友達が、肝試しに行こうって言い出したんです。それで四人で行くことになって。でもNのせいだとは思ってません。最終的に行くって言った自分が悪いと思いますし」
僕
「なるほど。それで、トンネルで何があったんですか?」
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