四つの目がある女性
ー/ー この時の依頼者はAさんという若い女性でした。アメリカ人と日本人のハーフなのではないか、と思わせるような顔立ちをしていました。そして彼女には、目が四つありました。
見間違いではありませんでした。Aさんの目の上にもう一対、まゆげがあるはずの場所に、確かに目があったのです。
僕の驚きをよそに、Aさんは目のことについては何も言わないまま、不安と緊張が入り混じったような様子でソファに腰をおろしました。
僕
「あ、えっと、Aさん。心霊写真のことでお悩みとのことでしたが、写真のほうはお持ちですか?」
Aさん
「はい、持ってきました」
彼女は言って、スマホを取り出しました。そしてスマホに、心霊写真を映し出しました。
それは、Aさんが友達と一緒に集合写真を撮った時のもののようでした。写真の中のAさんも、目が四つありました。
Aさん
「これなんですけど、私の目の上のところに目が写りこんでいて、すごく気持ちが悪くて」
僕
「なるほど」
一瞬僕は、今も僕にはあなたの目のうえにもう一つ目があるのが見えますよ、と言おうか迷いました。しかし、やめました。いたずらに怖がらせるのはよくないと思ったからです。
僕
「ちなみに、この写真は最近撮られたものですか?」
Aさん
「はい。二週間くらい前に撮ったものです」
僕
「これ以外の写真は、特に問題はありませんでしたか?」
Aさん
「わかりません。というのも、この写真が撮れてからというもの、写真で自分の顔を撮るのも、写真に撮られるのも怖くなってしまって、写真を撮っていないんです」
僕
「そうですよね、確かに怖いですよね。これは間違いなく、目ですからね」
Aさん
「この目はいったいなんなんでしょうか? ちょっと、本当に怖すぎて嫌なんですけど」
僕
「それについては今、霊視している最中なので少しお待ちください」
やがて、霊視を終えた伊沢さんが話しだしました。
伊沢さん
「この目の正体は、生霊ですね」
Aさん
「生霊?」
伊沢さん
「生きている人間が自分の魂というか、自分の分身のようなものを飛ばして、それが霊みたいになってAさんにとり憑いたものですね。この場合でいえば、Aさんのお知り合いですね、生霊を飛ばしているのは」
Aさん
「それは、私の知っている人なんですか?」
伊沢さん
「はい。でもAさん、たぶんこの目の持ち主のこと、もうわかってますよね。この目の形を見てなんとなく、この人が飛ばしたんだっていうのも、わかってますよね?」
Aさん
「わかるんですか! はい、実はそうなんです。この目が、知り合いのそれとちょっとそっくりで、それがなおさら不気味で」
伊沢さん
「髪をボブカットにしていて、ちょっとぽっちゃりしていて、目が細い同い年の女性ですよね?」
それを聞いたAさんは驚いた様子を見せました。
Aさん
「やっぱり、Kが生霊を飛ばしていたんですか?」
K、というのはきっと、そのちょっとぽっちゃりしているというAさんの知り合いのことなのでしょう。
伊沢さん
「そうです、おそらくそのKさんが生霊を飛ばしてます。それでなんで生霊を飛ばしていたか、なんですけど、それは監視するためですね」
Aさん
「監視、ですか?」
伊沢さん
「Kさんっていうのが、けっこう独占欲の強い方で、Aさんが他の子と仲良くしていると、それが女の子であろうと男の子であろうと関係なく、やきもちをやく方なんですね」
Aさん
「そうです! そうなんです! それがちょっと、私苦手で」
伊沢さん
「ええ、そうですよね。しかもそれを、Kさんもうすうす察してますね。嫌われてるかもしれない、ってかんじで、もう気づいてます。
だからこうして生霊としてとり憑いて、目で覗いてるんです。Aさんが自分の知らないところで誰と会ってるのかとか、何を見たのかとか、Aさんの目が見ているものを見ようとしているんです」
Aさん
「ええ、気持ち悪い・・・・・・」
伊沢さん
「ええ、かなり気持ち悪いと思いますよ。しかも最近、けっこうべたべた近づいてこられませんか? それでいて、けっこうチクチクとなんか言われたりしませんか?」
Aさん
「そうなんです。こっちが必死に避けようとしても、向こうから近寄ってきて。それでこの前も、日本人のふりしてんじゃねえよアメリカに帰れ、とか言われてしまって」
その時、僕はAさんの顔を見ていました。それで気づいたのですが、そうAさんが話した時に、生霊の目が笑った時みたいに細くなったのが見えました。Aさんが苦しんでいるのを知って笑ってるんだ、と気づいて僕は、よりいっそう不快になってしまいました。
伊沢さん
「それはですね、AさんがKさん以外の女の子と会ったことも、その時に話した内容も全部知ってるので、そのことで罰しようとしているんですよ。今も、Kさんの生霊が、Aさんの罪を数えている最中なんですよ。もっとも罪といっても、向こうが勝手に罪って思い込んでいるだけで、実際はAさんはまったく悪くないんですけど。
とにかく、けっこうやばいやつなので、すぐにとりますね。で、二度と憑かないように保護もかけます。写真はいますぐ消してください。そうすれば、霊的な面においては完全に解決しますので」
Aさん
「ありがとうございます。写真は今ここで消したほうがいいですか?」
伊沢さん
「はい、消してください。写真を消し終わったらさっそく、お祓いのほうをさせていただきますので」
それから、お祓いが始まりました。僕はお経を読み上げて生霊を弱らせる役目を、伊沢さんが生霊を祓う役目を担いました。
僕がお経を読み始めると、Kさんの生霊の目が、ぐっとこちらをにらみつけてきました。祓われるのを嫌がってのことでしょう。しかし生霊は、それ以上のことは何もしてきませんでした。おそらくですが、直接的に害を与えられる程、力のあるものではなかったのでしょう。
伊沢さんが右手をAさんの頭の上に置きました。それから、ふっと右手を持ち上げたかと思うと、ぐっと何かをつかみあげるような動作をしました。すると、Aさんの体からずるずるずる、と女の人の姿をした生霊が出てきたのです。それは、ぽっちゃりとした、目つきの悪い女でした。
伊沢さんの右手には、生霊の頭が握られていました。生霊はびっくりしたように目を見開いてみました。
伊沢さんはそいつの頭をつかんだまま、窓のそばまで引きずっていきました。それから、窓を開けると、右手につかんでいた生霊を外へ放り投げたのです。
それから彼女は窓を閉めると、次にAさんに保護をかけました。それでお祓いは終わりになりました。
Aさんが帰ったあと、僕は伊沢さんにあることを尋ねました。
僕
「あの、さっき投げた生霊いたじゃないですか」
伊沢さん
「あ、もしかして生霊の姿、見えてた?」
僕
「あ、はい。見えました」
伊沢さん
「ふうん。やっぱあのトンネルの霊体を見たことをきっかけにして霊感が開花したみたいだね。って、ごめん。それで、生霊がなんだっけ?」
僕
「あれ、投げたあとはどこへ行くんですか?」
伊沢さん
「本人の元へ帰っていく。ただし、呪いとして。生霊を飛ばすって、ようは呪術みたいなものだからね。監視してる、とだけしかAさんには言わなかったけど、本当は他にもいろいろやってたからね。たとえば、Aさんと友達の仲を悪くして孤立させようとしたりとか、体調を悪くさせたりとか。だからまじでほぼ呪いだよ。
だから、生霊がはじき返されたら、術者もただじゃすまない。ましてやKさんは素人でノウハウも何も知らないで力任せにやってたから、なおさら被害はでかいと思う。でも、自業自得だね。人を呪うようなことをしたのが悪い」
僕
「それは当然ですよ。ただ、外に放り捨てて悪さとかしないのかなって思ったので」
伊沢さん
「生霊が霊みたいにふるまうのかってこと? 無理だね。普通の人にはそこまで生霊を自在に操る力なんてない」
それを聞いて、僕はほっとしました。道を歩いていたらその辺に立っているKさんの生霊に会ったりしないか、と不安だったのですが、そんなことはないようでした。
とはいえ、Kさんのような人間はこの世に一人だけ、というわけではないはずです。もし、変なものが写っている写真が撮れたりしたときは、念のため神社へお祓いに行くか、我々の元へ連絡をください。見知らぬ何かに日常生活を監視されているかもしれませんので。
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