臭い家①
ー/ー ご依頼者様はIさんという方で、おっとりしたかんじの女性でした。高校生の娘さんがいるとのことでしたが、とてもそうは見えないくらい、若々しく見える方でした。
それだけに、家にお邪魔した時に、家の中から異臭がした時にはびっくりしました。ごみなんか溜めこんだりしなさそうな人に見えたからです。
玄関を開けてもらって入ったとたんに、その悪臭がしました。においの元がどこにあるのかはわかりませんでしたが、家中にまんべんなく、そのにおいが漂っているように感じられました。それがどのようなものかと言いますと、何かが腐ったような甘ったるいにおいで、今まで嗅いだことのないようなものでした。
しかしこのような悪臭を、普通の人が出すなんてことはあり得ません。我々に相談が来たことも合わせて考えると、これが霊臭であるのは間違いないように思えました。霊臭というのは、霊が発する霊的なにおいのことです。それがしたことから僕は、この家に何かやばいものがいると感じました。
Hさんに案内されて、リビングにあるソファに座って、Hさんも座ったところで、自己紹介やもろもろの説明をしていきました。それから、僕はこう切り出しました。
僕
「それでは、どのようなことがあったのか、または気になったことについて、お手数ですが、いちからお話しいただけますか?」
その時、二階からドタドタドタッと何かが走り回るような音と、動物の鳴き声らしきものが聞こえてきました。一瞬霊のしわざかと思いました。しかしその音がこの家で飼われているペットのものである可能性もありましたから、この時は無視することにしました。
Hさん
「わかりました。妙なことが起きたのは本当につい最近のことで、一週間くらい前のことなんですけど、娘から、誰かが部屋にいる気がする、と言われまして」
僕
「なるほど」
Hさん
「普通の家なら、気のせいってなるところかもしれないんですけど、私の祖母が、霊感がけっこうあって、私もちょっとだけあって。そして娘は霊感が私よりも強いんですよ。だから、本当になんかいるんじゃないかって思って、部屋に行ってみたんですね。そしたら、確かになんかちょっと、ぞっとするような寒気というか、そういったものを感じたんですね。しかも、なんかちょっと臭かったんですよ、娘の部屋が。動物臭みたいな、そんなかんじの臭いがして」
どうやらHさんもまた、僕が嗅いだのと同じような霊臭を嗅いでいたみたいでした。
Hさん
「それで、なんかいるんだろうなとは思ったので、とりあえずあら塩を部屋にまいてはみたんです。
ところがそれから少しして、その時は確か夜中だったと思うんですけど、突然二階の廊下あたりをドタドタドタって何か大きな生き物が走り回った時のような音が聞こえてきたんです。
その音を聞いて私はびっくりしたんですけど、もっと驚いたのは、その音を霊感のない主人も聞いていたんですね。それで、聞き間違いではないっていうことになって、猿か何かが窓から入ってきちゃったのかもしれないってことで、一応見に行ったんです。
でも、猿なんていないし、小さいものですら走り回っているものなんかいなかったんです。それに娘も、廊下を走ったりなんかしてないって言いますし。ただ、廊下へ行った時に、あの動物臭みたいな悪臭がしたんですね。それで、もしかしてこれも霊のしわざなのかも、なんて思ったりして。
ただその時には霊のことで頼れる方というのがいなかったものですから、最初から探し始めなければいけなくて、それでこうしてお電話してきていただくまでに時間がかかってしまったんです。
ただそうやって手間取っているあいだに、またおかしなことが起きてしまって。娘が夢を見たって言うんですよ。それで、どんな夢なの、って聞いてみたんです。
そしたらなんでも、娘は真っ暗なところであおむけに寝ていて、なぜかまったく動けない状態で、その上から真っ黒い人影みたいなものが覆いかぶさってきたそうなんです。それから、その覆いかぶさってきたものが、首筋に噛みついてきたそうなんです。しかも夢の中なのに、ちゃんと痛みがあったって言うんですよ。
私はそれを聞いて、怖くなってしまって。それというのも、娘の首筋に歯形があったからなんです。夢の中で起きたできごとが現実に起きたなんて信じられませんでした。でも誰かが噛みついたと考えなければ、その歯型のことを説明できません。でも、娘の首筋に噛みつくようなものなんていないんですよ。うちはペットも飼っていませんし」
今までの話を聞いていてなんとなく気づいてはいたのですが、この家にペットがいないとはっきり断言されたことによって、先ほど二階でした音が生き物によるものではないことが確定しました。二階に霊がいるのは、間違いなさそうでした。
Hさん
「それでようやく、伊沢先生のことを知って、連絡もついて、こうして来ていただけたんですけれども、どうなんでしょうか? その、この家には何がいるんでしょうか?」
伊沢さん
「お話しをする前に、念のため先に、家の中を見せていただいてもよろしいでしょうか?」
Hさん
「あ、ええどうぞうどうぞ。ご案内します」
それからまず、一階を見て回ったのですが、一階にも霊が何体かいました。伊沢さんによると、二階にいる霊が出した穢れなどによって呼び寄せられた霊体とのことでした。
それから二階に行ってみたのですが、ある部屋から、何かが走り回る音と、何かの鳴き声が聞こえてきていました。その鳴き声というのが、犬や狐と似てはいるのですが、しかしどこか違っていて、よくわからないようなものでした。
伊沢さんが、音のする部屋のドアを開けました。
部屋の中にいたのは、全裸の男性の霊でした。細身の若い男性で、肌の色が灰色に近い色をしていて、四つん這いで床を跳ねまわりながら、ぎゃんぎゃんっ、と動物の鳴き声みたいな声を上げていたのです。しかも、体のいたるところに汚物の乾いて固まったものがこびりついていました。
それを見て思わず、うわっと悲鳴をあげてしまいました。あまりにも異質でしたし、気持ち悪かったからです。正直言って、気が狂っているとしか思えませんでしたし、何をしてくるかわからない恐ろしさがありました。
その霊体は、我々に気づくと急におとなしくなりました。それから、こちらをにらみつけてきたのです。目が血走っていて、そこもまた恐ろしかったです。
どうしよう、と思っていたら、突然その霊体が四つん這いで走り出して、こちらに向かって突進してきました。
それをよける間もなく、霊体は伊沢さんの体をすり抜けて、家のどこかへと逃げ去っていってしまいました。
そんなことがあったにもかかわらず、伊沢さんは顔色ひとつ変えることはありませんでした。僕は、彼女の胆力に舌を巻きました。
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