トンネルの奥にいたもの③
ー/ー ○○チャンネルのメンバーたちはみんな、それぞれ違う感情を現わしていましたが、それでも元気がないという点だけはみんな一致していました。どうやら、トンネル内でのできごとにすっかりショックを受けているようでした。
伊沢さん
「このトンネル内で撮った動画なんですけど、配信したりはしないでください。この動画によくないものが映ってしまっているので」
Dさん
「よくないものってなんですか?」
伊沢さん
「Aさんにとり憑いていたものもそうですし、あとは魔物ですね、それが映ってしまっています」
僕は自分そっくりの姿をしたもののことを思い出していました。あれが魔物だと言われれば、まさにその通りだと思えました。
Eさん
「魔物が映ってると、何がまずいんですか?」
伊沢さん
「魔物が映った動画を見ると、視聴者のもとへ魔物が飛んでいってしまうんですね。いわば、呪物のようなものになってしまっているんです。それを人に見せるのはまずいので。特に霊感のある人は被害が大きくなってしまいますから」
Eさん
「呪物のようなもの、ということなら、呪いを解くみたいなことはできないんですか?」
伊沢さん
「それは、できるかもしれませんが、やったことがないので。成功する保証はありません」
Aさん
「失敗しても構わないので、やってもらってもいいですか? ここまで苦労して撮ったものを、見せられないからっていうだけでそう簡単に諦めたくないんです。お願いします」
伊沢さんは少し困ったような顔をしましたが、やがてこう答えました。
伊沢さん
「わかりました、やるだけやってみます。カメラをお借りしてよろしいですか? あのトンネル内を映していたもの、全部」
彼女はカメラ三台を地面に置くと、その中の一台に手で触れて、目を閉じました。
伊沢さん
「・・・・・・これか」
そうつぶやいてから彼女は、手を合わせました。そのあと、もう一回カメラに触りました。
しばらくして、彼女はカメラから手を離しました。
伊沢さん
「すみません、このカメラの動画を再生してもらうことってできますか?」
Aさんはカメラを受け取ると、動画を再生してくれました。彼女はその動画を見て、あれこれ指示を出したりして、一部始終を拾い見するようなかたちで見ていきました。
伊沢さん
「これなら、見ても大丈夫ですね。残りの二台も同じようにやります」
それから彼女は残りの二台も除霊しました。
伊沢さん
「これで大丈夫です」
Aさん
「いやあ、ありがとうございました」
伊沢さん
「ええ」
Aさん
「また何かあったら、次もぜひよろしくお願いします」
伊沢さん
「次はありません」
Aさん
「え、あ」
伊沢さん
「今回のことでわかったと思うんですけど、ここって本当は来ちゃだめな場所なんです。一番最初にお話しした時に言ったとは思うんですけど」
彼女はちらりと、スタッフの一人の顔を見ました。そのスタッフが、彼女に電話をかけた人物だったのでしょう。
Aさん
「ええ、僕らもよくわかりました。ほんとに、先生がいなかったら俺たち今頃、どうなってたかわからないですし、本当に危ないってよくわかりました」
伊沢さん
「ですから、行かないほうがいいと言われたなら、行かないでください。守らなかったらどうなるか、よくわかりましたよね」
Aさん
「はい」
伊沢さん
「次からはもう、わからないでは済まされませんからね」
メンバーのみんな、気まずそうな表情を浮かべていました。
伊沢さん
「もう帰りましょう。ここに長居するのもあまりよくないので」
そうして僕らはKトンネルをあとにしました。そのあと、近くにあった車を停められるところに車を停めて、伊沢さんが全員の除霊とお清めを済ませました。
そのあと、僕らは電車で帰っていきました。
駅から事務所へ帰っていく途中の道で、彼女は僕にお礼を言ってきました。
伊沢さん
「トンネル内でのこと、ありがとうね」
僕
「いえ、僕はほとんど何もできませんでした。全然、お祓いとかできなかったですし」
伊沢さん
「いや、ちゃんと効果はあった。ちゃんとあの魔物が君を脅威として見ていたからこそ、君が襲われたんだよ。もし君がいなかったら、他の人がまっさきにとり憑かれていたから」
僕
「そうだったんですね。あの、あれはいったい、なんだったんですか? その、僕には自分とまったく同じ姿をしているように見えたんですけど。それがなんでか笑いながらこっちに近づいてきていて、それがちょっと恐ろしかったんですけど」
伊沢さん
「あれは、トンネルに棲んでる魔物だね。人の心を読んで、相手と同じ姿に化ける。そうやって相手の魂に入り込もうとするんだよね。入り込んで、魂を喰う。あのトンネルに行っちゃいけないっていうのは、そういうこと。普通の人が行ったら命をとられることになるから」
僕
「そんなに恐ろしいものを、伊沢さんはあんなにあっさりと追い払えたんですね。やっぱ、すごいです」
伊沢さん
「まあ、私はちょっと例外だから。それはともかくとして、とうとう霊的なものが見えるようになったんだね」
僕
「そういえば、はい。なんか、見えました」
何か特別意識したわけではありませんでした。ただ足音がしたほうを見たらそれが見えた、というだけでしたので、たまたまなんじゃないか、という気もしていました。
伊沢さん
「やっぱだんだん、霊感が開花してきているのかもね。たぶんこれからだんだんもっと、霊が見えるようになっていくかもしれない」
今まで見えなかったものが見えるようになる、ということに対して恐怖はもちろんありました。しかしいっぽうで、好奇心も少しだけありました。
彼女がどんなものを見ていたのか、その一部を僕は今日、見たわけです。あれと同じようなかんじでこれからもいろいろ見えるのかもしれない、こうして目に見える風景も今までとは全然違うものになるのかもしれない。そのことに僕は、不安と興奮が入り混じったような感情を覚えたのでした。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。