トンネルの奥にいたもの②
ー/ー 撮影スタッフも含めて十人以上で、トンネルの中を進んでいくことになりました。
Bさん
「先生、ちなみに今、どんな幽霊が見えますか?」
トンネルに入って少ししたところで、彼は尋ねました。
伊沢さん
「壁に寄りかかっている霊だったり、じっと立ったままこっちを見てる霊とかが多いですね。あと、後ろからついてくる霊もいます」
Bさん
「え? つ、ついてきているのは、なんでついてきているんですか?」
伊沢さん
「はっきりとした意図は不明ですが、このまま家まで連れていってもらおうとしているものもいると思います」
Cさん
「うわ、むりむりむり!」
Cさんは叫びながら、前へと駆け出していってしまいました。
Aさん
「ちなみに、ああやって一人で先に突っ走ったりするのは危険なんですか?」
伊沢さん
「今は私がいるからいいんですけど、そうじゃなかったら危険です。一人になった人間からやっぱり狙われるので。特に彼、けっこう怯えてるのでなおさら狙われます」
Eさん
「怯えるとだめなんですか?」
伊沢さん
「怖がると心のガードが弱まるので、霊にとり憑かれやすくなるんです。だから、あんまり怖がらないほうがいいですよ」
Aさん
「C! 一人でどんどん先に行くと、とり憑かれるんだってさ!」
Cさん
「うわああ!」
Cさんは叫びながら、引き返してきました。
かなり騒がしくしてはいましたが、それでもここまでは大した問題が起きることもなく進めていました。
問題が起きたのは、トンネルの出口のすぐそばまで来た時でした。
Aさん
「ちょっとまって」
それまで笑い交じりに騒がしく話していたAさんが、ふいにそう言いました。
なんだろう、と思って彼を見ました。彼は立ち止まっていて、何も言わずに困惑した表情を浮かべていました。そうかと思うと、急に顔をくしゃっとゆがめて、それから涙を流して泣き始めてしまいました。
Bさん
「どうした、A? どうしたん?」
伊沢さん
「下がって、下がって!」
彼女は他のメンバーを下がらせると、Aさんのほうへと近寄りました。
伊沢さん
「大丈夫、大丈夫だから」
彼女は言いながら、手を合わせました。
一方のAさんは泣きながらその場にしゃがみこんでしまいました。
Aさん
「ろうがんがわりんだ、んで、にも、わりいことおしれんのに、んで」
彼は泣きながらそう言いましたが、僕にはなんのことか少しもわかりませんでした。
しかし何も問題はないはずでした。どんな霊がとり憑いていようと、伊沢さんが祓ってくれると、僕は信じていました。
しかしAさんがとり憑かれたことによって、それ以外のトラブルに僕が対処をしなければならなくなったのです。そのことに、この時の僕はまだ、気づいていませんでした。
がさ、と向こう側で誰かが草を踏む音が聞こえました。その時僕は、他にここへ来ていた人が、泣き声または話し声を耳にしてここへ様子を見に来たのだと思っていました。
僕は音のしたほうを見ました。すると、トンネルの出口の横から覗き込むようにしてこちらを見ている人影が見えました。
僕はその人影へ懐中電灯の明かりを向けました。その人は男性でしたが、見たときに一瞬、それがそこにいることが信じられませんでした。
それというのもそれが、自分自身だったからです。いいや、僕であるはずがありません。僕はここにこうしているのですから、それはそっくりな誰かであるに違いないのです。
しかし彼は僕と全く同じ顔をしていて、まったく同じ服装をしていました。そして、こっちを見ながら笑っていました。
Bさん
「どうかしたんですか、村山さん?」
僕
「いや、あそこに僕と同じ姿をしたものがいて」
Cさん
「え? 向こうにも霊がいるんですか?」
Cさんが霊だと言った時点で、僕はそれが人ではないと確信しました。
僕
「Bさん、あそこちょっと照らしておいてもらえますか?」
Bさん
「わかりました」
僕は彼に懐中電灯を渡すと、バッグから除霊に使う道具を取り出しました。そしてまず、お香を焚きました。それから、金剛杵とおりんを手に持って、金剛杵でおりんを打ち鳴らしました。
僕
「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマジンバラ ハラバリテヤ ウン・・・・・・」
僕は光明真言を唱え始めました。
しかしその何かは立ち去るどころか、笑みを浮かべたままトンネルの中へと入ってきました。
と、そこで突然、懐中電灯の明かりが消えました。
Bさん
「あれ、つかなくなった」
明かりが消えたせいで、その何かの姿も見えなくなりました。それでも、僕はお経を唱え続けました。
僕
「ナウマク サンマンダ バザラダ センダ マカロシャダヤ ソワタヤ ウンタラタ カンマン」
光明真言の次は、不動明王真言を唱え始めました。しかし状況がよくなるどころか、むしろ嫌な気配がどんどんと強まっていくのを、僕は感じていました。
伊沢さんが除霊に集中して動けない今、僕がその何かと戦うしかありません。祓うことができないまでも、彼女がお祓いをできるようになるまで、時間稼ぎをしなければなりません。
Dさんが、自前の懐中電灯で先ほど照らしていた場所を照らしだしました。その時に光の線がさっとあたり一帯を通り過ぎたのですが、その際に僕と同じ顔をした何かの顔が一瞬、見えました。その何かは、いつの間にかすぐ近くに迫ってきていました。しかしDさんは先ほどと同じ場所を照らそうとしたので、その何かはすぐに見えなくなってしまいました。
僕
「Dさん、僕の前を照らしてください!」
彼は僕の言う通りにしてくれました。
すると、懐中電灯の光が僕のすぐ目の前を横切っていきました。それと同時に、僕のすぐ目の前で笑っている何かの姿が見えました。
その何かは、手を伸ばせば届くほどすぐそばに立っていました。そして笑いながら僕のほうを見ていました。
僕はその何かが、僕のひたいを見ているのに気づきました。僕は、そいつが僕のひたいから僕の中へ入り込もうとしていることを、直感的に感じました。
先ほどからずっとお経を唱えているのですが、その何かに効いている様子はいっさいありませんでした。
その何かがぐうっと前に体を傾けてきました。その時に、その何かの頭が細くなったような気がしました。そしてそれの頭の先端がまるでナイトキャップみたいにとんがってきて、こちらに向かって伸びてきました。
伊沢さん
「消えろ」
伊沢さんの声が聞こえてきました。それと同時に、その何かの動きがぴたっと止まりました。
その何かは、ふらっと横へ動きました。そしてトンネルの壁に向かって歩いて行ったかと思うと、真っ暗闇の中へと姿を消してしまいました。
彼女は僕の前に出てきて、その何かが消えたほうをしばらく見つめていました。それから少しして、彼女は○○チャンネルのメンバーたちのほうを見て言いました。
伊沢さん
「もう帰りましょう。撮れ高ならもう十分、あったでしょ」
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