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本木にまさる末木なし4 The first is the best.

ー/ー



 あれはちょうど今頃、帰国してすぐの高2の春だった。

「お前ら、頭ん中まだ小6男子かよ」 
 二人で抱き合って喜んでたら、崇直(たかお)がそう言ってからかってきたんだ。  
 何年も会えなかったんだから、そりゃ別れた時の小学生に戻るだろ、邪魔すんなっての。
 
 紅緒には直接会って、帰ってきた事を知らせたかった。
 だから崇直には内緒にしてくれって頼んでてさ。
 帰国の理由があれだったから、紅緒には余計な心配をかけたくなかったんだ。

 紅緒は10歳で両親を事故で亡くしている。
 僕は15のとき同じように両親を失った。
 そのとき痛感したんだ、あれは想像以上にしんどい。

 事故の連絡が崇直からまー爺に伝わって、結局まー爺がイギリスに来て全部手続きをしてくれた。
 本当に世話になりっぱなしだよ。

「一緒に帰るか」

 わざわざ来てくれたまー爺は何度も言ってくれた。
 崇直たちも手紙で何度も「家に来い」って誘ってくれたっけ。
 なのに、とうとう最後まで素直になれなくて。
 高1過程(フィフスフォーム)を終えてからは、編入試験までイギリスをぶらついて、年明けにまー爺と崇直にだけ連絡してマンションに引っ越した。

 両親の遺産と事故の保証金はかなりの額だったらしい。
 祖父母名義のマンションも相続して、まー爺が全部面倒を見てくれた。

 そのマンションを売って、別の土地に新しいマンションを建てて、商業フロアをテナントで貸して家賃収入で現金を確保して。
 その全てを、まー爺が取り計らってくれたんだ。
 学費も生活費も、全部まとめてまかなえたから、進学も諦めずに住んだ。
 こうして僕はバイトもせずに済んでいる。

 新学期が始まって一ヶ月くらいした頃だった。
 朝、窓からふと外を見たら、紅緒っぽい人が制服姿で交差点に立っていたんだ。
 いつも手元に置いていたオペラグラスを手に取り、確認する。

「おおっ! やべっ。急がなきゃ」
 慌てて着替えて追いかけた。
 会うタイミングをずっと逃してたから、これを逃したら後がないってめちゃくちゃ焦ったよ。

 駅の改札でやっと追いついて声をかけたら、紅緒は無視してスタスタ歩いて行ってしまった。
 思わず腕を掴んだら、振り向いた顔が思い切り警戒してて笑ったな。

 でも頭をポンと叩いてくしゃっとしたら、顔がみるみるほころんで、そのまま抱きついてきたっけ。
「わーちゃん、わーちゃん」
 と連呼して。僕も嬉しくて一緒に跳ねてたら――

「おい、亘」
崇直の声がしたんだ。
――残念でした、小6男子は卒業しましたよ。

「小6男子が何だって?」

 目の前に崇直の顔。
 何でお前が居るんだ。
 慌てて体を起こしたら、自室のカウチだった。

「わーちゃん、大丈夫?」
…紅緒まで居る。
 何でお前が僕のシャツ着てんだ。

「お水、飲む?」
 差し出されたグラスを一気にあおぐと、冷たい水が胃に落ちていくのが分かった。
 喉、カラッカラだ。

「おかわり持ってくるね」
 紅緒がキッチンに立つ。
 その背中を見て、心臓が止まるかと思った。
 おまえ、素足じゃん。
 何しんてんだよ。

「ベーを抱えたまま倒れたって聞いたぞ」

 崇直がじっとこっちを見てる。
 なまじ顔が整ってる分、睨まれると凄味があるよな。
 やべぇ、あのロック飲んだんだっけ。
 一気に感覚が戻ってきた。

「モヒートのあと、ウイスキーも空けたって樹が言ってたぞ。頭湧いてんのか」
「モヒートまでは覚えてる」
 …湧いてたわ。もう大沸騰だったよ。

 崇直が大げさな動作でソファに腰かけ、すっと足を組んだ。
 さすが、崇直はスーツ姿が様になってるな。
 お前は一足先に社会人になったんだな。

 そう思って、崇直を見たら呆れ顔でため息をつかれた。
 そんなに落胆することか?




みんなのリアクション

 あれはちょうど今頃、帰国してすぐの高2の春だった。
「お前ら、頭ん中まだ小6男子かよ」 
 二人で抱き合って喜んでたら、|崇直《たかお》がそう言ってからかってきたんだ。  
 何年も会えなかったんだから、そりゃ別れた時の小学生に戻るだろ、邪魔すんなっての。
 紅緒には直接会って、帰ってきた事を知らせたかった。
 だから崇直には内緒にしてくれって頼んでてさ。
 帰国の理由があれだったから、紅緒には余計な心配をかけたくなかったんだ。
 紅緒は10歳で両親を事故で亡くしている。
 僕は15のとき同じように両親を失った。
 そのとき痛感したんだ、あれは想像以上にしんどい。
 事故の連絡が崇直からまー爺に伝わって、結局まー爺がイギリスに来て全部手続きをしてくれた。
 本当に世話になりっぱなしだよ。
「一緒に帰るか」
 わざわざ来てくれたまー爺は何度も言ってくれた。
 崇直たちも手紙で何度も「家に来い」って誘ってくれたっけ。
 なのに、とうとう最後まで素直になれなくて。
 |高1過程《フィフスフォーム》を終えてからは、編入試験までイギリスをぶらついて、年明けにまー爺と崇直にだけ連絡してマンションに引っ越した。
 両親の遺産と事故の保証金はかなりの額だったらしい。
 祖父母名義のマンションも相続して、まー爺が全部面倒を見てくれた。
 そのマンションを売って、別の土地に新しいマンションを建てて、商業フロアをテナントで貸して家賃収入で現金を確保して。
 その全てを、まー爺が取り計らってくれたんだ。
 学費も生活費も、全部まとめてまかなえたから、進学も諦めずに住んだ。
 こうして僕はバイトもせずに済んでいる。
 新学期が始まって一ヶ月くらいした頃だった。
 朝、窓からふと外を見たら、紅緒っぽい人が制服姿で交差点に立っていたんだ。
 いつも手元に置いていたオペラグラスを手に取り、確認する。
「おおっ! やべっ。急がなきゃ」
 慌てて着替えて追いかけた。
 会うタイミングをずっと逃してたから、これを逃したら後がないってめちゃくちゃ焦ったよ。
 駅の改札でやっと追いついて声をかけたら、紅緒は無視してスタスタ歩いて行ってしまった。
 思わず腕を掴んだら、振り向いた顔が思い切り警戒してて笑ったな。
 でも頭をポンと叩いてくしゃっとしたら、顔がみるみるほころんで、そのまま抱きついてきたっけ。
「わーちゃん、わーちゃん」
 と連呼して。僕も嬉しくて一緒に跳ねてたら――
「おい、亘」
崇直の声がしたんだ。
――残念でした、小6男子は卒業しましたよ。
「小6男子が何だって?」
 目の前に崇直の顔。
 何でお前が居るんだ。
 慌てて体を起こしたら、自室のカウチだった。
「わーちゃん、大丈夫?」
…紅緒まで居る。
 何でお前が僕のシャツ着てんだ。
「お水、飲む?」
 差し出されたグラスを一気にあおぐと、冷たい水が胃に落ちていくのが分かった。
 喉、カラッカラだ。
「おかわり持ってくるね」
 紅緒がキッチンに立つ。
 その背中を見て、心臓が止まるかと思った。
 おまえ、素足じゃん。
 何しんてんだよ。
「ベーを抱えたまま倒れたって聞いたぞ」
 崇直がじっとこっちを見てる。
 なまじ顔が整ってる分、睨まれると凄味があるよな。
 やべぇ、あのロック飲んだんだっけ。
 一気に感覚が戻ってきた。
「モヒートのあと、ウイスキーも空けたって樹が言ってたぞ。頭湧いてんのか」
「モヒートまでは覚えてる」
 …湧いてたわ。もう大沸騰だったよ。
 崇直が大げさな動作でソファに腰かけ、すっと足を組んだ。
 さすが、崇直はスーツ姿が様になってるな。
 お前は一足先に社会人になったんだな。
 そう思って、崇直を見たら呆れ顔でため息をつかれた。
 そんなに落胆することか?