インターホンを覗いていたもの②
ー/ーUさん
「何が原因なんですか?」
伊沢さん
「一言で言い表すのがちょっと難しいんですけど、いわゆるUさんの一族を恨むものですね」
Uさん
「私の先祖が何か悪いことをした、ということなのでしょうか?」
伊沢さん
「そういうわけでもないんですけど、どちらかというと、Uさんの先祖の中の一人がUさんの一族を恨んでいる、というようなかんじです。Uさんの父方の祖父の母親に当たる人が、Uさんの一族を恨んで呪っていたみたいです。
Uさんの祖父がご結婚された時に、その人はけっこう怒っていたみたいなんです。それというのも、自分の息子をとられたっていうような気がしていたらしくて、息子の結婚相手とか、息子の子供までも恨んでいたというような状態だったみたいで。
言いかたを選ばずに言うと、ちょっとおかしい人だったんです。いきなり息子夫婦の家に押しかけてきて、玄関先で怒鳴り散らしたりとか、家の中に勝手に入ってきて息子のお嫁さんに意地悪、いわゆる嫁いびりですよね、をしてくるとか。そういうことをしてた人だったみたいです」
Uさん
「確かにそれはけっこう、やばい人ですね。自分の先祖に対してこう言ってしまうのもあれかもしれませんけど」
伊沢さん
「まあでも、同じようなことをUさんのおじい様も思っていらっしゃたみたいです。やはりその、母親に愛想をつかして、とうとう縁を切ってしまったみたいです。
ただその時にその人はすごく怒ったようでして。その時には”全部あの女のせいだ。あの女の子供も子孫も、全員呪い殺してやる”と思っていたようです。それで、最終的にその人は自殺してるんです。霊になって息子の家族に祟ろうとしていたんですね。
それで本当に怨霊になってしまって、息子の結婚相手とその子供たちを呪い始めたんです。それで一時まずいことになったんですけど、その時は霊媒師を呼んで、ことなきを得たようです。
ただ、霊媒師でもその女性の怨霊を祓うことができなかったみたいで、その女性が寝室としていた部屋に封じ込めるっていうかたちでなんとか収めたみたいです。
だから本家のほうに開かずの間みたいなものがあったはずなんですよ。お札がびっしり貼ってあって、誰も開けるなと言ってある部屋があったはずなんです。もし開けるか家を壊すかする時は霊媒師とか神職の人を呼べ、って言われてたはずなんですけど、心当たりはありますか?」
Uさん
「確かにありました、そういう部屋が。でも祖父母の家はもう、祖父母が亡くなってしまったのもあって、すでに取り壊してしまっていまして。もしかしてまずかったんですか?」
伊沢さん
「そうなんです、それがだめだったんです。一族の長男、Uさんの叔父ににあたる人が、お祓いとか何もせずに家を取り壊してしまったので、封じられていたその怨霊が出てきてしまったんです。
だからUさんの叔父はもちろん、叔父の妻や息子であるいとこもみんなその怨霊に呪い殺されてしまっているんです。
それで長男の一家を全員殺したから、次にUさんのほうへ来たというわけです」
Uさん
「でも、なんで次が私だったんでしょうか?」
伊沢さん
「本来順番的にはUさんのお父さんだったはずでした。それを飛ばしてまでUさんのところへ来た理由はやはり、似ていたからだと思います。Uさんって、Uさんの父方の祖母の若いころと、顔がそっくりなんですよ。それで優先的に狙われたんだと思います。
それと、インターホンを覗いていたのも、やはり怨霊になったUさんの曾祖母です。なんで覗いていたかっていう話なんですけど、それは、次はお前の番だっていうのを伝えたかったからってことですね。
恨んでる相手とかに、絶対許さないからなって言いたくなる時とかあるじゃないですか。それと同じかんじです」
Uさん
「でもそんな、いくらなんでもめちゃくちゃじゃないですか。だって、勝手に恨んで勝手に自殺して、それでなんの関係もない私たちに復讐なんて、おかしいですよね」
伊沢さん
「そうなんです。その曾祖母自身、精神がおかしくなってるんです。もとは怨霊だったかもしれませんが、時間が経ってより恨みが増したことで、人間から化け物に近いものに変化してしまって、今では鬼と呼ばれるものになっています。Uさんに憑いているのは、鬼です」
Uさん
「鬼、ですか。そんなものになってしまっているんですか。ちなみに、それはお祓いすることはできるんでしょうか?」
伊沢さん
「大丈夫です、できます。ただちょっと気をつけてほしいのが、Uさん、だいぶ弱ってますよね。最近、疲れやすくないですか?」
Uさん
「ええ、確かに最近ちょっと、疲れてるような気がしています」
伊沢さん
「今のUさん、ちょっと霊に精神を乗っ取られやすくなっているような状態なので、ちょっとだけ気を張っておいてください。今からお祓いはするんですけど、それだけ気をつけておいてください」
Uさん
「わかりました」
伊沢さん
「ではこれからお祓いを始めますので、楽な姿勢で座っていてください。一応、体は起こしておいてもらえますか?」
Uさん
「はい」
伊沢さんはUさんの背後にまわると、ぱん、と音を立てて手を合わせました。
その時僕は、Uさんの顔を見ていたのですが、途中で異変に気付きました。
彼女ははじめ、不安げな表情でうつむいていました。それがあるときから、目がぐーっと開いていって、ぎらぎらした狂人めいた目になっていったのです。
Uさんがこんな表情をするわけない、と思って、僕はとっさに動き出しました。それが幸いしました。
彼女はぐるっと振り向いたかと思うと、伊沢さんへつかみかかっていったのです。そしてUさんは、彼女の首に手をかけようとしました。
しかしその時にはすでに僕も動き出していて、すぐさまUさんを羽交い絞めにして、伊沢さんから引きはがしました。しかしUさんは女性のものとは思えないような力で暴れていて、抑えつけるのも一苦労でした。
Uさん
「殺してやる! お前の目ん玉引き抜いて、舌も引っこ抜いてやる!」
彼女は大声で怒鳴り散らしました。彼女の意志でしゃべっているとは思えませんでした。明らかに彼女は、鬼に憑依されていました。
伊沢さんは一度つかみかかられたにもかかわらず、落ち着いた様子で手を合わせると、再び気を練り始めました。
と、彼女が僕の右腕に噛みついてきました。その噛む力はすさまじく、激しい痛みを感じました。
あとで噛まれた箇所を見てみたのですが、若干血が出ていました。その時は、それほど強い力で噛みつかれていたのです。
しかしその時は、どんなに痛くても、離すわけにはいきませんでした。そんなことをすれば伊沢さんが襲われてしまいます。ですから、痛いのを我慢して、ものすごい力で暴れるUさんを取り押さえ続けていなければなりませんでした。
やがて伊沢さんは手を離すと、右手を彼女の腹に押し当てました。すると、Uさんの口から悲鳴が出てきました。しかしそれはきっと、彼女に憑依していた鬼の出す声だったのでしょう。
それから伊沢さんは、右手で何かを引き出すようなしぐさをしました。それから、左手で手刀を作って、空を切るような動作をしました。そのあと彼女は何かを確かめるように、何かしらを見ました。それから、顔をあげました。
伊沢さん
「村山君、腕、大丈夫?」
僕
「ちょっと痛いですけど、それだけです。それよりも、Uさんが気を失ってしまいました」
伊沢さん
「それは大丈夫。五分もすれば、意識が戻ると思うから、床に寝かせておいてあげて。それが終わったら、ばんそうこう貼ってあげるから」
それから彼女は、傷口にばんそうこうを貼ってくれました。少しして、Uさんは意識を取り戻しました。
Uさん
「あれ、私、気を失ってました?」
伊沢さん
「はい。でももう、大丈夫ですよ。悪霊は除霊しましたので」
Uさん
「ほんとですか! ありがとうございます!」
こうして無事、お祓いは終了しました。
身内に不幸があったりとか、お葬式に行ったりしたときなどは、穢れがつくからといって、体にお清めの塩をふりかけたり、なにかしらのものごとを控えたりすることがあると思います。
科学的には、死体は不衛生だったからとか、当時なりに感染症対策をしていたんだとか、言う人もいるかと思います。
しかし今回のように、身内の死によって、死者に憑いていたよくないものなどが別の人へ移るという場合もあります。
ですので、お葬式へ行った際は、お気を付けください。しかし怖いからと言って、お葬式に行かないというのはよしたほうがいいです。それはそれで、故人の恨みを買うことになりますし、恨みというのは何より恐ろしいものですから。
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