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佐伯①

ー/ー



 その家に佐伯さん、という人が住んでいるわけではありません。佐伯という苗字の家族が住んでいたのは確かなのですが、その家族がいなくなってからだいぶ経つそうで、その廃屋の周辺にいる人では誰も、佐伯さんのことを知らないほどです。今では、空き家になっています。

 佐伯さんがいなくなって空き家になってからも、何人もの人が出入りしてはいるのですが、それでも昔から変わらず、ずっとそこは”佐伯さんのお家”とか、あるいは単に”佐伯”と呼ばれていたようなのです。

 この時のご依頼者様は、被害に遭ってしまった子供たちの親御さんたちのうち、まだ生きている子供の親御さんたちでした。

 親御さんたちから一通りの事情を聞いたあと、僕はS君という名前の小学五年生の男の子から、何があったのかを聞かせてもらいました。

 この時のS君はかなり緊張していて、さらに動揺していましたので、話し方がおぼつかないかんじではありました。彼に嫌なことを思い出させるのは心苦しかったのですが、霊視のためにはやむをえないということで、話してもらいました。

 彼の話をわかりやすく、しかしなるべく脚色しないかたちで書き起こしたものが、下に書いたものです。

S君
「ある時、A君が”佐伯に行こうぜ”って言いだして。A君はここ最近、ユ〇チューブで親と一緒に心霊系の動画を見てました。そしてA君の見てるユ〇チューバーが、心霊写真の募集をしていたそうなんです。

 そこでA君は、心霊写真を撮ろうと思ったらしいんです。それでまず、カメラを持ってこられるE君を誘って、それから人数が多いほうがいざという時に役立つからっていう理由で僕が誘われました。そしてあともう二人、誘うつもりみたいでした。

 それでいったん学校から家に帰って、あとでA君の家に集合することになりました。

 あとで彼の家に行ってみると、彼とE君だけでなく、二人の女子が二人と一緒になって僕を待っていました。

 その二人の女子のうち一人はA君のひとつ年上の姉の、Mさんっていう人で、もう一人の女子はMさんの同級生のSさんっていう人でした。なんでも、A君が佐伯に行こうとしているのがMさんにばれてしまったみたいで、それでおもしろそうってなったMさんとSさんも一緒に行くことになったんです。

 五人集まったので、僕たちは佐伯に行きました。

 佐伯は僕らの住んでいるところからわりと近いところにあって、僕らの足でも歩いて行けるくらいのところにあります。

 A君は、佐伯にある窓の一つが空いていてそこから入れる、ということを知っていました。そして窓は本当に開いていました。僕たちは窓から佐伯に入りました。

 開いた窓から枯れ葉とか雨が入り込んだせいなのか、部屋の中には枯れ葉などのゴミがいっぱいあって、窓の近くにある畳は腐っていました。

 そこから僕たちは手分けして探索するために、二手に分かれることにしました。一方はA君とE君と僕、もう一方はMさんとSさんです。

 入ってきた最初の部屋を写真で撮ってから、僕たちは部屋から出て左側のほうを探索していきました。

 佐伯の中には、木彫りの人形とか、生活に使っていたであろうものがそのまま残されていました。A君は破れた障子とか、怪しい見た目の木彫りの人形とかを見つけるたびに、あれ撮ってとか、これ撮ってってE君に頼んでいました。そしてA君から指示があるたびに、E君は家から持ってきたデジタルカメラで、写真を撮っていきました。

 そのうち、探索していないのはMさんたちの行ったほうだけになりました。Mさんたちが何か怪しいものを発見したら僕らに教える、という手はずになっていたのですが、Mさんたちは何も言わないどころか、姿も見えませんでした。

 それで僕らは、Mさんたちが進んでいった側のほうへ行きました。そして進んで一番手前の部屋に入ってみると、そこにMさんが立っていたのです。

 Mさんはこっちに背を向けて突っ立ったまま、なにやらぶつぶつと言っていました。

 そしてMさんの足元には、Sさんがあおむけになって倒れていました。

 何かよくないことが起こったんじゃないか、と思って僕が怯えていると、カシャッ、という音がしました。E君が写真を撮った音でした。

 A君は部屋へずんずん入っていくと、姉であるMさんに”何があったんだよ、姉ちゃん”と声をかけました。

 ところがMさんはぶつぶつ何か言うばかりで、返事をしませんでした。A君はそんなMさんに対して、何度も声をかけたのですが、一貫して、彼女は返事もしないし、身動きもしませんでした。

 僕はおそるおそる、彼女に近づきました。何をぶつぶつ言っているのか、気になったからです。

 近くに行って、彼女の言っていることを聞きました。彼女は”ごめんなさい、許してください”を何度も繰り返し言っていたのです。

 E君はしゃがみこんでSさんの様子を見ました。それから少しして”死んでる!”と叫びました。

 Sさんが死んでいる、ということに気づいたA君はすぐさま、”姉ちゃんを連れてみんなでここを出るぞ!”と言いました。

 それで三人でMさんを引っ張っていって、部屋から連れ出しました。それでもMさんはぼーっとしているだけで、自分から歩こうともしませんでした。窓から出る時も、同じようなかんじでした。それで、三人がかりで何とか窓からMさんを外に出しました。

 そのあと、僕の家ならお母さんがいるからっていうことで、僕の家に助けを求めに行きました。

 僕の話を聞いたお母さんは、すぐに警察に電話してくれました。

 警察が来るまでのあいだに”Eが撮った写真を見ようぜ”ってA君に誘われました。でも、僕は断りました。Sさんが死んでしまったのもあって、怖い思いをしたので、もうこれ以上佐伯のことに関わりたくなかったからです。

 そしたらA君は、E君と二人だけで写真を見ました。僕は、あれに何が写っていたのかは、見ていないのでわかりません。ただそのあと起きたことに写真が関わっているのは間違いないと思います。E君が死んだのも、A君がおかしくなっちゃったのも、写真を見た翌日なんです」


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 その家に佐伯さん、という人が住んでいるわけではありません。佐伯という苗字の家族が住んでいたのは確かなのですが、その家族がいなくなってからだいぶ経つそうで、その廃屋の周辺にいる人では誰も、佐伯さんのことを知らないほどです。今では、空き家になっています。
 佐伯さんがいなくなって空き家になってからも、何人もの人が出入りしてはいるのですが、それでも昔から変わらず、ずっとそこは”佐伯さんのお家”とか、あるいは単に”佐伯”と呼ばれていたようなのです。
 この時のご依頼者様は、被害に遭ってしまった子供たちの親御さんたちのうち、まだ生きている子供の親御さんたちでした。
 親御さんたちから一通りの事情を聞いたあと、僕はS君という名前の小学五年生の男の子から、何があったのかを聞かせてもらいました。
 この時のS君はかなり緊張していて、さらに動揺していましたので、話し方がおぼつかないかんじではありました。彼に嫌なことを思い出させるのは心苦しかったのですが、霊視のためにはやむをえないということで、話してもらいました。
 彼の話をわかりやすく、しかしなるべく脚色しないかたちで書き起こしたものが、下に書いたものです。
S君
「ある時、A君が”佐伯に行こうぜ”って言いだして。A君はここ最近、ユ〇チューブで親と一緒に心霊系の動画を見てました。そしてA君の見てるユ〇チューバーが、心霊写真の募集をしていたそうなんです。
 そこでA君は、心霊写真を撮ろうと思ったらしいんです。それでまず、カメラを持ってこられるE君を誘って、それから人数が多いほうがいざという時に役立つからっていう理由で僕が誘われました。そしてあともう二人、誘うつもりみたいでした。
 それでいったん学校から家に帰って、あとでA君の家に集合することになりました。
 あとで彼の家に行ってみると、彼とE君だけでなく、二人の女子が二人と一緒になって僕を待っていました。
 その二人の女子のうち一人はA君のひとつ年上の姉の、Mさんっていう人で、もう一人の女子はMさんの同級生のSさんっていう人でした。なんでも、A君が佐伯に行こうとしているのがMさんにばれてしまったみたいで、それでおもしろそうってなったMさんとSさんも一緒に行くことになったんです。
 五人集まったので、僕たちは佐伯に行きました。
 佐伯は僕らの住んでいるところからわりと近いところにあって、僕らの足でも歩いて行けるくらいのところにあります。
 A君は、佐伯にある窓の一つが空いていてそこから入れる、ということを知っていました。そして窓は本当に開いていました。僕たちは窓から佐伯に入りました。
 開いた窓から枯れ葉とか雨が入り込んだせいなのか、部屋の中には枯れ葉などのゴミがいっぱいあって、窓の近くにある畳は腐っていました。
 そこから僕たちは手分けして探索するために、二手に分かれることにしました。一方はA君とE君と僕、もう一方はMさんとSさんです。
 入ってきた最初の部屋を写真で撮ってから、僕たちは部屋から出て左側のほうを探索していきました。
 佐伯の中には、木彫りの人形とか、生活に使っていたであろうものがそのまま残されていました。A君は破れた障子とか、怪しい見た目の木彫りの人形とかを見つけるたびに、あれ撮ってとか、これ撮ってってE君に頼んでいました。そしてA君から指示があるたびに、E君は家から持ってきたデジタルカメラで、写真を撮っていきました。
 そのうち、探索していないのはMさんたちの行ったほうだけになりました。Mさんたちが何か怪しいものを発見したら僕らに教える、という手はずになっていたのですが、Mさんたちは何も言わないどころか、姿も見えませんでした。
 それで僕らは、Mさんたちが進んでいった側のほうへ行きました。そして進んで一番手前の部屋に入ってみると、そこにMさんが立っていたのです。
 Mさんはこっちに背を向けて突っ立ったまま、なにやらぶつぶつと言っていました。
 そしてMさんの足元には、Sさんがあおむけになって倒れていました。
 何かよくないことが起こったんじゃないか、と思って僕が怯えていると、カシャッ、という音がしました。E君が写真を撮った音でした。
 A君は部屋へずんずん入っていくと、姉であるMさんに”何があったんだよ、姉ちゃん”と声をかけました。
 ところがMさんはぶつぶつ何か言うばかりで、返事をしませんでした。A君はそんなMさんに対して、何度も声をかけたのですが、一貫して、彼女は返事もしないし、身動きもしませんでした。
 僕はおそるおそる、彼女に近づきました。何をぶつぶつ言っているのか、気になったからです。
 近くに行って、彼女の言っていることを聞きました。彼女は”ごめんなさい、許してください”を何度も繰り返し言っていたのです。
 E君はしゃがみこんでSさんの様子を見ました。それから少しして”死んでる!”と叫びました。
 Sさんが死んでいる、ということに気づいたA君はすぐさま、”姉ちゃんを連れてみんなでここを出るぞ!”と言いました。
 それで三人でMさんを引っ張っていって、部屋から連れ出しました。それでもMさんはぼーっとしているだけで、自分から歩こうともしませんでした。窓から出る時も、同じようなかんじでした。それで、三人がかりで何とか窓からMさんを外に出しました。
 そのあと、僕の家ならお母さんがいるからっていうことで、僕の家に助けを求めに行きました。
 僕の話を聞いたお母さんは、すぐに警察に電話してくれました。
 警察が来るまでのあいだに”Eが撮った写真を見ようぜ”ってA君に誘われました。でも、僕は断りました。Sさんが死んでしまったのもあって、怖い思いをしたので、もうこれ以上佐伯のことに関わりたくなかったからです。
 そしたらA君は、E君と二人だけで写真を見ました。僕は、あれに何が写っていたのかは、見ていないのでわかりません。ただそのあと起きたことに写真が関わっているのは間違いないと思います。E君が死んだのも、A君がおかしくなっちゃったのも、写真を見た翌日なんです」