君の話 ―2―
ー/ー
繋ぐ者。それは、8つの理が誕生したのと同時に生まれた役割。このバランスを保ち、繋ぎ止めることが、繋ぐ者の使命。脈々と受け継がれてきたこの役割は時代をめぐり、今はモニカへと継がれている。
しかし、時の流れは残酷だった。受け継がれていく度に繋ぐ者の役割というものは忘れ去られていく。いつしか、繋ぐ者の役割を知るものはほとんどいなくなってしまい、果たすべき使命を自覚することなく継がれ、また継ぐことになっていく。
だが、その循環もここまでだ。長い年月を経て、ついに繋ぐ者の役割を知ろうとするものが現れる。そして、役割を知っているものもまたその覚悟を示すことになったのだ。
「さて、ここで問題。『繋ぐ者』が繋ぎ止めているものって、一体何と何だと思う?」
マーリンの問いにモニカは長考する。繋ぐ者の役割。名前から推測できるのは、何かと何かを繋ぐということだけだ。いくら思考してもずっと見つからない問いを咄嗟に投げかけられて、モニカの頭は真っ白になってしまった。言葉を詰まらせるモニカを見て、マーリンは口を開いた。
「正解は世界だよ」
「…………せ、かい?」
「この世界は、二律する世界が常に対峙しあって均衡を保っているのさ。君は心当たりがあるだろう?」
魔素によって構成される魔法世界、妖気によって構成される冥界。人と妖が生きる2つの世界。その存在は、モニカにも薄っすら感じとれていた。明確に線が引かれているのだ。人間が生きる世界と、妖が生きる世界で。
だが、理は魔法世界と冥界に線を引きつつも、その2つが離れることを許さなかった。そうして生まれたのが『繋ぐ者』という役割だったのだ。生と死の世界を繋ぎ、橋をかける。けれど、その橋の先にある扉が開い開かれることはありえない。そんな、あってないような、必要性すら疑わしい役割こそが『繋ぐ者』だ。
「光があれば闇がある。愛には嘘が、希望には絶望が、正義は悪なくして語ることはできない。それと同じように、生者である私たちが生きる世界の裏側には、冥界が存在しているのさ」
「……それは、願いと呪いの話ですか」
モニカの質問にマーリンは答えなかった。その代わりに、モニカの目を見てにこりと微笑むだけで、口を開かない。それが肯定を意味しているのかは、分からない。けれど、マーリンが答える必要がないと思って口を閉ざしたのなら、きっとそうなのだろうと、モニカは考えることにした。
「二つの世界を繋ぎつつ、均衡も保つ。それが『繋ぐ者』の役割。それはわかってもらえたかな」
「はい」
「じゃあ、次の話に移ろうか」
マーリンが傍に置いていた本を開くと、まるでしかけ絵本のように飛び出す無数の魔法陣が現れた。3重、4重にも重なった魔法陣を映し出す本をゆっくりとモニカに差し出し、マーリンは人差し指を立てて言った。
「指切って、ここに血を垂らしてくれるかい?」
「…………え?」
唐突すぎる意味不明な提案にモニカはまた思考停止する。戸惑うモニカの目の前にずずっと身体を寄せるマーリンは無理やりモニカの腕を掴んだ。
「ちょっ、ちょっと! 嫌ですよ私! 痛いじゃないですか!」
「知ったこっちゃないね!」
「いーやーだー!!」
ポケットから小さく鋭いナイフを取り出し、じわりじわりとモニカの指に近づけていく。悲鳴をあげ、ぷるぷると震えているモニカは必死に抵抗している。未だに注射すら怖がるモニカにとって、血を媒介とする魔法を使うなと正気の沙汰ではない。ましてや、まだ成功したことがない未知の魔法などもってのほかだ。
バタバタと駄々をこねる子どものようにモニカは抵抗するが、マーリンはそれをものともせずにがっしりとモニカの腕を掴んだまま離そうとしない。やがてナイフはモニカの指の目の前まで迫る。今にも触れてしまいそうな瞬間、モニカは顔を逸らし、迫り来るナイフから目を背けた。
ぷつりと、モニカの指先に鋭い痛みが走る。赤い体液は指を伝い、ドクドクと絶え間なく溢れだしてくる。喉の奥から声にならない悲鳴が放り出される。マーリンは心を痛めることも無く、淡々と作業のようにモニカの血を魔法陣へと垂らした。
「転移魔法。数々の魔法使いたちがその開発に必死に取り組んでいるが、未だに実用化には至らない魔法の一つだ」
「な、何の話ですか!」
「今まさにそれが実現しようとしているんだよ。君も見ておくといい」
モニカの血液に反応して光り出す魔法陣。マーリンの飽くなき探究によって前代未聞の魔法、転移魔法が完成されようとしていた。幾重にも重ねられた魔法陣の構成には莫大な魔力を消費することになり、転移させるためには対象との最も強い繋がりが触媒として必要となる。
今回触媒として利用されたのはモニカの血液。本来ならば、血液を触媒とすることで遺伝子を辿り、血縁者が転移させるはずだった。だが、モニカと1番強く繋がっているのは家族ではなく――
「さぁ、くるよ」
一匹の妖だった。
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しかし、時の流れは残酷だった。受け継がれていく度に繋ぐ者の役割というものは忘れ去られていく。いつしか、繋ぐ者の役割を知るものはほとんどいなくなってしまい、果たすべき使命を自覚することなく継がれ、また継ぐことになっていく。
だが、その循環もここまでだ。長い年月を経て、ついに繋ぐ者の役割を知ろうとするものが現れる。そして、役割を知っているものもまたその覚悟を示すことになったのだ。
「さて、ここで問題。『繋ぐ者』が繋ぎ止めているものって、一体何と何だと思う?」
マーリンの問いにモニカは長考する。繋ぐ者の役割。名前から推測できるのは、|何《・》|か《・》|と《・》|何《・》|か《・》|を《・》|繋《・》|ぐ《・》ということだけだ。いくら思考してもずっと見つからない問いを咄嗟に投げかけられて、モニカの頭は真っ白になってしまった。言葉を詰まらせるモニカを見て、マーリンは口を開いた。
「正解は|世《・》|界《・》だよ」
「…………せ、かい?」
「この世界は、二律する世界が常に対峙しあって均衡を保っているのさ。君は心当たりがあるだろう?」
|魔素《マナ》によって構成される魔法世界、妖気によって構成される冥界。人と妖が生きる2つの世界。その存在は、モニカにも薄っすら感じとれていた。明確に線が引かれているのだ。人間が生きる世界と、妖が生きる世界で。
だが、理は魔法世界と冥界に線を引きつつも、その2つが離れることを許さなかった。そうして生まれたのが『繋ぐ者』という役割だったのだ。生と死の世界を繋ぎ、橋をかける。けれど、その橋の先にある扉が開い開かれることはありえない。そんな、あってないような、必要性すら疑わしい役割こそが『繋ぐ者』だ。
「光があれば闇がある。愛には嘘が、希望には絶望が、正義は悪なくして語ることはできない。それと同じように、生者である私たちが生きる世界の裏側には、冥界が存在しているのさ」
「……それは、願いと呪いの話ですか」
モニカの質問にマーリンは答えなかった。その代わりに、モニカの目を見てにこりと微笑むだけで、口を開かない。それが肯定を意味しているのかは、分からない。けれど、マーリンが答える必要がないと思って口を閉ざしたのなら、きっとそうなのだろうと、モニカは考えることにした。
「二つの世界を繋ぎつつ、均衡も保つ。それが『繋ぐ者』の役割。それはわかってもらえたかな」
「はい」
「じゃあ、次の話に移ろうか」
マーリンが傍に置いていた本を開くと、まるでしかけ絵本のように飛び出す無数の魔法陣が現れた。3重、4重にも重なった魔法陣を映し出す本をゆっくりとモニカに差し出し、マーリンは人差し指を立てて言った。
「指切って、ここに血を垂らしてくれるかい?」
「…………え?」
唐突すぎる意味不明な提案にモニカはまた思考停止する。戸惑うモニカの目の前にずずっと身体を寄せるマーリンは無理やりモニカの腕を掴んだ。
「ちょっ、ちょっと! 嫌ですよ私! 痛いじゃないですか!」
「知ったこっちゃないね!」
「いーやーだー!!」
ポケットから小さく鋭いナイフを取り出し、じわりじわりとモニカの指に近づけていく。悲鳴をあげ、ぷるぷると震えているモニカは必死に抵抗している。未だに注射すら怖がるモニカにとって、血を媒介とする魔法を使うなと正気の沙汰ではない。ましてや、まだ成功したことがない未知の魔法などもってのほかだ。
バタバタと駄々をこねる子どものようにモニカは抵抗するが、マーリンはそれをものともせずにがっしりとモニカの腕を掴んだまま離そうとしない。やがてナイフはモニカの指の目の前まで迫る。今にも触れてしまいそうな瞬間、モニカは顔を逸らし、迫り来るナイフから目を背けた。
ぷつりと、モニカの指先に鋭い痛みが走る。赤い体液は指を伝い、ドクドクと絶え間なく溢れだしてくる。喉の奥から声にならない悲鳴が放り出される。マーリンは心を痛めることも無く、淡々と作業のようにモニカの血を魔法陣へと垂らした。
「転移魔法。数々の魔法使いたちがその開発に必死に取り組んでいるが、未だに実用化には至らない魔法の一つだ」
「な、何の話ですか!」
「今まさにそれが実現しようとしているんだよ。君も見ておくといい」
モニカの血液に反応して光り出す魔法陣。マーリンの飽くなき探究によって前代未聞の魔法、転移魔法が完成されようとしていた。幾重にも重ねられた魔法陣の構成には莫大な魔力を消費することになり、転移させるためには対象との|最《・》|も《・》|強《・》|い《・》|繋《・》|が《・》|り《・》が触媒として必要となる。
今回触媒として利用されたのはモニカの血液。本来ならば、血液を触媒とすることで遺伝子を辿り、血縁者が転移させるはずだった。だが、モニカと1番強く繋がっているのは家族ではなく――
「さぁ、くるよ」
一匹の妖だった。