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オイワ様②

ー/ー



Tさん
「それが起こった時、あいにく私は畑に行っておりましたし、Kも仕事にいっておりまして、家にいたのはAさんのみでしたので、ここから先のことはAさんに話してもらおうと思います。ちょっとAさん、お願いね」

Aさん
「はい。その時私は、パートを休んで家にいてYの面倒を見ていました。その時に、お義母さんから言いつけられていたことがあって、絶対にYをこの家から出さないこと、それともし何か恐ろしいものが現れた場合には、この小刀を抜くこと」

 彼女は言って、小刀を取り出してみせました。

Aさん
「あと、定期的にYの名前を呼んで、いるかどうか確認することにしていました。そしてYには、知らない人に声をかけられてもついていってはいけない、と言っておいてありました。

 それをちゃんとやっているあいだは何事もなかったんですが、午後二時頃でしょうか、そのくらいの時刻にトイレが詰まってしまって。水が床にあふれ出すようなことになってしまったものですから、慌てて詰まりを直そうとしたんですね。

 そのあいだ、つい、Yのことが頭から抜けてしまって。Yの名前を呼ぶのも忘れてしまって、十分くらい、ずっとトイレにかかりきりになっているような状態になってしまったんです。

 それでようやく、詰まりが解消されて、一息ついたところで、Yのことを思い出して。

 慌てて名前を呼んでみたんですけど、返事がないんです。それで怖くなってしまって、小刀を手に取って、家中を探し回ったんです。

 そしたら、Yが縁側にいるのが見つかって。よかった、って安心したんです。

 でもその直後に違和感に気づいたんです。なんか、Yが誰かと話してるみたいに何かを喋ってる声が聞こえたんです。うん、とか、わかった、みたいなかんじで。

 でも、Yの目の前には誰もいないし、なんなら窓の向こうには人影すらないんですよ。

 おかしいな、と思っていたら突然、Yが縁側から降りて、家の庭に出てしまったんです。

 まずい、と思って、私は慌ててYのそばへ駆け寄ったんです。

 そうやって私が駆け寄っていくあいだも、Yは誰かと喋っているんです。それで、右手をすっとあげて前へ歩いて行くんです。まるで見えない何かに手をひかれているみたいでした。

 それで、Yをさらおうとする何かがやってきてYを連れ去ろうとしている、と直感で気づきました。

 私は小刀を抜いて、”消えろ、あっち行け!”って怒鳴ったんです。

 そうしたら、はっとしたようにYがこっちを向いて。そのひょうしに、手がだらんと下がりました。

 ”ママ?”ってYがこっちを向いて言ってきました。それまで私のことに気づいてなかったんだ、と思って、恐ろしくなって、Yを抱え上げて家の中に戻りました。

 家の中に戻ってから”なんで外に出たりしたの?”って聞いたんです。そしたらYは、着物を着た男の子が来たんだって言うんです。

 ”おばあちゃんが呼んでるよ。一緒に来て”とその男の子は言ったそうです。それから、Yの手を引いて案内しようとしたって。

 でも私、そんな子供見てないんですよ。それでもう、Yが見たのはきっとオイワ様だと思ったんですけど、どうなんでしょうか? やはり、オイワ様だったんでしょうか?」

伊沢さん
「おそらく、オイワ様と呼ばれているものだと思います」

 彼女は答えました。

伊沢さん
「私には、人の霊には見えませんでした。どちらかといえば、神に近い何か、まあ神霊ですね、それのように思えました」

Kさん
「それは危険なものなんですか?」

伊沢さん
「危険ですね。神霊そのものは、いいものも悪いものもいるんですけど、人をさらおうとするものなので、危険なもので間違いないと思います。

 それで、Y君は着物を着た子供だけ見えたって言ってたと思うんですけど」

Aさん
「はい。でも私にはその子供が見えなくて」

伊沢さん
「それはやはり、子供のほうが霊的なものとも波長が合いやすいのと、あとは神霊も姿を見せる相手を選ぶ、ということができるので、それでY君にだけ姿が見えたのだと思います。ただ、先ほど、背中にも触ったあとがあると言ったじゃないですか」

Aさん
「はい」

伊沢さん
「来てたのが、一体だけじゃないんです。たくさんいたんですよ、外にも。外にY君が出たときにも、彼に見えていた男の子だけじゃなくて、その仲間たちが庭にいっぱいいて、Y君が走ってるときに後ろからぐいぐい背中を押してたんですね。だから、背中にも触られた痕跡がついてたんですね」

Aさん
「ええっ」

 Aさんは怯えていました。Kさんも、深刻そうに眉をひそめていました。

伊沢さん
「たぶん、オイワ様というのは一体の神様を指すのではなく、それら全体を総称して、オイワ様としているんだと思います。ちょっと数が多いので、今回のはなかなかちょっと、難しいかもしれません。でも、やれるだけのことはやってみます」

Kさん
「ちなみにそれは、お祓いなんかはできるんでしょうか?」

伊沢さん
「祓う、というのはちょっと違いますね。どちらかというと、交渉することになります。やはり、相手が神様なので、倒すことはできませんので。話を聞いて、納得させる、というようなかたちになると思います」

Kさん
「わかりました。よろしくお願いします」

伊沢さん
「今はちょっと、私のことを警戒してるのか、近くにはいないみたいで、気配がないんですけど。ちょっと、呼んでみて話を聞いてみますね。ちょっと、お庭をお借りします」

Kさん
「わ、わかりました」



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Tさん
「それが起こった時、あいにく私は畑に行っておりましたし、Kも仕事にいっておりまして、家にいたのはAさんのみでしたので、ここから先のことはAさんに話してもらおうと思います。ちょっとAさん、お願いね」
Aさん
「はい。その時私は、パートを休んで家にいてYの面倒を見ていました。その時に、お義母さんから言いつけられていたことがあって、絶対にYをこの家から出さないこと、それともし何か恐ろしいものが現れた場合には、この小刀を抜くこと」
 彼女は言って、小刀を取り出してみせました。
Aさん
「あと、定期的にYの名前を呼んで、いるかどうか確認することにしていました。そしてYには、知らない人に声をかけられてもついていってはいけない、と言っておいてありました。
 それをちゃんとやっているあいだは何事もなかったんですが、午後二時頃でしょうか、そのくらいの時刻にトイレが詰まってしまって。水が床にあふれ出すようなことになってしまったものですから、慌てて詰まりを直そうとしたんですね。
 そのあいだ、つい、Yのことが頭から抜けてしまって。Yの名前を呼ぶのも忘れてしまって、十分くらい、ずっとトイレにかかりきりになっているような状態になってしまったんです。
 それでようやく、詰まりが解消されて、一息ついたところで、Yのことを思い出して。
 慌てて名前を呼んでみたんですけど、返事がないんです。それで怖くなってしまって、小刀を手に取って、家中を探し回ったんです。
 そしたら、Yが縁側にいるのが見つかって。よかった、って安心したんです。
 でもその直後に違和感に気づいたんです。なんか、Yが誰かと話してるみたいに何かを喋ってる声が聞こえたんです。うん、とか、わかった、みたいなかんじで。
 でも、Yの目の前には誰もいないし、なんなら窓の向こうには人影すらないんですよ。
 おかしいな、と思っていたら突然、Yが縁側から降りて、家の庭に出てしまったんです。
 まずい、と思って、私は慌ててYのそばへ駆け寄ったんです。
 そうやって私が駆け寄っていくあいだも、Yは誰かと喋っているんです。それで、右手をすっとあげて前へ歩いて行くんです。まるで見えない何かに手をひかれているみたいでした。
 それで、Yをさらおうとする何かがやってきてYを連れ去ろうとしている、と直感で気づきました。
 私は小刀を抜いて、”消えろ、あっち行け!”って怒鳴ったんです。
 そうしたら、はっとしたようにYがこっちを向いて。そのひょうしに、手がだらんと下がりました。
 ”ママ?”ってYがこっちを向いて言ってきました。それまで私のことに気づいてなかったんだ、と思って、恐ろしくなって、Yを抱え上げて家の中に戻りました。
 家の中に戻ってから”なんで外に出たりしたの?”って聞いたんです。そしたらYは、着物を着た男の子が来たんだって言うんです。
 ”おばあちゃんが呼んでるよ。一緒に来て”とその男の子は言ったそうです。それから、Yの手を引いて案内しようとしたって。
 でも私、そんな子供見てないんですよ。それでもう、Yが見たのはきっとオイワ様だと思ったんですけど、どうなんでしょうか? やはり、オイワ様だったんでしょうか?」
伊沢さん
「おそらく、オイワ様と呼ばれているものだと思います」
 彼女は答えました。
伊沢さん
「私には、人の霊には見えませんでした。どちらかといえば、神に近い何か、まあ神霊ですね、それのように思えました」
Kさん
「それは危険なものなんですか?」
伊沢さん
「危険ですね。神霊そのものは、いいものも悪いものもいるんですけど、人をさらおうとするものなので、危険なもので間違いないと思います。
 それで、Y君は着物を着た子供だけ見えたって言ってたと思うんですけど」
Aさん
「はい。でも私にはその子供が見えなくて」
伊沢さん
「それはやはり、子供のほうが霊的なものとも波長が合いやすいのと、あとは神霊も姿を見せる相手を選ぶ、ということができるので、それでY君にだけ姿が見えたのだと思います。ただ、先ほど、背中にも触ったあとがあると言ったじゃないですか」
Aさん
「はい」
伊沢さん
「来てたのが、一体だけじゃないんです。たくさんいたんですよ、外にも。外にY君が出たときにも、彼に見えていた男の子だけじゃなくて、その仲間たちが庭にいっぱいいて、Y君が走ってるときに後ろからぐいぐい背中を押してたんですね。だから、背中にも触られた痕跡がついてたんですね」
Aさん
「ええっ」
 Aさんは怯えていました。Kさんも、深刻そうに眉をひそめていました。
伊沢さん
「たぶん、オイワ様というのは一体の神様を指すのではなく、それら全体を総称して、オイワ様としているんだと思います。ちょっと数が多いので、今回のはなかなかちょっと、難しいかもしれません。でも、やれるだけのことはやってみます」
Kさん
「ちなみにそれは、お祓いなんかはできるんでしょうか?」
伊沢さん
「祓う、というのはちょっと違いますね。どちらかというと、交渉することになります。やはり、相手が神様なので、倒すことはできませんので。話を聞いて、納得させる、というようなかたちになると思います」
Kさん
「わかりました。よろしくお願いします」
伊沢さん
「今はちょっと、私のことを警戒してるのか、近くにはいないみたいで、気配がないんですけど。ちょっと、呼んでみて話を聞いてみますね。ちょっと、お庭をお借りします」
Kさん
「わ、わかりました」