オイワ様①
ー/ー この時の依頼は、ある一族からのものでした。Kさんと、その奥さんであるAさん、そして子供のY君、それとKさんの曾祖母であるTさんの四人がこの問題の中心人物となります。
その中でも特に重要な人物が、Y君でした。それというのも、このY君がオイワ様にさらわれるのを止めてほしい、というのが今回の依頼だったのです。
なんでもそのY君は今、お父さんのKさんや、曾祖母にあたるTさんたちと一緒に山奥にある家に、かくまわれるようなかたちで避難しているとのことでした。オイワ様の手を逃れるため、だそうです。
しかしオイワ様というのがいったいなんなのかまではKさんたちも知らないようでした。また、伊沢さんによる電話越しでの霊視だけでは、その正体はわかりませんでした。それで、現地にいかなければわからない、というようなことになったわけです。
そういうわけで出発しようとしたのですが、ここで思わぬトラブルが発生してしまいました。なんと、伊沢さんが熱中症で体調を崩してしまったのです。
これには僕もびっくりしてしまいました。なにしろ時期がまだ梅雨でしたので、こんな時期に熱中症になるのか、と驚いた記憶があります。
暑くなってきたとはいえ、まだそれほど暑い時期でもありませんでした。伊沢さんが言うには、オイワ様と呼ばれる何かが彼女の来るのを妨害しようとしたのだろう、とのことでした。
彼女でさえダウンさせてしまうほどの存在とは、いったいどれほど強いものなのかと、僕は少し不安になってしまいました。
ともあれ、倒れてしまった彼女を病院に連れていって、治療をしてもらいました。そのあと彼女は、家で一日安静にしていました。
そういうわけで、一日遅れで指定された場所へ車で行くことになったのですが、道中、Kさんから電話がかかってきました。なんでも、子供がオイワ様と思われる何かにさらわれかけたというのです。
心配にはなりましたが、焦って事故に遭ってはそれこそ子供をさらおうとする何かの思うつぼです。僕は慣れない山道を慎重に車で進んでいって、家へと向かいました。
山、といってもそれほど登ったわけではありません。国道から外れて、急斜面を少し登ったところにある、住宅街の一角にその家はありました。
門前に榊を飾ってある家だ、とあらかじめ教えられていたので、すぐに見つかりました。
門のところにチャイムはありませんでした。門は外からでも手で錠をかけおろしできる形になっていて、人の侵入を阻むような造りにはなっていませんでした。してみるとこれは、魔除けとしての効果のみを期待して設置したものなのでしょう。
それをくぐっていって、玄関口に立って、チャイムを鳴らしました。すると、Kさんと思われる男性が玄関を開けてくれました。彼は眼鏡をかけたイケメンの、三十代くらいの男性でした。
玄関の両脇には、盛り塩が置かれていました。これも魔除けでしょう。そして玄関にある靴箱の上には、シーサーが置いてありました。
家へ入っていくと、居間に案内されました。そこで待っていると間もなく、眼鏡をかけてポニーテールにした女性(Aさん)と、髪が真っ白のおばあさん(Tさん)、そして真っ白な着物に身を包んだY君がやってきました。
伊沢さん
「その子がY君ですか?」
Kさん
「はい」
伊沢さん
「ちょっと、触られた痕跡がありますね。悪霊とかではないと思うんですが、たぶんさらわれかけた時に触られたんでしょうね」
Kさん
「なんでも、手を引っ張られたらしくて、それじゃないかって思うんですけど?」
伊沢さん
「手、だけじゃないですね。背中にもけっこうついてます」
彼女がそう言うと、あたりがしん、となりました。たぶん、Kさんたちはその話を聞いて怖くなってしまったのでしょう。
僕
「でも、悪いものではないんですよね?」
伊沢さん
「痕跡自体はついていて悪いものではなさそうなので、別に何か問題があるわけではないです。消そうと思えば消せますので、あとで消しておきますね」
Kさん
「ありがとうございます」
僕
「では改めて、これまでの経緯や、ここまでの間に起こったことというのを教えていただけますか?」
Kさん
「わかりました。そのなんですか、はじめは僕の祖母が言い出したことがあって、この家に来ることになったんですけど」
彼はちら、とTさんのほうに目を向けました。
Tさん
「我がK家は、オイワ様に祟られているのです」
僕
「祟られている、というのは?」
Tさん
「代々、K家の長男はオイワ様にさらわれると言われていて、私はK家の次男と結婚したのですが、その夫も、やはり長男が五歳の頃に失踪したと言っておりました。
そのようなことが私の夫の代まで続いていて、私も息子を産んだわけですが、このままいくとオイワ様にさらわれてしまう、というような次第になりました。
しかし大事な家の長男がさらわれては家が立ち行かなくなる、ということで私の夫は、家に魔除けを施すと、座敷に長男を隠し、そしてオイワ様と相対したというのです。そしてどうやったのかはわかりませんが、そのオイワ様を私の夫は追い返して、無事私の息子は神隠しに遭わずに済んだわけです。
夫は、長男が結婚して子供が生まれると、その時もまた同じようにして、オイワ様を追い払ったのです。
ところが、ここへきて問題が起こりました。つい六年ほど前に私の夫が亡くなったのですが、夫は死ぬまでとうとう、そのオイワ様を追い払う方法を誰にも教えなかったのです。
ゆえに、オイワ様を追い払うことのできる者が、もうこの家にはいないのです。魔除けのやり方は私もやっていたから知っております。しかし追い払い方は知りません。
ひとまず、五歳になったひ孫をこの家へかくまったはいいのですが、まさかこれから一生、この家に閉じ込めておくわけにもいきませんから、どうにかしなければなりません。
それに、魔除けも完全にオイワ様を退けられるわけではないようで、つい昨日ですね、少し心配になるようなできごとが起こったのでございます」
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