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戦いの後

ー/ー



 記憶する者(レコーダー)との激闘から2日が経った。まだ、あの戦いを鮮明に思い出せるほど、深く記憶に刻まれた、まさしく死闘と言える闘いだった。この闘いを経て、旭たちは改めて、不鮮明で不明瞭な悪夢の怪物(ナイトメア)という化け物の強さを認識させられたのだった。『不死』のなり損ないといえど、その強さは()()()()()()と呼ぶのに相応しい。何度傷つけても再生する肉体、人間を遥かに凌駕した膂力、そして、旭たちの行動や攻撃を予測し、学習する知能。勝てたのは偶然に偶然が重なった結果、奇跡と言ってもいい。
 そんな相手との戦いの後、旭たちの身体は当然ボロボロになっていた。疲れきった身体は、ベッドに身体を預けた瞬間に、瞼の重みに逆らえず眠ってしまえるほどに疲労している。
 時計の針が綺麗に一回転した頃、旭はまだ重いまぶたを開いた。疲れ果てて一日中眠ってしまっていたようだったが、空腹感が旭を目覚めさせた。旭はそのまま伸びをすると部屋を後にして国綱たちを無理やり叩き起こす。宿で一休みして、それでもまだ痛みの引かない身体を引きずり、3人はある場所を訪れた。


「……ここは?」

「腹減ったからまずは飯だ。傷が治っても腹が減ってちゃ動けねぇだろ」

「まだ傷は治ってないんだが……まぁいいか」


 旭は食欲に誘われるがままに、個金額的にもそれなりに良さそうな店を選び、国綱たちを連れて入店した。まだ客も少ない時間だからか、店内に人気は見えず閑散としていた。国綱はヴェローニカを隣に座らせて、旭と対面するように腰を下ろした。まるで面接でも始まるような緊張が二人の間に走る。
 旭は突き刺さる真剣な眼差しを見なかったことにして、わざとらしくテーブル横にあるメニュー表に目をやった。視線は途切れることなく、国綱はいつまでもジロジロと旭を見つめてくる。最初は我慢していた旭だったが数分で限界が来たようで、大きくため息をついて改めて旭は国綱と目を合わせた。


「金ならあるぞ」

「そういうことじゃない」

「そうかよ。じゃあ遠慮せずに食え」

「そういうことでもない。旭、僕の言いたいことは分かっているだろう」

 旭は再び、国綱の耳に届くように大きくため息をついた。呆れたような、含みを持たせたため息だった。


()()()()()()()()()()()

「……聞いて欲しいのかよ。欲しがりな野郎だぜ」


 ヴェローニカは火花を散らす2人の横で肩身が狭そうに、チビチビと冷水を飲んでいた。小動物のような怯え方をしているようで、店員もチラチラと旭たちの様子を窺っている。何となく感じる疎外感からか、ヴェローニカは通り過ぎる店員に会釈をしたり、メニュー表を見たり、どこか落ち着かない様子でぎこちなくしていた。そんなヴェローニカに気を使うこともなく、旭たちは話を続ける。


「端的に言うと、興味がない。それと、お前らの問題に首を突っ込みたくない。お前らの居場所を知ってるってバレちまったら色んな奴らから問い詰められる」


 空のコップに入った氷を噛み砕き、旭は面倒くさそうに言う。それは旭の本心からの言葉だったのだろうが、国綱は納得いっていないようで眉をひそめた。
 旭は通りかかった店員を呼び止め、適当に料理を注文した。店のオススメらしい料理を数品と、目に止まった一品を少し頼んで、再び国綱と目を合わせる。


「もう帰ってこいなんて言わねぇよ。お前がそうしたいと思うならやればいいんじゃねぇのかって、今は思ってる」

「……お前は、それでもいいのか」

「なんだよ。やっぱり呼び止めて欲しかったか?」


 旭はにやりと笑って、煽るように上から国綱を見下す。反射的に国綱の手が刀に伸びるが、それが抜かれることはなかった。万華鏡(カレイドスコープ)の影響は国綱の想像以上に長引き、一日中ぐっすり休んだ後でも視界がぼやけるような反動があった。とはいえ、真剣を持っている国綱相手にそんなことができるのは旭かレオノールくらいだろう。


「まぁ、行き詰まって困り果てたら俺たちを頼りに来い。手は貸してやる」

「……帰らないよ。僕はこれからヴェローニカと一緒に生きていく」

「エルフの女とか? 厄介事しかねぇぞ」

「それでもだ」


 それ以上、旭も国綱も何も言葉を交わすことはなかった。料理の到着を待っている間、あまりの沈黙に耐えかねたヴェローニカがどうにか場を盛り上げようと旭に話題を振った。


「そ、そういえば! 皆さま様子は大丈夫ですか? ずっと会うことがなかったので心配で……」

「直接会いに行けばいいんじゃねぇのか」

「ううっ……」


 あまりに鋭い旭の何気ない言葉の刃に貫かれる。その通りすぎる正論に言い返すこともできず、ヴェローニカはまた頭を悩ませて話題を考える。
 そんな時に、店員がようやく料理を持って現れた。待ちくたびれたのか、旭は子どもみたいに目を輝かせて目の前に料理を置いた。その料理を見て、ヴェローニカは思わず言った。


「フレンチトースト……騎獅道さん、お好きなんですか?」

「あ? 別に好きってわけじゃねぇけど……何となく目についてな。何かあったか?」

「いえ……その、確か、モニカの得意な料理なんですよ。フレンチトースト。一度頂いたことがあって、つい」


 その言葉を聞いて、旭はピタリと手を止めた。きつね色にこんがりと焼き目をつけたフレンチトーストが妙に気になってしまう。どこか、覚えのある匂いに、旭は思考をめぐらせた。


「……また、そいつの話か」

「…………何を言っているんだ、旭。クラスメイトだろう?」

「面倒なことに巻き込まれててな。事情があって記憶にねぇんだよ。そのモニカってやつのこと」


 旭の言葉を国綱は目を見開いた。そして、ヴェローニカに小さな声で耳打ちする。内緒話のような事を目の前でされて露骨に機嫌を悪くさせる旭に、国綱は言った。


「これを食べ終えたら、お前はすぐにエストレイラさんの所へ行け」

「私もそれがいいと思います。あなたはモニカを思い出さなくてはいけない」


 旭は何か裏があるのではないかと一瞬勘ぐったが、親友の言葉を素直に聞き入れ、遅れて運ばれてきたハンバーグにパクリとかぶりついた。


「で、お前らはこれからどうすんだよ」

「……さぁ? あてもなく流浪の旅に」


 どこかへ行く、とだけ国綱は言った。
 それからは黙々と空腹を満たすように料理を食べ尽くした。ガツガツと美味そうに食べる旭に対して、国綱とヴェローニカは行儀よく綺麗に料理を口に運んでいく。最終的な値段は旭の想像以上だったようで、会計時にどこから出ているのか分からない奇妙な声を出していた。

 国綱はレオノールにも別れの挨拶をしに尋ねると言って店を後にした。別れる時に見た旭の寂しそうな顔を、もう忘れることは無いだろう。


「それじゃあ、僕たちも行こうか」

「はい」


 何を言わずとも差し出された手を握り返し、2人は旭とは反対の道をゆっくりと歩いていった。あてもなく、行方もなく、ただ旅をする。その果てに何があるのかも知らず、2人は歩き始めた。


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 そんな相手との戦いの後、旭たちの身体は当然ボロボロになっていた。疲れきった身体は、ベッドに身体を預けた瞬間に、瞼の重みに逆らえず眠ってしまえるほどに疲労している。
 時計の針が綺麗に一回転した頃、旭はまだ重いまぶたを開いた。疲れ果てて一日中眠ってしまっていたようだったが、空腹感が旭を目覚めさせた。旭はそのまま伸びをすると部屋を後にして国綱たちを無理やり叩き起こす。宿で一休みして、それでもまだ痛みの引かない身体を引きずり、3人はある場所を訪れた。
「……ここは?」
「腹減ったからまずは飯だ。傷が治っても腹が減ってちゃ動けねぇだろ」
「まだ傷は治ってないんだが……まぁいいか」
 旭は食欲に誘われるがままに、個金額的にもそれなりに良さそうな店を選び、国綱たちを連れて入店した。まだ客も少ない時間だからか、店内に人気は見えず閑散としていた。国綱はヴェローニカを隣に座らせて、旭と対面するように腰を下ろした。まるで面接でも始まるような緊張が二人の間に走る。
 旭は突き刺さる真剣な眼差しを見なかったことにして、わざとらしくテーブル横にあるメニュー表に目をやった。視線は途切れることなく、国綱はいつまでもジロジロと旭を見つめてくる。最初は我慢していた旭だったが数分で限界が来たようで、大きくため息をついて改めて旭は国綱と目を合わせた。
「金ならあるぞ」
「そういうことじゃない」
「そうかよ。じゃあ遠慮せずに食え」
「そういうことでもない。旭、僕の言いたいことは分かっているだろう」
 旭は再び、国綱の耳に届くように大きくため息をついた。呆れたような、含みを持たせたため息だった。
「|な《・》|ん《・》|で《・》|何《・》|も《・》|聞《・》|か《・》|な《・》|い《・》|ん《・》|だ《・》」
「……聞いて欲しいのかよ。欲しがりな野郎だぜ」
 ヴェローニカは火花を散らす2人の横で肩身が狭そうに、チビチビと冷水を飲んでいた。小動物のような怯え方をしているようで、店員もチラチラと旭たちの様子を窺っている。何となく感じる疎外感からか、ヴェローニカは通り過ぎる店員に会釈をしたり、メニュー表を見たり、どこか落ち着かない様子でぎこちなくしていた。そんなヴェローニカに気を使うこともなく、旭たちは話を続ける。
「端的に言うと、興味がない。それと、お前らの問題に首を突っ込みたくない。お前らの居場所を知ってるってバレちまったら色んな奴らから問い詰められる」
 空のコップに入った氷を噛み砕き、旭は面倒くさそうに言う。それは旭の本心からの言葉だったのだろうが、国綱は納得いっていないようで眉をひそめた。
 旭は通りかかった店員を呼び止め、適当に料理を注文した。店のオススメらしい料理を数品と、目に止まった一品を少し頼んで、再び国綱と目を合わせる。
「もう帰ってこいなんて言わねぇよ。お前がそうしたいと思うならやればいいんじゃねぇのかって、今は思ってる」
「……お前は、それでもいいのか」
「なんだよ。やっぱり呼び止めて欲しかったか?」
 旭はにやりと笑って、煽るように上から国綱を見下す。反射的に国綱の手が刀に伸びるが、それが抜かれることはなかった。|万華鏡《カレイドスコープ》の影響は国綱の想像以上に長引き、一日中ぐっすり休んだ後でも視界がぼやけるような反動があった。とはいえ、真剣を持っている国綱相手にそんなことができるのは旭かレオノールくらいだろう。
「まぁ、行き詰まって困り果てたら俺たちを頼りに来い。手は貸してやる」
「……帰らないよ。僕はこれからヴェローニカと一緒に生きていく」
「エルフの女とか? 厄介事しかねぇぞ」
「それでもだ」
 それ以上、旭も国綱も何も言葉を交わすことはなかった。料理の到着を待っている間、あまりの沈黙に耐えかねたヴェローニカがどうにか場を盛り上げようと旭に話題を振った。
「そ、そういえば! 皆さま様子は大丈夫ですか? ずっと会うことがなかったので心配で……」
「直接会いに行けばいいんじゃねぇのか」
「ううっ……」
 あまりに鋭い旭の何気ない言葉の刃に貫かれる。その通りすぎる正論に言い返すこともできず、ヴェローニカはまた頭を悩ませて話題を考える。
 そんな時に、店員がようやく料理を持って現れた。待ちくたびれたのか、旭は子どもみたいに目を輝かせて目の前に料理を置いた。その料理を見て、ヴェローニカは思わず言った。
「フレンチトースト……騎獅道さん、お好きなんですか?」
「あ? 別に好きってわけじゃねぇけど……何となく目についてな。何かあったか?」
「いえ……その、確か、モニカの得意な料理なんですよ。フレンチトースト。一度頂いたことがあって、つい」
 その言葉を聞いて、旭はピタリと手を止めた。きつね色にこんがりと焼き目をつけたフレンチトーストが妙に気になってしまう。どこか、覚えのある匂いに、旭は思考をめぐらせた。
「……また、そいつの話か」
「…………何を言っているんだ、旭。クラスメイトだろう?」
「面倒なことに巻き込まれててな。事情があって記憶にねぇんだよ。そのモニカってやつのこと」
 旭の言葉を国綱は目を見開いた。そして、ヴェローニカに小さな声で耳打ちする。内緒話のような事を目の前でされて露骨に機嫌を悪くさせる旭に、国綱は言った。
「これを食べ終えたら、お前はすぐにエストレイラさんの所へ行け」
「私もそれがいいと思います。あなたはモニカを思い出さなくてはいけない」
 旭は何か裏があるのではないかと一瞬勘ぐったが、親友の言葉を素直に聞き入れ、遅れて運ばれてきたハンバーグにパクリとかぶりついた。
「で、お前らはこれからどうすんだよ」
「……さぁ? あてもなく流浪の旅に」
 どこかへ行く、とだけ国綱は言った。
 それからは黙々と空腹を満たすように料理を食べ尽くした。ガツガツと美味そうに食べる旭に対して、国綱とヴェローニカは行儀よく綺麗に料理を口に運んでいく。最終的な値段は旭の想像以上だったようで、会計時にどこから出ているのか分からない奇妙な声を出していた。
 国綱はレオノールにも別れの挨拶をしに尋ねると言って店を後にした。別れる時に見た旭の寂しそうな顔を、もう忘れることは無いだろう。
「それじゃあ、僕たちも行こうか」
「はい」
 何を言わずとも差し出された手を握り返し、2人は旭とは反対の道をゆっくりと歩いていった。あてもなく、行方もなく、ただ旅をする。その果てに何があるのかも知らず、2人は歩き始めた。