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404号室

ー/ー



 依頼主のIさんは、三十代くらいの男性でした。その方はアパートを持っていたのですが、そのアパートのある一室に住んだ人が相次いで亡くなっている、とのことでした。

Iさん
「一番最初の方は女性の方で、明るい方だったんですけど、ある日突然、ベランダから飛び降りて自殺してしまって。それで、事故物件となってしまったので、心理的瑕疵物件として貸し出すことになりました。でも家賃を安くしたことが幸いしたのか、二週間くらいで男性の方が入られまして。

 ところがその方も、首吊り自殺みたいなことをやってしまわれまして。これはもう、次はないかなって思っていたんですけど、また借りる人が出てきてくださって。

 ところが、その人は今度、夜中に心臓まひで亡くなってしまわれて。それも、お年寄りの方ならわかるんですけど、その方、まだ二十代前半の男性なんですよ。ここへきて、さすがにちょっと怖くなってきてしまいまして。この部屋に何か、よくないものがとり憑いたりしてないかどうか調べていただきたくて、こうして相談させていただいたんですけれども」

伊沢さん
「わかりました。それではまず、部屋の中を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

Iさん
「あ、全然かまいませんよ。ご案内します」

 彼は立ち上がると、先に立って、僕らを問題の部屋へと案内し始めました。

 エレベーターを使って四階まであがっていきました。そして廊下を歩いている途中に、それは起きました。

 突然、Iさんが走り出したのです。何かあったのか、と思って僕は思わず、前の方を見ました。しかし、彼が走り出す理由になりそうなものは、何もありませんでした。

伊沢さん
「Iさんを止めて!」

 彼女が叫びました。僕ははじめ、意味が分かりませんでした。しかし分からないながらも、走って彼を追いかけました。

 彼は404号室のドアを開けて、中へ入っていきました。僕も彼のあとを追って、404号室へと入っていきました。

 そこで僕が見たのは、窓を開けて外へと出て行くIさんの姿でした。

 彼はベランダに出て、それを乗り越えていきました。彼はベランダから下へ落下して、姿を消しました。ショックのあまり、ぼう然としていると、いきなりぐいっと左手を引っ張られました。そして部屋の外へ連れ出されました。

 僕を引っ張ったのは、伊沢さんでした。彼女は僕を部屋から連れ出すと、ドアをものすごい勢いで閉めました。

「伊沢さん、Iさんがベランダから」

伊沢さん
「ベランダから、どうしたの?」

「ベランダから落ちました」

 〇

 後日、Iさんの父親を呼んで、改めて部屋のことについて、伊沢さんのほうから説明する機会がありました。

伊沢さん
「あの部屋は、あの世につながっています」

Iさんの父親
「あの世、ですか?」

伊沢さん
「はい。正確には部屋、というよりも土地ですね。だから、404号室だけじゃなくて、その上と下の部屋、504、304、204、104っていう風に全部の部屋があの世につながっています。あの部屋にいると死霊にあの世へ引きずり込まれるんです」

Iさんの父親
「しかし、息子はあの部屋には住んでいなかったはずです」

伊沢さん
「そこはまた、ちょっと事情が違くて。さっき、死霊があの世へ引きずり込むって言ったんですけど、いったん誰かを引きずり込んで生きている人がいなくなると、今度は霊たちが人を呼ぶんです。そしてあの部屋が空にならないようにするんです。あの部屋に短い期間で何人も借り手がついたのは、そういうことです。家賃がとか安かったっていうのはもちろんあると思いますけど、死霊たちに呼ばれてたんです。

 でも、あの時息子さんは、あの部屋の貸し出しを止めていました。それであの部屋が空になってしまっていたから、代わりに呼ばれたんですよ」

Iさんの父親
「なんで、死霊たちは人を呼ぶんですか?」

伊沢さん
「仲間を欲しがってるんです。生きている人がうらやましいとか、ねたましいとかそういう気持ちで、引きずり込もうとするんです」

Iさんの父親
「そんなことが・・・・・・。あのアパートは、これから私が所有することになるわけですが、その、お祓いとかはできるのでしょうか?」

伊沢さん
「あれは祓うようなものではありません。そういう土地として扱うしかありません。対処法として一番いいのは、更地にしてしまうことですなんですけど」

Iさんの父親
「更地にするのは、ちょっと難しいですね」

伊沢さん
「それだったら、あの部屋を完全に誰も入れないようにして封印をするか、あのアパートを手放すかのどちらかですね。どちらにせよ、あの部屋に人が住むことはできませんから」

 彼はしばらく考えるようなそぶりをしていました。やがて、彼は口を開きました。

Iさんの父親
「手放します。息子の命をとられたまま終わるのは悔しいですが、これ以上犠牲を出さないためには、やむをえないと思います。誰かに息子と同じ目に遭ってほしくはないですから」

 そのあと、404号室と、その上下にある部屋すべてに伊沢さんは結界を施しました。そうすることで、中にいる死霊たちが外に出て、アパートに残っている住人たちに悪さをしないようにしたのです。

 これは後日談ですが、のちにそのアパートのあった土地は、ある企業に買い取られたそうです。そしてアパートがあったところには、新たにオフィスが建ったそうです。今のところ、そこでまだ死者は出ていないようです。


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 依頼主のIさんは、三十代くらいの男性でした。その方はアパートを持っていたのですが、そのアパートのある一室に住んだ人が相次いで亡くなっている、とのことでした。
Iさん
「一番最初の方は女性の方で、明るい方だったんですけど、ある日突然、ベランダから飛び降りて自殺してしまって。それで、事故物件となってしまったので、心理的瑕疵物件として貸し出すことになりました。でも家賃を安くしたことが幸いしたのか、二週間くらいで男性の方が入られまして。
 ところがその方も、首吊り自殺みたいなことをやってしまわれまして。これはもう、次はないかなって思っていたんですけど、また借りる人が出てきてくださって。
 ところが、その人は今度、夜中に心臓まひで亡くなってしまわれて。それも、お年寄りの方ならわかるんですけど、その方、まだ二十代前半の男性なんですよ。ここへきて、さすがにちょっと怖くなってきてしまいまして。この部屋に何か、よくないものがとり憑いたりしてないかどうか調べていただきたくて、こうして相談させていただいたんですけれども」
伊沢さん
「わかりました。それではまず、部屋の中を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
Iさん
「あ、全然かまいませんよ。ご案内します」
 彼は立ち上がると、先に立って、僕らを問題の部屋へと案内し始めました。
 エレベーターを使って四階まであがっていきました。そして廊下を歩いている途中に、それは起きました。
 突然、Iさんが走り出したのです。何かあったのか、と思って僕は思わず、前の方を見ました。しかし、彼が走り出す理由になりそうなものは、何もありませんでした。
伊沢さん
「Iさんを止めて!」
 彼女が叫びました。僕ははじめ、意味が分かりませんでした。しかし分からないながらも、走って彼を追いかけました。
 彼は404号室のドアを開けて、中へ入っていきました。僕も彼のあとを追って、404号室へと入っていきました。
 そこで僕が見たのは、窓を開けて外へと出て行くIさんの姿でした。
 彼はベランダに出て、それを乗り越えていきました。彼はベランダから下へ落下して、姿を消しました。ショックのあまり、ぼう然としていると、いきなりぐいっと左手を引っ張られました。そして部屋の外へ連れ出されました。
 僕を引っ張ったのは、伊沢さんでした。彼女は僕を部屋から連れ出すと、ドアをものすごい勢いで閉めました。
「伊沢さん、Iさんがベランダから」
伊沢さん
「ベランダから、どうしたの?」
「ベランダから落ちました」
 〇
 後日、Iさんの父親を呼んで、改めて部屋のことについて、伊沢さんのほうから説明する機会がありました。
伊沢さん
「あの部屋は、あの世につながっています」
Iさんの父親
「あの世、ですか?」
伊沢さん
「はい。正確には部屋、というよりも土地ですね。だから、404号室だけじゃなくて、その上と下の部屋、504、304、204、104っていう風に全部の部屋があの世につながっています。あの部屋にいると死霊にあの世へ引きずり込まれるんです」
Iさんの父親
「しかし、息子はあの部屋には住んでいなかったはずです」
伊沢さん
「そこはまた、ちょっと事情が違くて。さっき、死霊があの世へ引きずり込むって言ったんですけど、いったん誰かを引きずり込んで生きている人がいなくなると、今度は霊たちが人を呼ぶんです。そしてあの部屋が空にならないようにするんです。あの部屋に短い期間で何人も借り手がついたのは、そういうことです。家賃がとか安かったっていうのはもちろんあると思いますけど、死霊たちに呼ばれてたんです。
 でも、あの時息子さんは、あの部屋の貸し出しを止めていました。それであの部屋が空になってしまっていたから、代わりに呼ばれたんですよ」
Iさんの父親
「なんで、死霊たちは人を呼ぶんですか?」
伊沢さん
「仲間を欲しがってるんです。生きている人がうらやましいとか、ねたましいとかそういう気持ちで、引きずり込もうとするんです」
Iさんの父親
「そんなことが・・・・・・。あのアパートは、これから私が所有することになるわけですが、その、お祓いとかはできるのでしょうか?」
伊沢さん
「あれは祓うようなものではありません。そういう土地として扱うしかありません。対処法として一番いいのは、更地にしてしまうことですなんですけど」
Iさんの父親
「更地にするのは、ちょっと難しいですね」
伊沢さん
「それだったら、あの部屋を完全に誰も入れないようにして封印をするか、あのアパートを手放すかのどちらかですね。どちらにせよ、あの部屋に人が住むことはできませんから」
 彼はしばらく考えるようなそぶりをしていました。やがて、彼は口を開きました。
Iさんの父親
「手放します。息子の命をとられたまま終わるのは悔しいですが、これ以上犠牲を出さないためには、やむをえないと思います。誰かに息子と同じ目に遭ってほしくはないですから」
 そのあと、404号室と、その上下にある部屋すべてに伊沢さんは結界を施しました。そうすることで、中にいる死霊たちが外に出て、アパートに残っている住人たちに悪さをしないようにしたのです。
 これは後日談ですが、のちにそのアパートのあった土地は、ある企業に買い取られたそうです。そしてアパートがあったところには、新たにオフィスが建ったそうです。今のところ、そこでまだ死者は出ていないようです。