3話目 空の聖歌隊
ー/ー
『振り切れない、誰か援護を!』
既に3機のモスカを撃墜し、残るはこの1機。
助けに来る僚機はなく、己の腕のみで切り抜けなければならないこの状況でもがくように逃げ惑う。
「サンドロ、手出しするなよ」
「お前の獲物を奪ったりしねえよ。仕留めろ」
恐らく、敵パイロットが僅かにでも勇気を持っていたならば、恐怖に呑まれることなく、最後まで抵抗する道を選べたならば違う結末もあったのであろう。
しかし、それが出来なかった。
迫りくるイヌワシへ恐怖を覚えて、逃げることしかできなかったから。
そして追いつかれた。
ユウジの視界に浮かぶレティクルから溢れ出す程に距離が詰まる。
誰もが疑わない必中の距離。これを待ち望んでいたのだ。
「墜とす」
短いコールと共に、1秒にも満たない短い間隔での連射。
それでも数十発の20ミリ砲弾が寸詰まりな機体へと浴びせかけられ、翼を食い破る。
断末魔を上げてへし折れた翼が舞い落ちていき、片翼を失った機体はくるくると回りながら墜ちていく。
あれでは遠心力でシートへ身体を圧しつけられてしまい、脱出もままならない。
誰かを殺すのは初めてではない。
戦場の空を飛ぶからにはそれも覚悟のうちであって、だからこそ、いつの日か自分を上回るエースに撃墜される日を待ち望む。
己の技量を尽くし、全てをなげうった果てに撃墜されることは、何にも勝る誇りに思えるから。
自分の最期に意味を付けられる、そんな気がするから。
「キル」
「こっちも地上の連中はやった。そろそろ聖歌隊が来るぞ」
噂をすれば、と遠くの空にいくつもの編隊が見える。
ゾディアック傭兵団の攻撃機部隊"ゴスペル"飛行隊だろう。
水冷エンジンを両翼に搭載したこの攻撃機もラサンから融通してもらった機体で、栄光重工業製AP-2"餓狼"という。
機首に固定武装の20ミリ機関砲と30ミリ機関砲を2門ずつ、更には追加武装として爆弾やロケットを搭載し、地上の敵を銃声や爆音とともに薙ぎ払う地獄の聖歌隊だ。
白銀の蓮龍がエスコートする、空飛ぶ死神。
それが敵基地を鋼鉄の悪夢で覆い尽くすべく、ゆっくりと迫り来る。
「やっと来たか。遅いぞイーリャ」
「仕方ねーだろ、餓狼は鈍足なんだから」
餓狼をエスコートするパイロットの名はイリヤ・ヴァシレフスキー。
ユウジやアレッサンドロと同じ第148飛行小隊"ブラッドムーン"に所属するパイロットで、若手でありながらその実力は折り紙つきだ。
「ブラッドムーンよりゴスペル、掃除は済ませた。好きに食い荒らせ」
「ゴスペル1了解、下拵えありがとよお月様」
これから始まるのは狩りなんて甘いものではない。
分け隔てなく降り注ぐ死の雨、一方的な暴力が小島に吹き荒れるのだ。
生き残れるものなどいるものか。
上空退避したブラッドムーン隊はその様子を思い浮かべて背筋を凍らせた。
死の聖歌が歌われる。
あの機体も餓狼ではなく、バンシー辺りに改名すべきなのかもしれない。
「ゴスペル隊、攻撃開始。ぶっ壊しただけ報酬が増えるぞ!」
「そりゃあ気合入るな!ゴスペル2、お先に失礼!」
抜け駆けしたゴスペル隊2番機が格納庫へ向けてロケット弾を斉射すると、準備していた弾薬に引火したのか派手に屋根が吹き飛んだ。
「コラ、1番槍を奪いやがって!」
次に突入した隊長機と、遅れて続く列機の爆撃と機銃掃射は目につく車両を、建物を破壊し尽くし、あちこちに黒煙と火の手が上がっていく。
これぞ攻撃機の本懐。まるでそう言うように蹂躙する姿は、何度見てもユウジの背筋を凍らせる。
自分の身にアレが起こるのはごめん被りたい。
空で死ぬならばいくらでも受け入れるが、地上であんな猛爆撃に巻き込まれて死ぬのは絶対に嫌だ。
「おっかねえ、アレが破壊神に仕える聖歌隊か」
「おーおー、サンドロがちびってる」
「うるせーぞイーリャ。アレにビビらねえ奴いるのかよ?」
ユウジは何も言わないが、内心恐怖を感じているのは確かだ。
どうしても、あの鋼鉄の地吹雪に蹂躙されていく基地を見ると自分の姿や、かつての罪過を思い出してしまう。
愛した空を紅蓮に染めた、あの時の景色を忘れはしない。
自らの手で空を汚した最悪な任務、最低の記憶。空で死ぬことでしか、きっとその罪は贖えない。
「これで連中も海賊行為はできんな。なんなら傭兵も続けられないかも」
そんな記憶を軽口と共に吐き出して頭から追い出す。
「次に来る傭兵連中は敵がいなくて可哀想だな。追加報酬なしだぞ」
「それじゃ、ラサンと契約する傭兵はしばらくいないな。悪党の禁漁期到来だぜ」
そうしたかったのはアレッサンドロとイリヤも同じだったのだろう。
ユウジと同じく、ブラッドムーン小隊として焼け落ちる空を飛んだ日の事はまだ忘れられずにいるのだろう。
今も欠番の2番機を忘れないように。
「荷物をまとめて帰る時間だ」
燃料タンクか弾薬庫が爆発し、飛行高度まで届きそうな程に大きな爆炎と黒煙を噴き上げた。
これでこの島は基地としての機能を失い、ここにいた傭兵団は撤退せざるを得なくなるだろう。
滑走路は穴だらけ、燃料弾薬資材といった備蓄は餓狼に食い荒らされ、資材を運び込もうにもラサン海軍に睨まれている。
こんな状況では再建もままならない。蜂の巣退治完了だ。
「オーライ。イーリャ、聖歌隊の先導頼むぜ」
「低速飛行で燃料持つか……待て、不明機視認!2時の方角から何か飛んでくる!」
ユウジとアレッサンドロはすぐさま視線をイリヤが指し示す方角へ向ける。
このタイミングで敵の増援だろうか。ここ一帯に基地を作れる場所などないから、あり得るとすれば哨戒中だった部隊が迎撃に戻って来たくらいだ。
「イーリャはそのままゴスペルの直掩に付け。サンドロ、俺と来い。要撃する」
「了解、2人とも墜とされんなよ」
イリヤは翼を翻してゴスペル隊の方へ飛んで行った。
これで攻撃隊の帰路は心配いらない。あとは、飛んできた不明機が敵かどうかを調べるだけだ。
「誰に言ってんだアイツ」
「俺っちを墜とせる奴がいるなら、一度やり合ってみたいもんだぜ」
「二度目はないからな」
行くぞ、と言わずとも2人同時にスラストレバーを押し込んでエンジン出力を増していく。
うなりを上げるエンジンが機体を押し、身体が加速度に押しつぶされる感覚がする。
速度計と出力計の針が回り、一気にコックピットが慌ただしくなった。
外を見ながらチラリと計器類に目を向けて、異常が無いかをチェックしていく。
水温計と油温計がエンジンの冷却水とエンジンオイルが過熱していることを示すけれど、まだ正常値の範囲内だ。
このまま速度を稼ごう。
そうすれば、もし戦闘になっても相手に対して優位を確保できる。
空戦において速度か高度、またはその両方の優位を確保することは重要なことだが、接近して相手を確認する必要がある以上、高度有利を取ることは出来ない。
だから、速度だけでも相手より優位を確保しておきたいところだ。
「サンドロ、お前は不明機の上を取れ。俺がすれ違いざまに確認する」
「一番槍はお前かよ。せいぜい墜とされないこった」
アレッサンドロはそう言って上昇していく。
こうしておけばユウジが墜とされてもアレッサンドロが仕留められるだろうが、そんなつもりはない。
正面反航、ヘッドオンで決着がついてしまうなんて面白くないではないか。
己の技量を尽くしたドッグファイトの果てに撃ち落とし、撃ち落とされる方がいいではないか。
もうすぐ不明機とすれ違う。
運命の瞬間だ。これが敵か、それとも迷い込んで来ただけなのか、見定める時が来た。
不明機は白い単発戦闘機で、モスカと比べて細長い。
そのパイロットと目が合った。
こいつが戦う相手か、そう思ったけれど、翼に描かれた北極星のラウンデル徽章がユウジの戦意を削ぐ。
機体はキーシン設計局製の単発戦闘機Ki-7”ラルス”。
合板などの木製パーツを使って金属資源を節約するという、鉄鋼資源に乏しいリオールのお国柄が現れた機体である。
そして、その機体に描かれた北極星のラウンデルは北極圏のリオール大陸東部に位置するリオール共和国空軍章だ。
「識別した、リオール空軍所属のラルスだ」
「リオール?海の向こうじゃねえか。どうしてこんなところに?」
「分からん。リオール機、聞こえるか?こちらゾディアック所属第148飛行隊ブラッドムーン。貴機の飛行目的を明かせ」
無線周波数を国際緊急周波数に合わせたユウジはリオール機へ呼びかけを行う。
たった1機で戦闘空域に迷い込むなど、普通ではない気がして堪らない。
「こちら、リオール防空軍第224飛行隊”チャイカ”4番機です。緊急事態につき、最寄りの飛行場へ誘導を願います」
聞こえてきたのは女の声。
正規軍パイロットでありながら僚機を連れずに海を越え、緊急事態宣言をするとは何が起きたのだろう。
「燃料残量知らせ。可能であれば、ルカワ基地へ誘導する」
この出会いはきっと、新しい依頼の始まりになるだろう。
ユウジはそう感じざるを得なかった。
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「サンドロ、手出しするなよ」
「お前の獲物を奪ったりしねえよ。仕留めろ」
恐らく、敵パイロットが僅かにでも勇気を持っていたならば、恐怖に呑まれることなく、最後まで抵抗する道を選べたならば違う結末もあったのであろう。
しかし、それが出来なかった。
迫りくるイヌワシへ恐怖を覚えて、逃げることしかできなかったから。
そして追いつかれた。
ユウジの視界に浮かぶレティクルから溢れ出す程に距離が詰まる。
誰もが疑わない必中の距離。これを待ち望んでいたのだ。
「墜とす」
短いコールと共に、1秒にも満たない短い間隔での連射。
それでも数十発の20ミリ砲弾が寸詰まりな機体へと浴びせかけられ、翼を食い破る。
断末魔を上げてへし折れた翼が舞い落ちていき、片翼を失った機体はくるくると回りながら墜ちていく。
あれでは遠心力でシートへ身体を圧しつけられてしまい、脱出もままならない。
誰かを殺すのは初めてではない。
戦場の空を飛ぶからにはそれも覚悟のうちであって、だからこそ、いつの日か自分を上回るエースに撃墜される日を待ち望む。
己の技量を尽くし、全てをなげうった果てに撃墜されることは、何にも勝る誇りに思えるから。
自分の最期に意味を付けられる、そんな気がするから。
「キル」
「こっちも地上の連中はやった。そろそろ聖歌隊が来るぞ」
噂をすれば、と遠くの空にいくつもの編隊が見える。
ゾディアック傭兵団の攻撃機部隊"ゴスペル"飛行隊だろう。
水冷エンジンを両翼に搭載したこの攻撃機もラサンから融通してもらった機体で、栄光重工業製AP-2"餓狼"という。
機首に固定武装の20ミリ機関砲と30ミリ機関砲を2門ずつ、更には追加武装として爆弾やロケットを搭載し、地上の敵を銃声や爆音とともに薙ぎ払う地獄の聖歌隊だ。
白銀の蓮龍がエスコートする、空飛ぶ死神。
それが敵基地を鋼鉄の悪夢で覆い尽くすべく、ゆっくりと迫り来る。
「やっと来たか。遅いぞイーリャ」
「仕方ねーだろ、餓狼は鈍足なんだから」
餓狼をエスコートするパイロットの名はイリヤ・ヴァシレフスキー。
ユウジやアレッサンドロと同じ第148飛行小隊"ブラッドムーン"に所属するパイロットで、若手でありながらその実力は折り紙つきだ。
「ブラッドムーンよりゴスペル、掃除は済ませた。好きに食い荒らせ」
「ゴスペル1了解、下拵えありがとよお月様」
これから始まるのは狩りなんて甘いものではない。
分け隔てなく降り注ぐ死の雨、一方的な暴力が小島に吹き荒れるのだ。
生き残れるものなどいるものか。
上空退避したブラッドムーン隊はその様子を思い浮かべて背筋を凍らせた。
死の聖歌が歌われる。
あの機体も餓狼ではなく、バンシー辺りに改名すべきなのかもしれない。
「ゴスペル隊、攻撃開始。ぶっ壊しただけ報酬が増えるぞ!」
「そりゃあ気合入るな!ゴスペル2、お先に失礼!」
抜け駆けしたゴスペル隊2番機が格納庫へ向けてロケット弾を斉射すると、準備していた弾薬に引火したのか派手に屋根が吹き飛んだ。
「コラ、1番槍を奪いやがって!」
次に突入した隊長機と、遅れて続く列機の爆撃と機銃掃射は目につく車両を、建物を破壊し尽くし、あちこちに黒煙と火の手が上がっていく。
これぞ攻撃機の本懐。まるでそう言うように蹂躙する姿は、何度見てもユウジの背筋を凍らせる。
自分の身にアレが起こるのはごめん被りたい。
空で死ぬならばいくらでも受け入れるが、地上であんな猛爆撃に巻き込まれて死ぬのは絶対に嫌だ。
「おっかねえ、アレが破壊神に仕える聖歌隊か」
「おーおー、サンドロがちびってる」
「うるせーぞイーリャ。アレにビビらねえ奴いるのかよ?」
ユウジは何も言わないが、内心恐怖を感じているのは確かだ。
どうしても、あの鋼鉄の地吹雪に蹂躙されていく基地を見ると自分の姿や、かつての罪過を思い出してしまう。
愛した空を紅蓮に染めた、あの時の景色を忘れはしない。
自らの手で空を汚した最悪な任務、最低の記憶。空で死ぬことでしか、きっとその罪は贖えない。
「これで連中も海賊行為はできんな。なんなら傭兵も続けられないかも」
そんな記憶を軽口と共に吐き出して頭から追い出す。
「次に来る傭兵連中は敵がいなくて可哀想だな。追加報酬なしだぞ」
「それじゃ、ラサンと契約する傭兵はしばらくいないな。悪党の禁漁期到来だぜ」
そうしたかったのはアレッサンドロとイリヤも同じだったのだろう。
ユウジと同じく、ブラッドムーン小隊として焼け落ちる空を飛んだ日の事はまだ忘れられずにいるのだろう。
今も欠番の2番機を忘れないように。
「荷物をまとめて帰る時間だ」
燃料タンクか弾薬庫が爆発し、飛行高度まで届きそうな程に大きな爆炎と黒煙を噴き上げた。
これでこの島は基地としての機能を失い、ここにいた傭兵団は撤退せざるを得なくなるだろう。
滑走路は穴だらけ、燃料弾薬資材といった備蓄は餓狼に食い荒らされ、資材を運び込もうにもラサン海軍に睨まれている。
こんな状況では再建もままならない。蜂の巣退治完了だ。
「オーライ。イーリャ、聖歌隊の先導頼むぜ」
「低速飛行で燃料持つか……待て、不明機視認!2時の方角から何か飛んでくる!」
ユウジとアレッサンドロはすぐさま視線をイリヤが指し示す方角へ向ける。
このタイミングで敵の増援だろうか。ここ一帯に基地を作れる場所などないから、あり得るとすれば哨戒中だった部隊が迎撃に戻って来たくらいだ。
「イーリャはそのままゴスペルの直掩に付け。サンドロ、俺と来い。要撃する」
「了解、2人とも墜とされんなよ」
イリヤは翼を翻してゴスペル隊の方へ飛んで行った。
これで攻撃隊の帰路は心配いらない。あとは、飛んできた不明機が敵かどうかを調べるだけだ。
「誰に言ってんだアイツ」
「俺っちを墜とせる奴がいるなら、一度やり合ってみたいもんだぜ」
「二度目はないからな」
行くぞ、と言わずとも2人同時にスラストレバーを押し込んでエンジン出力を増していく。
うなりを上げるエンジンが機体を押し、身体が加速度に押しつぶされる感覚がする。
速度計と出力計の針が回り、一気にコックピットが慌ただしくなった。
外を見ながらチラリと計器類に目を向けて、異常が無いかをチェックしていく。
水温計と油温計がエンジンの冷却水とエンジンオイルが過熱していることを示すけれど、まだ正常値の範囲内だ。
このまま速度を稼ごう。
そうすれば、もし戦闘になっても相手に対して優位を確保できる。
空戦において速度か高度、またはその両方の優位を確保することは重要なことだが、接近して相手を確認する必要がある以上、高度有利を取ることは出来ない。
だから、速度だけでも相手より優位を確保しておきたいところだ。
「サンドロ、お前は不明機の上を取れ。俺がすれ違いざまに確認する」
「一番槍はお前かよ。せいぜい墜とされないこった」
アレッサンドロはそう言って上昇していく。
こうしておけばユウジが墜とされてもアレッサンドロが仕留められるだろうが、そんなつもりはない。
正面反航、ヘッドオンで決着がついてしまうなんて面白くないではないか。
己の技量を尽くしたドッグファイトの果てに撃ち落とし、撃ち落とされる方がいいではないか。
もうすぐ不明機とすれ違う。
運命の瞬間だ。これが敵か、それとも迷い込んで来ただけなのか、見定める時が来た。
不明機は白い単発戦闘機で、モスカと比べて細長い。
そのパイロットと目が合った。
こいつが戦う相手か、そう思ったけれど、翼に描かれた北極星のラウンデル徽章がユウジの戦意を削ぐ。
機体はキーシン設計局製の単発戦闘機Ki-7”ラルス”。
合板などの木製パーツを使って金属資源を節約するという、鉄鋼資源に乏しいリオールのお国柄が現れた機体である。
そして、その機体に描かれた北極星のラウンデルは北極圏のリオール大陸東部に位置するリオール共和国空軍章だ。
「識別した、リオール空軍所属のラルスだ」
「リオール?海の向こうじゃねえか。どうしてこんなところに?」
「分からん。リオール機、聞こえるか?こちらゾディアック所属第148飛行隊ブラッドムーン。貴機の飛行目的を明かせ」
無線周波数を国際緊急周波数に合わせたユウジはリオール機へ呼びかけを行う。
たった1機で戦闘空域に迷い込むなど、普通ではない気がして堪らない。
「こちら、リオール防空軍第224飛行隊”チャイカ”4番機です。緊急事態につき、最寄りの飛行場へ誘導を願います」
聞こえてきたのは女の声。
正規軍パイロットでありながら僚機を連れずに海を越え、緊急事態宣言をするとは何が起きたのだろう。
「燃料残量知らせ。可能であれば、ルカワ基地へ誘導する」
この出会いはきっと、新しい依頼の始まりになるだろう。
ユウジはそう感じざるを得なかった。