怨霊の箱③
ー/ー 解呪の前に僕は、伊沢さんから水晶で作られた数珠を手渡されました。
伊沢さん
「もうつけているけど、一応もう一個予備のやつもつけといて。お清めもやるけど、念のため」
僕
「ありがとうございます」
僕は右手にその数珠をつけました。
そのあと、彼女は僕と、Eさんと、Eさんの息子さんをお清めしました。
それから僕は、近所のホームセンターで買ってきたスコップで、彼女に指示された場所を掘っていきました。
Eさんは、息子を抱いた状態で、お香を四方に置いた結界の中にいて作業を見守るかたちとなりました。
やがて、彼女の言う通り、本当に箱が出てきました。漆塗りのきれいな黒色をした箱でした。
僕
「すごいきれいですね」
伊沢さん
「呪いが生きてるんだよ。魂が宿った物って、劣化しなくなるんだよね。これもそう」
僕
「箱を外に出したほうがいいですか?」
伊沢さん
「うん、お願い。そっちのほうがちゃんと焼けるから」
僕は箱の周囲の土を掘りだしてから、箱を地中から外へと出しました。
伊沢さん
「ありがとう。ちょっと下がってて」
僕が後ろへ下がると、彼女は手を合わせました。
いよいよ解呪が始まる、という時、Eさんの息子さんが泣きだしました。はじめは、周りの緊張を敏感に感じ取っているのだろうか、と思っていました。しかしそうではありませんでした。
彼は泣きながら、けほ、けほ、とせき込んでいました。それから、口からげぼっという音とともに、黒い吐しゃ物を吐き出したのです。
Eさんは悲鳴をあげました。
Eさん
「先生、息子が!」
伊沢さん
「ああ、そっちをやられたか!」
彼女はEさんたちのいるほうへ駆け寄っていきました。そして再び手を合わせると、右手をEさんの息子さんの胸に押し当てました。
僕はとっさに彼女たちと箱の間に立って、金剛杵を地面に突き刺しました。これで結界を張ることで、彼女たちを守れると思ったからです。
僕は箱を見ながら、何か恐ろしいことが起こるのではないか、と不安でドキドキしていました。
悪いものの気配は感じませんでしたし、黒い影も見えませんでした。やはり何も起こらないか、と思いかけた時でした。箱のふたが弾かれたように上に飛んだのです。箱のふたは上に高く飛んでから、地面に落ちました。
それによって、僕は箱の中身を見てしまいました。黒い糸のようなもの(たぶん髪の毛)と白い石のようなもの(おそらく歯)と黒い棒のようなものが箱の中には入っていました。
しかし僕にとっては中身よりも、それを見てしまったという事実よりも、それを伊沢さんに見せてはならないということが一番大事なことでした。
僕は金剛杵をポケットに突っ込むと、ジャケットを脱いで、箱へジャケットをかけるために前へ駆け出しました。
もうすでに中身を見ていたため”どうせ死ぬだろう”というなかばあきらめのような気持ちで、箱を思いっきり凝視しながら近づいていきました。箱のすぐそばまでいくと、ジャケットを箱にかけました。
伊沢さん
「何があったの? 今のはなんの音?」
僕
「箱のふたが開きました! でも大丈夫です、今ジャケットをかけました!」
伊沢さん
「中身を見たの⁉」
僕
「すみません、見えちゃいました」
伊沢さん
「村山君、そこどいて!」
彼女は叫びました。僕は横へ移動しました。
彼女は手を合わせると、手のひらを口のすぐ下で上向きにして、ふうっと息を吹きました。
その時にはすでに僕の体に異変が現れていました。吐き気がしていて、今にも吐きそうではあったのですが、それを必死にこらえました。吐いたら、彼女が解呪を中断して僕を助けようとするかもしれない、と思ったからです。
息をふきかけると、彼女は再び手を合わせました。それから右手に手刀を作ると、箱のそばへ駆け寄って、手刀をジャケット越しに箱へ突き刺しました。
少しして、彼女は言いました。
伊沢さん
「よし、燃やしきった」
解呪が成功した、と知った僕は安心して、その場に吐きました。Eさんに申し訳ないとは思っていたのですが、こらえきれなかったのです。
僕が吐いたものは、通常のゲロとかではなく、真っ黒いヘドロのようなものでした。吐いたら体調がよくなるかと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。目が回るようなかんじがしたかと思うと、立っていられなくなって、その場に膝をついてしまいました。
誰かの叫び声、たぶん伊沢さんのもの、が聞こえたような気がしたのですが、よく覚えていません。僕はそこで気を失ってしまったからです。
目が醒めた時は、病院のベッドの上にいました。幸い、死んではいなくて、生きていました。なんでも僕は、丸一日寝ていたようです。体はどこも悪くないのに、ずっと気を失っていたようなのです。
翌日には退院することができて、タクシーで彼女が泊まっていたホテル(僕が入院していたあいだ泊まっていた場所)へ行くことになりました。
伊沢さん
「今回はごめん。私が至らなかったばっかりに、村山君を危険な目に遭わせちゃった」
僕
「いや、全然そんなことありません。僕の自業自得ですよ。ジャケットをかけようとして見たってわけじゃなくて、見ちゃったからもういいやってかんじだったので、完全に僕の自業自得なので」
伊沢さん
「そんなことない。君が後ろで金剛杵で結界を張って守ってくれたから、Eさんたちも無事だったし、君がジャケットをかけてくれたから私は中身を見ずに済んだ」
僕
「ええまあ、そう言ってもらえると、うれしいです。それに、生きててよかったです。あの時、完全に死んだと思ってたので」
伊沢さん
「うん、あの時は本当に危なかった。あのね、作業の前に渡した数珠あったでしょ? あれが身代わりになってくれたんだよね。すごかったよ、全部の石が黒くなってたし、紐も切れてたし、割れてる石もあったたからね」
僕
「マジですか? え、見てもいいですか?」
伊沢さん
「もう捨てちゃったからない。あそこまで穢れを吸っちゃうと、今度は逆に穢れを放出しちゃうから、処分しないとだめなんだよね。あそこまでいくともう、普通の人だったら触るだけでも危ないから、お清めしてから捨てた」
僕
「そんな、石が呪物になるぐらいやばい呪い受けてたんですか、僕?」
伊沢さん
「うん。でもまだましなほうだった。中身を見たことで、呪いに一回襲われはしたけど、すぐに私があれを焼き始めたから、呪いが弱まって、ほとんど攻撃は受けなかった。たとえるなら、一回引っかかれただけで済んだってかんじ」
僕
「一回引っかかれただけで死にかけるんですね、本当に怖いですね、呪いって」
伊沢さん
「怖いよ。怖いし、本当にクソだね。ああいうのがあるから、よけいな仕事が増えるし、苦しまなくていい人が苦しむことになるんだよ。呪術師のほうはもうとっくに死んでるとは思うけど、それでもたぶん、作ったのはあれ一個じゃないはずだから。ほんとマジむかつくわ、あいつら」
僕
「え、まだあるんですか?」
伊沢さん
「残ってるかどうかはともかく、絶対に他にもたくさん作ってるはず。だってどう見てもプロのやったことだし、依頼する人もそれなりにいたはずだからね」
庭いじりなどで土を掘り返す人もいると思いますが、もし地面に埋まっている箱などが見つかったとしても、むやみに開けないでください。その中に入っているものが呪いである可能性もあります。開けた時にはもう、手遅れですので、くれぐれもお気を付けください。
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