怨霊の箱①
ー/ー 依頼主はEさんという方で、三十代くらいの優しそうな目の女性でした。夫と息子の三人で暮らしていて、最近、子供がのびのび過ごせるような家が欲しくなった、ということで中古の一軒家を借りたばかりだそうです。
この時の相談は、その一軒家に関わるものでした。
Eさん
「築六十年くらいの、けっこう古い家ではあったんですけど、近所にスーパーもあって、立地も悪くなかったので、住むことにしたんです。でもちょっと、いろいろありまして」
僕
「いろいろ、というのはどのようなことですか?」
Eさん
「家に住み始めて一番最初の夜なんですけど、一階から足音がしたんですね。それで、一階に泥棒がいるんじゃないかって怖くなって、隣で寝ていた夫を起こしたんです。しかも、その足音は夫にもちゃんと聞こえていたんです。それで、誰かいるに違いない、と思って、電気をつけて下に行ってみたんです。
ところが、一階には誰もいなくて。どこを探しても人なんていないし、なんなら玄関も窓もちゃんと閉まっていたので、誰も入れるわけがないんですよ。
それで結局、家鳴りを足音と聞き間違えたのかもしれない、ということになって、その日は終わったんですけど。
ところがその次の日に、二階を誰かが歩いているような足音がして。またどうせ誰もいないっていうオチなんじゃないかって思いながらも、ドアを開けて廊下の電気をつけてみたんですけど、やはり誰もいなくて。
その時にはもう、この家にはなんか、幽霊みたいなものがいるんだろうな、とは思っていたんです。それでも、足音だけなら別に害もないし気にしなくていいかって思っていたんです。
だけど、別の日に、ベビーベッドに寝かせていた子供がすごく大泣きした時があって。なんだろうって思って見てみたら、ひとさし指のほうから血が出てたんです。
でも、原因がわからなくて。何かで指を切ったのは間違いないんですけど、指を切るようなものなんてそばにないんです。ベビーベッドの中にも、その周りにも、指が切れるようなものなんてありませんでしたし。
それから他にも、夫が職場で指を切ったりとか、あと私も包丁で親指を切ってしまったりとかしていて。家族みんな、指をけがしてるんですよ。偶然かもしれないんですけど、ちょっと怖くなってきていて。
それで、その日を境に、私や夫が体調を崩したりとか、子供の夜泣きがひどくなったりとかよくないことが続いてしまって。
で、ある時、また子供が大泣きして。しかもその泣き方っていうのが、いつもの泣き方じゃなくて、叫ぶみたいな異様な泣き方をしていて、どうしたんだろうって思って、子供の寝ているところに慌てて行ってみたんですね。家に来た時からずっと足音とか聞こえていたこともあって、子供に何かあったんじゃないかって思って、心配だったのもあって、急いで行ってみたんです。
部屋に入ってぱっとベビーベッドのほうを見てみたら、変なものがベビーベッドのそばにいて。全身真っ黒な影みたいなやつで、胴体は小さいんですけど、手足だけが異様に細長いやつが、上からぐうって子供の顔を覗き込んでるんですよ。その影みたいなものはなぜか、手をグーにした状態で、柵に手をかけていたんです。
私が入ってきたと同時に、そいつが顔をあげて、こっちを見るような動きをして。怖かったんですけど、それよりも子供を守らなきゃっていう気持ちが勝って、ばーって走っていって、泣いてる子供を抱き上げて、ダーって部屋から逃げ出して。
そして家からも出て、近所のファミレスに避難しました。ファミレスから、今ファミレスにいるから来て、とメッセージを残して、夫に迎えに来てもらいました。
起こったこととしてはだいたい、こんなかんじです」
伊沢さん
「なるほど、わかりました。家の中を見せてもらってもよろしいですか?」
Eさん
「ええ、大丈夫です」
そしてEさんの案内に従って、僕たちは家の中を周ることになりました。
伊沢さん
「やはり、霊はいますね」
お風呂場のほうを見て、彼女は言いました。
Eさん「ええ! やっぱり、そうなんですか?」
伊沢さん
「はい。ただ、これはそこまで強くないですね。家に悪い気がたまっているっていうのもそうなんですけど、私には、原因が呪詛にあるような気がしています」
Eさん
「呪詛って、呪いってことですか?」
伊沢さん
「はい。ただ、お二人に呪いがかかっているわけではありません。だから、もしお二人がこの家を出ていれば、たとえそれが旅行とかであっても、悪いことは起こらないはずなんです。悪いことが起こるとしたら、この家の中だけでしか起こらないはずです」
Eさん
「あ、確かにそうです! 家の外にいる分には、何も起こらないし、子供も保育園にいる時はいつも機嫌がいいんですよ」
伊沢さん
「呪われてるのは、家のほうですね。なんか、どこかによくないものが置いてあるんじゃないかって気がするんですけど」
僕
「家に来た時から悪いことが起こっていたってことなら、忘れ物みたいなものなんじゃないんですかね? 屋根裏とか、庭の地面の下とか、そういう人が見ないようなところにあって、忘れ去られたようなものだと思うんです」
伊沢さん
「うん、そうだと思う。でも、二階からはそんなに悪い気がしないんだよね」
彼女は二階へと登っていきました。
伊沢さん
「二階もよくはないですけど、そこまで悪くはないですね。やはり、外かもしれないですね。このお家、庭とかありますか?」
Eさん
「はい、あります。こっちです」
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