佐伯②
ー/ー S君たちが佐伯を訪れたあとに起こった出来事を簡単にまとめます。まず、Sさんについてですが、病院で死亡が確認されました。死因は、首を絞められたことによる、窒息死でした。指紋などから、Mさんの犯行であると断定されたそうです。
そのMさんですが、佐伯に行ってからは一言も口を利かず、自分から動くこともほぼなかったようです。ところが、警察の事情聴取が終わって家に帰ったその日の夜、包丁で首の頸動脈を切って自殺したそうです。
E君は、写真を見た翌日、つまり佐伯に行った日の翌日に、登校中に車に轢かれて死亡したそうです。
A君は、E君が事故に遭ったのと同じ朝、精神異常を発症しました。Mさんと同じように、言葉を発することなく、自分から動くこともない、植物人間のような状態になってしまったのです。唯一違うのは、彼は自殺をせず、今でも生き続けているということです。
A君の母親は、E君の親から佐伯の中を撮影するのに使われたデジカメを借りてきていました。
伊沢さんはそれを受け取って、写真を見始めました。
S君が言うには、心霊写真と呼べるようなものは一つもなかったとA君たちは言っていたそうです。ただ一つだけ、Mさんが立っていた部屋の中を撮影した写真だけは撮るのに失敗していた、ということでした。なんでも、一面赤くぼやけたものが写っているだけだったそうです。レンズに指がかかってしまったのだろう、ということでした。
伊沢さんは写真を全部、確認していきました。
伊沢さん
「ところどころ霊は写っていますが、それほど害のあるものは写っていませんね」
そしてとうとう、Mさんの部屋を撮るのに失敗していたという写真を見ることになりました。
それは、一面真っ赤な霧に染まっている場所を撮影したかのような写真でした。何も知らずに見ていたら、部屋のどこかを撮った写真だとは、とても思えませんでした。
伊沢さん
「これやばいね」
彼女は言って、すぐさま写真を消しました。僕はすでに見てしまっていたのですが、やばいと聞いて、慌てて目をそらしました。
伊沢さん
「村山君、写真を見た?」
僕
「見ました」
伊沢さん
「わかった。一応、お清めするね」
彼女は手を合わせたあと、僕の両肩に手を置きました。それから、肩から何かをそぎ落とすようなしぐさをして、さらに背中からも何かをそぎ落すように、手を滑らせました。
伊沢さん
「これで大丈夫。見たのが一瞬だったのが幸いだったね。あの写真と目があってたら、ちょっとまずかったかもしれない」
目が合う、とはどういうことなのでしょうか。一面真っ赤になっているようにしか見えない写真に、彼女は何を見ていたのか。それが気になって、僕は尋ねてみました。
僕
「何が写ってたんですか?」
伊沢さん
「祟り神だよ。すごく怒っていて、真っ赤な顔した祟り神がぐっとこっちを睨んでる姿が写ってた。だから写真が真っ赤なんだよ。カメラのすぐ目の前にいた祟り神の色が、写真に写った」
S君の母親
「祟り神? あの廃屋に神様がいたってことですか?」
伊沢さん
「そうです。ただ、この神様は人間に祟ります。被害に遭われた子どもたちはみんな、この祟り神に祟られてます」
A君の母親
「そんな、Aは助かるんですか?」
彼の母親は、車いすに乗せられたA君を示して、尋ねました。A君は口をぽかんと開けて、虚ろな目をしていました。
伊沢さん
「A君に関しては、もう手遅れです。私にもどうにもできません。それよりも、S君がやばいです」
S君の母親
「Sがどう危険なんですか?」
伊沢さん
「S君も祟られてます。写真を見るよりも、あの部屋に入ったことのほうのが問題なんです。ようは、神様の住処を土足で踏み荒らしたってことに対して、祟り神がものすごく怒っているんです。そこを写真で撮ったのも、まずかったです。
今までは、罪が重い人間から順番に祟っていっていたんです。まず、一番最初にその部屋へ入ったMちゃんとSちゃん、その次に写真を撮ったE君、それから写真を見たA君。
S君も、順番的に一番最後になっただけで、部屋に入ってしまってはいるので、このままだと本当にまずいです。でも、大丈夫です。今すぐ対処しますので。その、佐伯の居場所を教えてもらえますか?」
A君の母親
「待って、手遅れってどういうことなの! ねえ、どういうことなのよ!」
伊沢さん
「非常に言いにくいんですが、もうA君の魂が壊れてしまっているんです。ここまで壊れてしまっていると、もう私にはどうにもできません」
A君の母親
「そんな・・・・・・」
S君の母親
「先生、佐伯へご案内します。車に乗ってください」
そして僕らは佐伯に行きました。佐伯の窓はふさがれていて、すでに中には入れなくなっていました。
伊沢さん
「入れなくても大丈夫です。ドアの前でもできますので。村山君とS君のお母さんは、車で待っていてください。何があっても、絶対に私のいるところには来ないでください。祟り神を怒らせてしまうと危険なので」
そう言って彼女は、佐伯の玄関の前に正座で座りました。そして手を合わせると、その姿勢のままじっと動かなくなりました。
途中、彼女の体がびくっと震えました。その時はよっぽど助けに行こうかと思いましたが、彼女の指示を守って、車で待つことにしました。
一時間ほど、彼女はずっと手を合わせたままじっとしていました。やがて彼女は立ち上がると、膝をぱんぱん、と払って、こちらへ戻ってきました。
伊沢さん
「もう大丈夫です。祟り神に謝って許してもらえました。S君へかけられていた祟りも解除してもらいました。ただひとつ、祟り神から我々人間側に対して、お願いをされました。これはS君にもちゃんと言っておいてほしいんですけど、今後何があっても絶対に、祟り神の許可なく佐伯の中には入らないでください。
仮にあの家を買って住むとしても、祟り神にちゃんとあいさつをしてから、住むようにしてください。それは神職の方に頼んでもいいですし、あるいは私のほうに電話をしてくださってもいいですし。それさえやればあの家にはちゃんと住めるので、それだけよろしくお願いします」
S君の母親
「わかりました。絶対にちゃんと伝えます。今回は、本当にありがとうございした!」
彼女は深く頭を下げて、お礼を言いました。
のちに伊沢さんから聞いたところによると、祟り神を祓うことはできないそうです。ただ話は通じるので、謝罪や交渉をして、祟りをといてもらったり、奪われたものを返してもらったりすることはできるそうです。話が通じるだけまだあの白蛇に似た謎の存在よりはましだった、とのことでした。
一回震えたのは、祟り神に軽く魂に触れられた時だったそうです。たったそれだけのことだったのですが、それだけで心臓に痛みが走ったそうで、それで震えたみたいです。
彼女から、一つ書いておいてくれと言われたことがあるので、書いておきます。それは、我々の住んでいるところに住んでいるのはなにも、人間だけではないということです。
やはり土地の神というものが、自分たちよりもずっと前からそこに住んでいるわけです。それこそ、縄文時代から住んでいるものもいるそうです。つまり、我々は神様の住んでいるところに住まわせてもらっている立場なのです。だからこそ、地鎮祭というものがあるわけです。
見えないし信じられない、というのはしかたないと思います。でもやはり、軽んじることがあってはいけないと思います。
普通の人は神社に落書きとかしないですよね。それはやはり、その神社や、そこにいるかもしれない神様に対して敬意を持っているからです。それと同じように、土地にいるかもしれない神様にも、ちゃんと敬意を持ってほしいのです。
入ってはいけないところに入ってしまった、たったそれだけのことで死んだ子供たちもいるのですから。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。