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T集落②

ー/ー



 彼が話し終えたところで、伊沢さんは口を開きました。

伊沢さん
「私が思うに、お二人が一番最初に行ったのは、異世界だと思います」

Kさん
「異世界?」

伊沢さん
「異世界っておとぎ話とかじゃなくて、ちゃんと実在するんです。こことは次元が違う空間があって、そこへ迷い込んでしまうと帰れなくなることもあるんです」

Kさん
「え、じゃあ彼女には二度と会えない、ってことですか?」

伊沢さん
「おそらくですが、彼女さんを助けるのは無理です。異世界のなかには、異世界の主の招待がないと入れない場所もあります。お話を聞いた限りだと、今回のケースではお二人は最初、主に招かれたから入ることができたんです。

 そこでたぶん、試験みたいなのがあったんだと思うんです。そこで彼女さんは合格して残ることになったけど、Kさんのほうは合格せずに済んだので、結果として出てこられたんだと思います。たぶん、その神様に会うっていうのが試験だったんだと思うんです。そこで逃げないかどうかとか、そういうところを試されたんだと思います。

 二回目行ったときにはその異世界に行けなかったのも、招かれてないからだと思います。

 我々ではどうすることもできません。仮にそこへ行って、異世界に入ることができたとしても、今度は出られないかもしれないので、やはり危険すぎます。今回は諦めていただくしかありません」

Kさん
「招かれなければ入れない、ってことは招かれれば入れるってことですよね?」

伊沢さん
「入れるかもしれませんが、出られる保証は」

Kさん
「ああ違う。違うんです、先生」

伊沢さん
「違う、というのは?」

Kさん
「あそこへ行く方法は、もうわかってるんです。いや、わかっているっていうか、これは僕の想像なんですけど、あそこには二人以上で行かないとだめなんだと思うんです。僕は一度逃げた身だから、あそこに入りたければ誰かつれて来いと、そうしたら許してやるっていう、そういうことなんじゃないかって思うんです。

 だから、先生にお願いしたいのは、彼女を連れ戻してほしいとかそういうことじゃなくて、一緒に来てほしいってことなんです。僕と、あそこへ一緒に行ってくれませんか? そうしたら僕、もう一回あそこに行けると思うんです」

 Kさんは薄気味の悪い笑顔で、そう言いました。しかも、目の焦点がまるで合っていません。先ほどまでの理知的な雰囲気は霧散していました。

伊沢さん
「申し訳ありませんが、それはできません。先ほども行ったように異世界へ一度行ったら、我々でも帰ってこられない可能性があるので」

Kさん
「そうですか、残念だなあ。先生もきっと、あそこを気に入ると思ったんですけどねえ。神様もきっと、先生が来たらお喜びになったと思うんですけど」

「申し訳ありませんが、我々ではあなたの力にはなれませんので、お引き取りください」

 僕は話に割って入りました。いざとなれば、力づくで彼を追い出すつもりでした。

Kさん
「そうですか。たいへん残念です」

 しかし彼はあっさり席を立つと、そのまま事務所から出て行きました。

 あれからどうやら、Kさんはその異世界へもう一度行くことに成功したようです。なぜそれがわかったのか。それは、異世界にいるKさんのもとから、電話があったからです。

 Kさんが事務所に来てから、一週間ほど経った頃でしょうか。スマホが鳴ったので出てみたら、Kさんでした。

Kさん
「村山さん、入れましたよ。やっぱり思った通りでした! 彼女とも無事会えましたし、Jさんとも会えましたし、本当によかったです! ところで、村山さんと伊沢さんは、いつこちらに来られるんですか? 俺、待ってますからね!」

 その時の僕は、適当に言葉を濁して、電話を切ってしまいました。

 彼の話によると、スマホは圏外になるはずです。彼がその集落にいるとして、それならいったい、彼はどうやって僕のスマホに電話をかけていたのでしょうか?

 怖くなった僕は翌日、伊沢さんに相談しました。

伊沢さん
「呼ばれてるね。このまま放っておくと、むりやりあっちの世界に引きずり込まれる可能性もあるから、念のため村山君とKさんとの縁を切って、スマホもお清めしておくね。それでもまたかかってきたら、言って」

 それから彼女は手を合わせて、そのあと僕の背中に右手を当てました。その時、気のせいかもしれませんが、何かがすっと体から抜けるような、そんなかんじがしました。きっと、その何かが抜けるような感覚が、縁の切れた時のそれだったのでしょう。

 彼女が、僕とKさんの縁を切って以来、彼から電話がかかってくることはなくなりました。

 ここから先は、あくまで僕の想像ですが、もしかしたら彼は今も、縁のある人間に対して連絡をかけ続けているのではないでしょうか。友達はもちろん、家族や親せきなどあらゆる縁をたどって、彼のいる世界へ誰かを誘い込もうとしているのではないか、と思うのです。

 こういった話に身に覚えのある方。あるいはどこかでこれに似た話を聞いた方。もし、電話がかかってきても、その集落へは絶対に行かないようにしてください。またそのように、知人に言ってください。一度行ったら、帰れなくなる可能性があります。


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 彼が話し終えたところで、伊沢さんは口を開きました。
伊沢さん
「私が思うに、お二人が一番最初に行ったのは、異世界だと思います」
Kさん
「異世界?」
伊沢さん
「異世界っておとぎ話とかじゃなくて、ちゃんと実在するんです。こことは次元が違う空間があって、そこへ迷い込んでしまうと帰れなくなることもあるんです」
Kさん
「え、じゃあ彼女には二度と会えない、ってことですか?」
伊沢さん
「おそらくですが、彼女さんを助けるのは無理です。異世界のなかには、異世界の主の招待がないと入れない場所もあります。お話を聞いた限りだと、今回のケースではお二人は最初、主に招かれたから入ることができたんです。
 そこでたぶん、試験みたいなのがあったんだと思うんです。そこで彼女さんは合格して残ることになったけど、Kさんのほうは合格せずに済んだので、結果として出てこられたんだと思います。たぶん、その神様に会うっていうのが試験だったんだと思うんです。そこで逃げないかどうかとか、そういうところを試されたんだと思います。
 二回目行ったときにはその異世界に行けなかったのも、招かれてないからだと思います。
 我々ではどうすることもできません。仮にそこへ行って、異世界に入ることができたとしても、今度は出られないかもしれないので、やはり危険すぎます。今回は諦めていただくしかありません」
Kさん
「招かれなければ入れない、ってことは招かれれば入れるってことですよね?」
伊沢さん
「入れるかもしれませんが、出られる保証は」
Kさん
「ああ違う。違うんです、先生」
伊沢さん
「違う、というのは?」
Kさん
「あそこへ行く方法は、もうわかってるんです。いや、わかっているっていうか、これは僕の想像なんですけど、あそこには二人以上で行かないとだめなんだと思うんです。僕は一度逃げた身だから、あそこに入りたければ誰かつれて来いと、そうしたら許してやるっていう、そういうことなんじゃないかって思うんです。
 だから、先生にお願いしたいのは、彼女を連れ戻してほしいとかそういうことじゃなくて、一緒に来てほしいってことなんです。僕と、あそこへ一緒に行ってくれませんか? そうしたら僕、もう一回あそこに行けると思うんです」
 Kさんは薄気味の悪い笑顔で、そう言いました。しかも、目の焦点がまるで合っていません。先ほどまでの理知的な雰囲気は霧散していました。
伊沢さん
「申し訳ありませんが、それはできません。先ほども行ったように異世界へ一度行ったら、我々でも帰ってこられない可能性があるので」
Kさん
「そうですか、残念だなあ。先生もきっと、あそこを気に入ると思ったんですけどねえ。神様もきっと、先生が来たらお喜びになったと思うんですけど」
「申し訳ありませんが、我々ではあなたの力にはなれませんので、お引き取りください」
 僕は話に割って入りました。いざとなれば、力づくで彼を追い出すつもりでした。
Kさん
「そうですか。たいへん残念です」
 しかし彼はあっさり席を立つと、そのまま事務所から出て行きました。
 あれからどうやら、Kさんはその異世界へもう一度行くことに成功したようです。なぜそれがわかったのか。それは、異世界にいるKさんのもとから、電話があったからです。
 Kさんが事務所に来てから、一週間ほど経った頃でしょうか。スマホが鳴ったので出てみたら、Kさんでした。
Kさん
「村山さん、入れましたよ。やっぱり思った通りでした! 彼女とも無事会えましたし、Jさんとも会えましたし、本当によかったです! ところで、村山さんと伊沢さんは、いつこちらに来られるんですか? 俺、待ってますからね!」
 その時の僕は、適当に言葉を濁して、電話を切ってしまいました。
 彼の話によると、スマホは圏外になるはずです。彼がその集落にいるとして、それならいったい、彼はどうやって僕のスマホに電話をかけていたのでしょうか?
 怖くなった僕は翌日、伊沢さんに相談しました。
伊沢さん
「呼ばれてるね。このまま放っておくと、むりやりあっちの世界に引きずり込まれる可能性もあるから、念のため村山君とKさんとの縁を切って、スマホもお清めしておくね。それでもまたかかってきたら、言って」
 それから彼女は手を合わせて、そのあと僕の背中に右手を当てました。その時、気のせいかもしれませんが、何かがすっと体から抜けるような、そんなかんじがしました。きっと、その何かが抜けるような感覚が、縁の切れた時のそれだったのでしょう。
 彼女が、僕とKさんの縁を切って以来、彼から電話がかかってくることはなくなりました。
 ここから先は、あくまで僕の想像ですが、もしかしたら彼は今も、縁のある人間に対して連絡をかけ続けているのではないでしょうか。友達はもちろん、家族や親せきなどあらゆる縁をたどって、彼のいる世界へ誰かを誘い込もうとしているのではないか、と思うのです。
 こういった話に身に覚えのある方。あるいはどこかでこれに似た話を聞いた方。もし、電話がかかってきても、その集落へは絶対に行かないようにしてください。またそのように、知人に言ってください。一度行ったら、帰れなくなる可能性があります。