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T集落①

ー/ー



 依頼主はKさんという方で、大学生で、日本人と外国人のハーフみたいな顔立ちの男性でした。

Kさん
「俺には彼女がいて、その彼女と二人で心霊スポット巡りみたいなことをやっていたんですよ。それで、あそこには幽霊いなかったね、とか、あそこは声がしたからなんかいるかもね、とかそういう興味半分、怖さ半分みたいなかんじで行ってたんです。

 それで、おとといのことなんですけど、T集落に行ってきたんです。そこはもう廃村になってるんですけど、ガチでやばいって言われてて。行きと帰りでいる人数が変わってるとか、あとは行ったきり帰ってこなかった人がいるとか、そういう噂のある場所らしいんです。やばいのは知ってたんですけど、ここのところ、心霊スポットに行っても何も起こらないっていうことが続いてて、ちょっと刺激が欲しかったっていうのもあって、T集落へ行くことにしたんです。

 マップで位置を見ながら、車で入口の近くまで行って、途中からは歩いて行って、夕暮れには集落の入口に着きました。

 道が舗装されてるわけでもないし、ガードレールにもこけが生えていて、けっこうさびれた雰囲気の場所でした。

 村へつながる道は、木がすぐ両脇にいっぱい生えていて、陽の光をさえぎってしまっていました。くわえて夕暮れだったので、その時は懐中電灯なしだと行くのが難しい、っていうぐらい真っ暗でした。

 道を抜けると、家がありました。そのころにはもう、外は真っ暗になっていました。廃村だから、家に人がいるはずがないんですよ。それなのになんでか、家の中に明かりがついてて。

 それで、なんで住んでる人がいるのって、俺も彼女もびっくりしてしまって。場所を間違えたかな、って思ってスマホで現在地を調べようとしたんですけど、スマホが圏外になってしまっていて、調べられませんでした。

 でも、マップでT集落の近くまで来てたっていうのは確認してるので、近くにT集落があるのは間違いなかったんです。だから、道を間違えただけなんだろう、と思ったんです。

 集落の近所に住んでる人なら、道がわかるかもしれないってことになって、その明かりがついてる家のうちの一つに行って、道を尋ねることにしたんです。

 チャイムを鳴らしたら、三十代くらいの男の人が出てきてくれて、『どうかしましたか?』って優しいかんじで聞いてくれて。

 それで、『僕たちT集落に行きたいんですけど、どこにあるか知りませんか?』って聞いてみたんです。

 そしたら、知らないって言われてしまって。その男の人、Jさんっていうんですけど、彼が言うには、T集落なんて知らないし、近所にもそういう名前の集落はない、ということでした。

 そこで、場所を間違えたんだっていうことに気がついて、お礼を言って帰ろうとしたんです。

 そしたら、彼が『こんな夜中に帰るのは危ないから、うちに泊っていきなさい』って言ってくれたんです。

 ちょっと迷ったんですけど、山だし、暗いし、熊が出るかもしれないし、夜に歩いて帰るのは僕らも不安だったので、その日の夜は泊まることにしたんです。

 彼には、奥さんと三人の子供がいて、しかも家族みんなすごく優しくしてくれて。三人の子供なんか、僕らにすごく懐いてくれて、一緒に遊ぼう、みたいなことを言ってくれたんです。しかも、夕飯に水炊き鍋をごちそうしてくれて。それが、コンビニとかで食べるようなやつと全然違って、本当においしくて。

 夕飯を食べ終えた頃になって、Jさんから『今日の今頃から、祭りが始まるんだけど、行きませんか?』って言ってくれて。それで、彼女と二人で話し合って、行ってみようかってことになったんです。

 男性の家族と僕らで祭りへ行きました。少しして、道のあちこちにつけられた提灯の明かりと、明かりに照らされた屋台が見えてきました。

 僕は屋台では何も買わなかったんですけど、彼女のほうはわたがしを買って、食べていました。

 屋台で遊んでる地元の子供とかもいっぱいいましたし、すごくにぎやかだったんです。

 そうやって見て歩いてたら、Jさんが『神社の神様へあいさつに行きましょう』って言い出して。それでJさんについていったんです。

 屋台のあるところから少し外れたところに、階段があって。階段を登ったその先に、赤い鳥居があるんです。そのあたりは提灯とかもなくて、薄暗かったんですけど、神社にあった灯篭の明かりのおかげで懐中電灯はなくても歩けるようにはなっていました。

 階段の最上段まで行くと、参道の両脇に、着物を着た人たちが並んでいるのが見えて。その人たちみんなが、なんかお面をかぶっているように見えまして。口がにゅうって伸びてて耳が生えている、狐のお面みたいなかんじでした。その時は、お祭りのしきたりとか何かで被っているのかな、って思っていたんです。

 それから、鳥居をくぐって参道を歩く時にふと、並んでる人たちのうちの一人の顔が、目に入ったんです。で、見たら、お面をかぶってないんですよ。お面だと思ってた部分はお面じゃなくて、狐の顔そのものだったんです。体は人間で、着物も着てるのに、そのなにかは、頭だけが狐なんですよ。

 それだけじゃないんです。並んでるのみんな、頭が動物で、人間が一人もいないんです。

 怖くなっちゃって、僕はそこで立ち止まってしまって。でも、彼女はそのまますたすた歩いて行ってしまって。『おい!』って呼びかけたんですけど、振り向きもしなくて。

 で、俺が彼女に向かって呼びかけたとたん、その動物の頭をしたなにかがこっちを見てきたんです。で、今でも後悔してるんですけど、その時僕は、怖くなって逃げちゃったんですね。

 Jさんが、えどうしたの? みたいな顔で見てきたんですけど、それも無視して走って。夢中で走ってるうちに、いつの間にか、集落を抜けて、あの集落へ続く道も抜けて、車に戻ってきていました。

 そこで、彼女を置いてきてしまったってことに気づいて、慌てて彼女に電話をかけました。でも、彼女には連絡がつきませんでした。今も連絡はつながっていません。

 一旦は帰っちゃったんですけど、あれからあとでもう一回、その集落へ行ってみたんです。まったく同じところに車で来て、同じ道を通ってその集落へ行ったんです。

 そしたら、ないんですよ、Jさんの家が。あったのは、ぼろぼろになった廃屋ばっかりで、とっくに廃村になったような、こんなところに人がいるわけないっていうような家ばかりで。もちろん、住んでる人なんていませんでしたし、どれだけそこを探しても、彼女は見つかりませんでした」


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 依頼主はKさんという方で、大学生で、日本人と外国人のハーフみたいな顔立ちの男性でした。
Kさん
「俺には彼女がいて、その彼女と二人で心霊スポット巡りみたいなことをやっていたんですよ。それで、あそこには幽霊いなかったね、とか、あそこは声がしたからなんかいるかもね、とかそういう興味半分、怖さ半分みたいなかんじで行ってたんです。
 それで、おとといのことなんですけど、T集落に行ってきたんです。そこはもう廃村になってるんですけど、ガチでやばいって言われてて。行きと帰りでいる人数が変わってるとか、あとは行ったきり帰ってこなかった人がいるとか、そういう噂のある場所らしいんです。やばいのは知ってたんですけど、ここのところ、心霊スポットに行っても何も起こらないっていうことが続いてて、ちょっと刺激が欲しかったっていうのもあって、T集落へ行くことにしたんです。
 マップで位置を見ながら、車で入口の近くまで行って、途中からは歩いて行って、夕暮れには集落の入口に着きました。
 道が舗装されてるわけでもないし、ガードレールにもこけが生えていて、けっこうさびれた雰囲気の場所でした。
 村へつながる道は、木がすぐ両脇にいっぱい生えていて、陽の光をさえぎってしまっていました。くわえて夕暮れだったので、その時は懐中電灯なしだと行くのが難しい、っていうぐらい真っ暗でした。
 道を抜けると、家がありました。そのころにはもう、外は真っ暗になっていました。廃村だから、家に人がいるはずがないんですよ。それなのになんでか、家の中に明かりがついてて。
 それで、なんで住んでる人がいるのって、俺も彼女もびっくりしてしまって。場所を間違えたかな、って思ってスマホで現在地を調べようとしたんですけど、スマホが圏外になってしまっていて、調べられませんでした。
 でも、マップでT集落の近くまで来てたっていうのは確認してるので、近くにT集落があるのは間違いなかったんです。だから、道を間違えただけなんだろう、と思ったんです。
 集落の近所に住んでる人なら、道がわかるかもしれないってことになって、その明かりがついてる家のうちの一つに行って、道を尋ねることにしたんです。
 チャイムを鳴らしたら、三十代くらいの男の人が出てきてくれて、『どうかしましたか?』って優しいかんじで聞いてくれて。
 それで、『僕たちT集落に行きたいんですけど、どこにあるか知りませんか?』って聞いてみたんです。
 そしたら、知らないって言われてしまって。その男の人、Jさんっていうんですけど、彼が言うには、T集落なんて知らないし、近所にもそういう名前の集落はない、ということでした。
 そこで、場所を間違えたんだっていうことに気がついて、お礼を言って帰ろうとしたんです。
 そしたら、彼が『こんな夜中に帰るのは危ないから、うちに泊っていきなさい』って言ってくれたんです。
 ちょっと迷ったんですけど、山だし、暗いし、熊が出るかもしれないし、夜に歩いて帰るのは僕らも不安だったので、その日の夜は泊まることにしたんです。
 彼には、奥さんと三人の子供がいて、しかも家族みんなすごく優しくしてくれて。三人の子供なんか、僕らにすごく懐いてくれて、一緒に遊ぼう、みたいなことを言ってくれたんです。しかも、夕飯に水炊き鍋をごちそうしてくれて。それが、コンビニとかで食べるようなやつと全然違って、本当においしくて。
 夕飯を食べ終えた頃になって、Jさんから『今日の今頃から、祭りが始まるんだけど、行きませんか?』って言ってくれて。それで、彼女と二人で話し合って、行ってみようかってことになったんです。
 男性の家族と僕らで祭りへ行きました。少しして、道のあちこちにつけられた提灯の明かりと、明かりに照らされた屋台が見えてきました。
 僕は屋台では何も買わなかったんですけど、彼女のほうはわたがしを買って、食べていました。
 屋台で遊んでる地元の子供とかもいっぱいいましたし、すごくにぎやかだったんです。
 そうやって見て歩いてたら、Jさんが『神社の神様へあいさつに行きましょう』って言い出して。それでJさんについていったんです。
 屋台のあるところから少し外れたところに、階段があって。階段を登ったその先に、赤い鳥居があるんです。そのあたりは提灯とかもなくて、薄暗かったんですけど、神社にあった灯篭の明かりのおかげで懐中電灯はなくても歩けるようにはなっていました。
 階段の最上段まで行くと、参道の両脇に、着物を着た人たちが並んでいるのが見えて。その人たちみんなが、なんかお面をかぶっているように見えまして。口がにゅうって伸びてて耳が生えている、狐のお面みたいなかんじでした。その時は、お祭りのしきたりとか何かで被っているのかな、って思っていたんです。
 それから、鳥居をくぐって参道を歩く時にふと、並んでる人たちのうちの一人の顔が、目に入ったんです。で、見たら、お面をかぶってないんですよ。お面だと思ってた部分はお面じゃなくて、狐の顔そのものだったんです。体は人間で、着物も着てるのに、そのなにかは、頭だけが狐なんですよ。
 それだけじゃないんです。並んでるのみんな、頭が動物で、人間が一人もいないんです。
 怖くなっちゃって、僕はそこで立ち止まってしまって。でも、彼女はそのまますたすた歩いて行ってしまって。『おい!』って呼びかけたんですけど、振り向きもしなくて。
 で、俺が彼女に向かって呼びかけたとたん、その動物の頭をしたなにかがこっちを見てきたんです。で、今でも後悔してるんですけど、その時僕は、怖くなって逃げちゃったんですね。
 Jさんが、えどうしたの? みたいな顔で見てきたんですけど、それも無視して走って。夢中で走ってるうちに、いつの間にか、集落を抜けて、あの集落へ続く道も抜けて、車に戻ってきていました。
 そこで、彼女を置いてきてしまったってことに気づいて、慌てて彼女に電話をかけました。でも、彼女には連絡がつきませんでした。今も連絡はつながっていません。
 一旦は帰っちゃったんですけど、あれからあとでもう一回、その集落へ行ってみたんです。まったく同じところに車で来て、同じ道を通ってその集落へ行ったんです。
 そしたら、ないんですよ、Jさんの家が。あったのは、ぼろぼろになった廃屋ばっかりで、とっくに廃村になったような、こんなところに人がいるわけないっていうような家ばかりで。もちろん、住んでる人なんていませんでしたし、どれだけそこを探しても、彼女は見つかりませんでした」