「かま爺、遊びに来たよ!」
帰りの道中、俺達は喫茶本須賀へ立ち寄った。ウチの看板商品である、本須賀チーズを納品するためだ。
「坊主、よく来たなぁ!」
かま爺こと蒲田さんはここの店主で、牛郎を幼い頃から可愛がってくれている。山男を思わせる体格をしているが、見かけによらず心優しい壮年男性である。
「そんで拓馬、おめぇは何だか浮かねぇ顔してんなぁ?」
俺の疑問符、蒲田さんには見抜かれたようだ。さっきのこと、せっかくだから尋ねてみるか。
「尾出商店? 絹子婆さんの店はとっくの昔に取り壊された筈だが……」
そりゃそうだよな。腰曲がり婆さんが亡くなっているなら、店舗は取り壊されて然りだ。
だとしたら、俺達が立ち寄ったあの駄菓子屋は一体何だったのだろうか? 謎は深まるばかりだ。
「それよっか牛郎、お前さんにはウチの新作を試して欲しくてなぁ?」
蒲田さんの店で新作? あれほどコーヒー一筋の頑固親父がどういう風の吹き回しなんだろうか?
「かま爺の新作!? 気になる気になる!!」
牛郎は興味津々。新作って言葉、子供はありがたがるよなぁ。
「こないだ、インドの客人に教えてもらったんだ。チャイって言うらしいんだが」
チャイは確か、ミルクティーに香辛料が入ったエスニック感漂う飲み物だよな? コーヒー焙煎ばかりしてきた蒲田さんからは、とても想像もつかないメニューだ。
「うわぁーお! 何だか刺激的な香り!」
パクチーとかもそうだが、エスニックはあの独特の香味が賛否を分ける。牛郎はアリなんだろうが、正直なところ俺は苦手だ。
「……っ!!!」
一瞬牛郎は痙攣を起こしたように見えたが、すぐに意識を取り戻すとチャイを飲み干した。それも、何かに取り憑かれているかのように。
「……うぉぉぉっっっ!!!」
牛郎は高揚し、珍しく武者震いまでしている。難なら全身にオーラを纏っているようにも見える。
「体中に力が漲ってくる。力こそっ……パワーァァァッッッ!!!」
甥っ子よ、何だかバトル漫画のようなそれっぽい台詞を叫んでいるが、パワーこそ力って意味が被っているじゃないか。そもそも、チャイに麻薬のような危うい成分は含まれていない筈なのだが……?
「ん〜〜〜っ! ス〜〜〜プァ〜〜〜ッッッ!!!」
牛郎はおもむろに右肘を支え、あろうことか上腕方向へ押し込んだ。甥っ子よ、そんなことしちゃいけない!!
「プァーフェクトボディ!」
ボディビルダーの如く、牛郎は自信に満ちた表情で力こぶを作った。ネイティブっぽい発音も気になるが、それより右腕が普通に動いてないか!?
「ほぁ〜〜っ、こりゃあ魂消た! チャイってのは骨折も治っちゃまうのかぁ!!」
いやいや、いくらなんでもそれはないだろう!! チャイにそんな薬効があるなんて、聞いたこともないぞ!?
ーー
後日、病院で牛郎の上腕骨を診察してもらった。まさかとは思ったのだが、本当に骨折が治っていたんだ。
甥っ子よ、お前の体は一体どうなっているんだ……?