四人でパーティーを組んでからのハヤトは盾持ちの前衛となり、メインアタッカーをサクさんが担っていた。もともと最前衛で剣を振り回していたハヤトの持ち味は剣による攻防だ。その腕前はサクさんにも引けを取っていなかった。そのサクさんは素早さで勝るダークに槍さばきで渡り合っていたのだから、ハヤトが剣術で劣るという道理はない。
盾を失ったことで完全アタッカーにシフトしたハヤトが鬼神の如く乱れ舞う。ただし、常に全力で攻め続けてしまうとスタミナが先に尽きて動きが悪くなってしまう。そこに反撃をもらったら一巻の終わりだ。
「負けない戦いはできても勝つ戦いができるかは五分五分です。長期戦も不利でしょう」
これまで理不尽な試練を与えてきたアドミスが何を言うか! と思ったけど、そのおかげで今の強さがあることは否めない。この不安定な拮抗を破るのは女神のサポートか、それとも……。
二割を切ったスタミナを気にしてハヤトの攻撃の手が緩む。それを見越していたかのようにダークは強撃でハヤトの動きを止めてから距離を取った。
「地を巡る竜
我が命に従い
その力を大気に解き放て
マグナウォーラル」
「魔法か!」
油断ならない戦いに警戒していた私は、守りの切り札を切る。
【女神の聖衣】(守備力強化:中、魔法・ブレス防御:中、効果時間:一分)
ハヤトの足元から噴き出した熱波が土砂と共に天を突く。奇跡的な反射によって一瞬にして脱したハヤトだったけど、HPがレッドゾーンに食い込んだ。
息を飲むような状況を回避したことで私は緊張を緩めてしまった。その一瞬を突き、視界を遮る土砂の先を緑の影が動いた。
向かう先は崩れた教会の瓦礫。そこに立っていたのは心配そうに戦いを見守るリディアちゃんだった。
「なんで?!」
避難していたリディアちゃんが戻ってきていた。それに気づいたダークが彼女を襲う。こんなことを誰が予想できただろう。
気づいているのは神視点の私だけ。絵美ちゃんに伝えても間に合わない。女神の御業を使う間もない。彼女の名前を呼ぶことさえできない時間の中で、狂気の戦士の悪意が振り上げられていた。にもかかわらず、リディアちゃんの命が絶たれるという次の瞬間は訪れない。
「雷光剣」
なぜならば、背後に肉薄していたハヤトが、薄ら笑うダークの身体を両断したからだ。
リディアちゃんに襲いかかった勢いのままに教会の壁にダークの上半身が貼り付いた。下半身は地面を転がって半身を追いかけていくように滑っていく。
これまで斬り倒されたモンスターを見てきたけれど、その何倍もリアルで気持ちが悪い。そんなダークを遮るように、しゃがみ込んだリディアちゃんの前に立つハヤトは大きく呼吸を繰り返している。
結果的には勝利したけど優位な点は少なく、戦い方によっては負けていた可能性もある。この勝利は迷惑だったPvPのおかげではないだろうか。あのとき多くの対人経験を積めたことは僥倖だったのかもしれない。
下半身とサヨナラして血を吐き苦しむダークは虫の息だ。もうすぐこの世界からもサヨナラするであろう者に対し、ハヤトは嫌悪を込めて質問を投げかけた。
「で、てめぇは何もんだ?」
「鬼畜かよ。死にかけの人間相手に」
「死なねぇんだろ? 女神から聞いた。俺がゲームの『死』は現実の『死』って言ったときに答えなかったのは、その認識の違いからか」
「ゲームで死んだら本当に死ぬ。そんなことがあってたまるかよ。だったらこんなことしてねぇ。ゴボッ」
吐血量が凄い。これをゲームが再現しているとは考えられない。ゲームなの? 現実なの?
「死なないからやってたってのか。ゲーム気分かよ。殺人鬼野郎」
「ゲームだろ? グランド・ユートピア。ぜんぜん
理想郷じゃなかったけどな」
「グランド・ユートピア? なんだそりゃぁ。フロンティアじゃねぇのか?」
「俺がやってるゲームだ。そこから来た。ゴホッ、この世界を……奪うために」
「どういう意味だよ。なんで違うゲームの奴がフロンティアに……。奪うってなんだ。そのために殺そうとしてたのか?」
「これ以上しゃべらせんな。死なねぇけど痛ぇんだ。リアルの半分くらいの痛みか。クソ」
「てめぇがやったことに対する罰にしては軽いぜ」
「そう思うなら……トドメを刺せよ」
「刺さない。少しでも長く苦しめ」
あの穏やかでのほほんとしていた隼人が、六週間ほどの異世界生活の中で随分と荒々しくなったものだ。死ぬ間際の悪党に対して吐き捨てるセリフはなかなかに酷烈だった。
ダークは吐血を繰り返し、目は虚ろに空を仰いでいる。きっともう視力はないのだろう。これで本当に死なないの? 肉体が死んだら魂が別の場所に帰るから? 死なないってよりも『死』を体験して生き返るって感じでしょ。
「フライングして来たら、ゴホッ、これかよ。ちょっと舐めてた。お前の顔と名前は覚えたぜ。ゴホッゴホッ。次は……殺す……。また……な」
「もう会わねぇよ」
息を引き取ったダークが再び動く気配はない。ここから復活するとかって悪役補正はないようで、今度こそ私は胸を撫でおろした。