タカランは舐めるようにカトラの体を見回した。カトラの背丈は同世代よりも頭半分くらいは低い。大人が折ろうとすれば折ることができるような細腕。舐められる材料は十分すぎるほどに揃っている。
「舐められないっても、ガキじゃないか。そら舐められるさ」
今度はカトラはタカランの容姿をジロリと見る。彼女の腕は血管が浮き出ており、大木のようだ。シワが顔に刻まれているが、衰えどころか歴戦の猛者であることを感じさせる。
「でも、強く《《見えなきゃ》》いけない。あの子達を守りながら宝石を探さなくちゃ」
カトラの声には砂粒ほどの震えがあった。しかしそれを上回る意思がタカランには感じられた。
タカランは顎に手を当てて少し項垂れると、ため息をついた。
「ガキのサイズはないけどね。見繕ってやる」
タカランは胸ポケットに手を突っ込む。ガサガサと何かを探そうとしていた。中からは吸い殻やら木の破片やら色々出てくる。やっとお目当てのを見つけたタカランはポケットから手を出す。その手には小さな金色のオウムがいた。金貨のような輝きを見せるそのオウムにタカランは命じる。
「木箱の三四番を持ってきておくれ」
ばちんとゴムのような音を立てて、オウムがタカランの手から飛び立つ。すると数分も経たないうちに、オウムは小さな足で、一つの木箱を運んできた。
カトラはそれを見て目を疑う。赤子が大岩を持ち上げている光景を見ているかのようだった。一方その光景に慣れっこなタカランはオウムを労ってから、木箱を開けた。
「まだ筋肉が少なかった頃のあたしの服だ」
襟付きの白いシャツ、その上から羽織る紺色の革製のジャケットがセットになった服が出てきた。タカランはそのシャツを広げ、カトラに重ねた。
「まぁ、いいじゃないか。ただ言っとくよ?これはあたし達海賊の服だ。舐められはしないだろうけど、《《そういう目》》で見られる覚悟はあるかい」
「宝石と仲間以外のことなんて気にしてられない」
カトラは端的に答えた。その声に一切の震えや恐れはなかった。王に忠誠を誓った騎士のような、巨悪を眼前に剣を構える勇者のようなまっすぐな声だった。
カトラがシャツに腕を通し、皮のジャケットを羽織り、ズボンを履き替える。サイズはぴったりとはいかずとも、動きに支障はなかった。腕を伸ばし、くるりとその場で回転してみても問題はない。
カトラは胸に手を当てて、息を吸う。そしてゆっくりと吐くとタカランに向き直った。
「本当にありがとう。タカランさん」
「いいさ。こちらもガキどもをどうにかしてやれなくて悪いね。ま、がんばりなよ」
タカランは懐から一つの長細いケースを取り出した。それをカトラに渡すとビネアホエール号から飛び降りる。背中を見せ、手をひらひらと振った。
「カトラ、ソレはあんたの覚悟の印だと思うよ。船は後で海に引っ張り出してやる。準備しな」
タカランの背中は森へと消えていく。島の反対側の彼女の船へと戻るのだ。彼女の大きな背中が見えなくなったとき、カトラは受け取った細いケースに目を落とした。
「なんだろう」
隣にいたコーンと、トリィと共に細いケースを開けてみる。そこにはカトラがタカランに向けた針、前腕くらいの長さの太めの針が入っていた。
「カトラさんカトラさん、見せて!」
「ダメだよトリィ。危ない」
ぴょんぴょんと跳ねるトリィを宥めるコーンをよそにカトラはその針をみつめた。何もついていない綺麗な針だった。
一方で栗色の髪の少女はすぐに興味が移っていた。
「カトラさん。やっぱり素敵な服ね。かっこいい!」
革製のジャケットをペシペシとたたくトリィにカトラは微笑んだ。そして針の先にカバーを取り付けて懐に仕舞い込む。
「トリィ、コーン。私は宝石を探すけど、あなた達の故郷も見つけるからね。また」
「ありがとう。でも、僕たちもう村は半ば諦めてる……さっき話したんです。あの惨状に戻るのが……怖くもあります」
「コーン……」
「僕は宝石探しの旅に一枚噛もうと思います。美味しい魚を探します」
「じゃあ、あたし二枚!」
二人は無邪気に、しかし物憂げな色を含めた声で言う。カトラはそんな二人や他の子供達に心配の目線を送る。無理を言わせてるのでは、そう思った。
そんな気持ちを読み取ったコーンは自身の胸に手を当てて、カトラの目をまっすぐと見つめた。
「故郷に帰りたくなる子もいるかもでしょうが、まだ先です。今残ってることをやりましょう。《《キャプテン》》」