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300リミットの激闘 ―2―

ー/ー



 ヴェローニカに宿った『命の魔法』。それは、根源の力に届きうる強大な魔法だ。ヴェローニカは、神の鍵の1つ、『生命(いのち)の鍵』と同じ力を、鍵を使わずとも根源の力を行使することができる唯一の存在。


「”森よ、悪しき者を止めて”!」


 ヴェローニカの言葉に合わせて植物が成長し、命令どうりに悪夢の怪物(ナイトメア)を縛り付けた。木々の根が伸び、悪夢の怪物(ナイトメア)の強靭な四肢に絡みつき動きを止める。手足を縛られた悪夢の怪物(ナイトメア)はまるで身動きをとることができず、目の前のヴェローニカに近づけずにもがいている。


「今です、国綱!」


 ヴェローニカの合図と共に悪夢の怪物(ナイトメア)の死角から国綱が飛び出す。


(リミットまでもう残り数秒! 出し惜しみはしない!)


 今の悪夢の怪物(ナイトメア)に傷をつけることは容易ではなくなった。国綱たちにできることは足止めしかない。国綱の思考は『悪夢の怪物(ナイトメア)を倒すこと』から『足止めをしつつ時間を稼ぎ、少しでもダメージを与えること』に変化しつつあった。

 だが、国綱は5分以内で悪夢の怪物(ナイトメア)を倒すことを諦めたわけではない。


(ヴェローニカとならやれる……! 持ってくれよ!)


 宮本国綱は生まれつき特異体質だった。国綱の()は、視覚情報を制限する能力が常人の能力を超越している。国綱は、視覚を限界まで使用できる特異体質。その影響か、国綱のは極東人らしくない青く澄んだ瞳をしていた。


「”万華鏡(カレイドスコープ)”!」


 それは、国綱が己の特異体質と向き合い続けた末に編み出された技。万華鏡のように輝く眼に映るものは、コンマ数秒先の未来。視覚の1()2()0()%()使用。それが『万華鏡(カレイドスコープ)』の能力だ。
 本来なら、国綱はこの状態が常時なのだが、脳にかかる負荷が大きすぎるため、封印魔法と眼に弱化の魔法をかけることで力を制御している。そうでもしなければ脳が情報を処理しきれず焼き切れてしまうからだ。
 たったコンマ数秒とはいえ、国綱は未来視を可能にしている。国綱の特異体質、視覚の限界使用と未来視は、自身の戦闘スタイルとこれ以上ないほど噛み合っていた。


「”四葩(よひら)”!」


 ヴェローニカによって身体は拘束されている。身動きは取れない。声に気づいてはいるが振り返りはしない。この一撃は、確実に入る。そう確信した国綱が刀を振るう。

 だが――


「ぐっ……」


 ぐらりと、国綱の視界が歪む。確かに入るはずの一撃は悪夢の怪物(ナイトメア)のうなじを僅かに傷つけただけだった。


「国綱!」


 万華鏡(カレイドスコープ)の弱点は国綱自身も理解していた。脳への負担も、数秒ならなんとかできる程度のはずだった。だが、至らなかったのは、国綱の力量の方だった。たった数秒でさえも、国綱は万華鏡(カレイドスコープ)を維持することができなかった。


(くそっ! 普段サボっていたツケがここにきて……!)


 刀を握る手は弱々しく、頭がぼんやりとして思考が働かない。視界は靄がかかったように不明瞭になっていき、平衡感覚すら失いそうになっていく。意識が消えかかる寸前、国綱は残っていた力を振り絞り――

 自分の右脚を斬りつけた。


(死んでもいい! 食らいつけ!)


 瀉血という治療法が存在する。人体の血液を外部に排出することで、症状の改善を求める治療法だ。古くは、この治療法が各地で熱心に信じられ、さかんに行われていたが、現代では医学的根拠はないとされている。
 しかし、この自傷は思わぬ方向に展開した。万華鏡(カレイドスコープ)によって焼き切れる寸前まで酷使されていた脳の思考は、自傷の痛みにより痛覚に支配された。脳は痛みによって冴え渡り、万華鏡(カレイドスコープ)を使用してなお、脳に負担がかからないギリギリの状態を維持できるようになっていた。


「治さなくていい! 今は時間を稼ぐことだけに集中してくれ!」


 国綱は心配そうに見つめてくるヴェローニカにそう言うと、再び刀を握りしめて悪夢の怪物(ナイトメア)に攻撃を仕掛ける。
 悪夢の怪物(ナイトメア)はヴェローニカに執着している。うなじに傷を負っても国綱に気が付かないほどの執念で暴れていた。縛り付けている木々の根も限界が近いのか、絶え間なく鈍い音を立てている。


「これ以上は無理です! 騎獅道さん、早く!」


 ヴェローニカがそう投げかけても、旭は返事一つしなかった。一瞬の沈黙。森のざわめきすらない数秒。夜を泳ぐ沈黙を破るように、悪夢を怪物(ナイトメア)が猛々しく叫ぶ。それと同時に、バキッと、何かが砕ける大きな音が響いた。


「イ、『生命』……オマ、オ……お前ノセイデ!」


 木々による拘束を粉砕し、悪夢の怪物(ナイトメア)が、ヴェローニカに手をかけようとした、その刹那――


「いい加減にしろ、なり損ない」


 刃が悪夢を斬り払う。国綱は悪夢の怪物(ナイトメア)の両腕をいとも容易く斬り落とした。


「これ以上、彼女を(おびや)かすな!」


 ぼとりと、悪夢の怪物(ナイトメア)の両腕が転がっていく。初めて痛みに悶える悪夢の怪物(ナイトメア)が怯み、逃げるように1歩退いた。だが、それは敗走などではなかった。最初から欠片の興味も示していなかったかのように、国綱たちに背を向け、悪夢の怪物(ナイトメア)はその男と向き合った。
 敵を再度確認するような目つきで睨む。悪夢の怪物(ナイトメア)の表情は今までに見たこともないほど怒りで歪んでいた。


「やればできるじゃねぇか、金髪。ちょっとは見直したぜ」


 悪夢の怪物(ナイトメア)は追想する。『生命(いのち)』と『救世(きゅうせい)』の力を持つ白髪の男と、世界への反逆者との戦いを。今は誰も知ることのない、覚えてもいない激闘を。
 そして悔しくも、悪夢の怪物(ナイトメア)は、『記憶する者(レコーダー)』は重ねていた。目の前の敵を、あの宿敵の面影と。


「選手交代だ」

「オ……お前ハ! 殺サナいといけないンダ!!!! 久遠(きゅうえん)!」


 やけに流暢な喋り方になっていることに旭は気づいていたが、それを気にしている暇はなかった。ある程度は焔の魔法を使えるようにはなっていたが、いつまた暴走するか予想がつかない状況だ。
 だが、一番の問題はそこではなかった。今の旭には、焔の魔法を使う度に命を蝕み、死へと近づけていく『焔の印』がある。焔を使えば使うほど苦しくなっていく。
 焔を使わなければ悪夢の怪物(ナイトメア)は倒せない。焔を使えばいつか暴走し、『焔の印』が進行してしまう。


(それまでに掴むんだ。焔の本質を。魔法の根源を!)


 焔の本当の在り方を掴むことができなければ――


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 ヴェローニカに宿った『命の魔法』。それは、根源の力に届きうる強大な魔法だ。ヴェローニカは、神の鍵の1つ、『|生命《いのち》の鍵』と同じ力を、鍵を使わずとも根源の力を行使することができる唯一の存在。
「”森よ、悪しき者を止めて”!」
 ヴェローニカの言葉に合わせて植物が成長し、命令どうりに|悪夢の怪物《ナイトメア》を縛り付けた。木々の根が伸び、|悪夢の怪物《ナイトメア》の強靭な四肢に絡みつき動きを止める。手足を縛られた|悪夢の怪物《ナイトメア》はまるで身動きをとることができず、目の前のヴェローニカに近づけずにもがいている。
「今です、国綱!」
 ヴェローニカの合図と共に|悪夢の怪物《ナイトメア》の死角から国綱が飛び出す。
(リミットまでもう残り数秒! 出し惜しみはしない!)
 今の|悪夢の怪物《ナイトメア》に傷をつけることは容易ではなくなった。国綱たちにできることは足止めしかない。国綱の思考は『|悪夢の怪物《ナイトメア》を倒すこと』から『足止めをしつつ時間を稼ぎ、少しでもダメージを与えること』に変化しつつあった。
 だが、国綱は5分以内で|悪夢の怪物《ナイトメア》を倒すことを諦めたわけではない。
(ヴェローニカとならやれる……! 持ってくれよ!)
 宮本国綱は生まれつき特異体質だった。国綱の|眼《・》は、視覚情報を制限する能力が常人の能力を超越している。国綱は、視覚を限界まで使用できる特異体質。その影響か、国綱の《《眼》》は極東人らしくない青く澄んだ瞳をしていた。
「”|万華鏡《カレイドスコープ》”!」
 それは、国綱が己の特異体質と向き合い続けた末に編み出された技。万華鏡のように輝く眼に映るものは、コンマ数秒先の未来。視覚の|1《・》|2《・》|0《・》|%《・》使用。それが『|万華鏡《カレイドスコープ》』の能力だ。
 本来なら、国綱はこの状態が常時なのだが、脳にかかる負荷が大きすぎるため、封印魔法と眼に弱化の魔法をかけることで力を制御している。そうでもしなければ脳が情報を処理しきれず焼き切れてしまうからだ。
 たったコンマ数秒とはいえ、国綱は未来視を可能にしている。国綱の特異体質、視覚の限界使用と未来視は、自身の戦闘スタイルとこれ以上ないほど噛み合っていた。
「”|四葩《よひら》”!」
 ヴェローニカによって身体は拘束されている。身動きは取れない。声に気づいてはいるが振り返りはしない。この一撃は、確実に入る。そう確信した国綱が刀を振るう。
 だが――
「ぐっ……」
 ぐらりと、国綱の視界が歪む。確かに入るはずの一撃は|悪夢の怪物《ナイトメア》のうなじを僅かに傷つけただけだった。
「国綱!」
 |万華鏡《カレイドスコープ》の弱点は国綱自身も理解していた。脳への負担も、数秒ならなんとかできる程度のはずだった。だが、至らなかったのは、国綱の力量の方だった。たった数秒でさえも、国綱は|万華鏡《カレイドスコープ》を維持することができなかった。
(くそっ! 普段サボっていたツケがここにきて……!)
 刀を握る手は弱々しく、頭がぼんやりとして思考が働かない。視界は靄がかかったように不明瞭になっていき、平衡感覚すら失いそうになっていく。意識が消えかかる寸前、国綱は残っていた力を振り絞り――
 自分の右脚を斬りつけた。
(死んでもいい! 食らいつけ!)
 瀉血という治療法が存在する。人体の血液を外部に排出することで、症状の改善を求める治療法だ。古くは、この治療法が各地で熱心に信じられ、さかんに行われていたが、現代では医学的根拠はないとされている。
 しかし、この自傷は思わぬ方向に展開した。|万華鏡《カレイドスコープ》によって焼き切れる寸前まで酷使されていた脳の思考は、自傷の痛みにより痛覚に支配された。脳は痛みによって冴え渡り、|万華鏡《カレイドスコープ》を使用してなお、脳に負担がかからないギリギリの状態を維持できるようになっていた。
「治さなくていい! 今は時間を稼ぐことだけに集中してくれ!」
 国綱は心配そうに見つめてくるヴェローニカにそう言うと、再び刀を握りしめて|悪夢の怪物《ナイトメア》に攻撃を仕掛ける。
 |悪夢の怪物《ナイトメア》はヴェローニカに執着している。うなじに傷を負っても国綱に気が付かないほどの執念で暴れていた。縛り付けている木々の根も限界が近いのか、絶え間なく鈍い音を立てている。
「これ以上は無理です! 騎獅道さん、早く!」
 ヴェローニカがそう投げかけても、旭は返事一つしなかった。一瞬の沈黙。森のざわめきすらない数秒。夜を泳ぐ沈黙を破るように、|悪夢を怪物《ナイトメア》が猛々しく叫ぶ。それと同時に、バキッと、何かが砕ける大きな音が響いた。
「イ、『生命』……オマ、オ……お前ノセイデ!」
 木々による拘束を粉砕し、|悪夢の怪物《ナイトメア》が、ヴェローニカに手をかけようとした、その刹那――
「いい加減にしろ、なり損ない」
 刃が悪夢を斬り払う。国綱は|悪夢の怪物《ナイトメア》の両腕をいとも容易く斬り落とした。
「これ以上、彼女を|脅《おびや》かすな!」
 ぼとりと、|悪夢の怪物《ナイトメア》の両腕が転がっていく。初めて痛みに悶える|悪夢の怪物《ナイトメア》が怯み、逃げるように1歩退いた。だが、それは敗走などではなかった。最初から欠片の興味も示していなかったかのように、国綱たちに背を向け、|悪夢の怪物《ナイトメア》はその男と向き合った。
 敵を再度確認するような目つきで睨む。|悪夢の怪物《ナイトメア》の表情は今までに見たこともないほど怒りで歪んでいた。
「やればできるじゃねぇか、金髪。ちょっとは見直したぜ」
 |悪夢の怪物《ナイトメア》は追想する。『|生命《いのち》』と『|救世《きゅうせい》』の力を持つ白髪の男と、世界への反逆者との戦いを。今は誰も知ることのない、覚えてもいない激闘を。
 そして悔しくも、|悪夢の怪物《ナイトメア》は、『|記憶する者《レコーダー》』は重ねていた。目の前の敵を、あの宿敵の面影と。
「選手交代だ」
「オ……お前ハ! 殺サナいといけないンダ!!!! |久遠《きゅうえん》!」
 やけに流暢な喋り方になっていることに旭は気づいていたが、それを気にしている暇はなかった。ある程度は焔の魔法を使えるようにはなっていたが、いつまた暴走するか予想がつかない状況だ。
 だが、一番の問題はそこではなかった。今の旭には、焔の魔法を使う度に命を蝕み、死へと近づけていく『焔の印』がある。焔を使えば使うほど苦しくなっていく。
 焔を使わなければ|悪夢の怪物《ナイトメア》は倒せない。焔を使えばいつか暴走し、『焔の印』が進行してしまう。
(それまでに掴むんだ。焔の本質を。魔法の根源を!)
 焔の本当の在り方を掴むことができなければ――