300リミットの激闘
ー/ー
なぜ流派に『歪』と名をつけたのか。
国綱はいつの日か、旭やレオノールにそう質問されたことがあった。なぜか、と言われて明確に言語化することは難しかったが、強いて言うならば、国綱の剣技がまだ未完成だからだろう。
完全ではない、頂に至らぬまま振るう剣技は、正しく『歪』というほかない。そんな中途半端な状態の剣技に、国綱は戒めとして『歪』の名をつけた。
そもそも、国綱の剣技に本当の意味での完成は訪れない。終わりなどない。果てなく続く剣の道。生きてその道を歩み続ける限り、完成などは訪れない。『無』の待つ剣の頂。いつかそこへ至るまでは――
「歪二刀流……」
国綱はダモクレスと似たような戦闘スタイルを得意とする。強化魔法、身体強化によって強化された肉体。攻撃魔法はほとんど使わず、武器を用いた物理攻撃を主体とする。接近戦を得意とする珍しい魔法戦士型の戦闘スタイルだ。
しかし、国綱はダモクレスと違い攻撃魔法が使えないわけではない。完全に接近戦に特化したダモクレスとは少しスタイルの異なる、魔法も使いながらの近接戦。味方にも強化魔法を付与し、自分自身も中近距離で戦場を制する万能タイプだ。
二振りの刀を手にした国綱が悪夢の怪物を前に構える。まだ心臓を貫かれた痛みで悶えている悪夢の怪物に容赦なく襲いかかるのは、先程とは比べ物にならない速さと手数の連撃。
「”紅花”!」
二振りの刀による連撃。その攻撃の一つ一つが致命傷になりうる鋭い斬撃。加えて身体強化によって強化された膂力に、大木すら簡単に斬ってしまえるほどの鋭い刀。相手が人間なら、手も足も出ないだろう。手練の魔法使いであっても、国綱の戦闘スタイルは非常にやりづらいはずだ。
「ソレ、ハ……モウ……キカナイ!」
だが、それらを持ってしても、目の前に立ちはだかる悪夢の怪物には届かない。斬って、再生して、また斬って、また再生。それの繰り返し。再生する度に強靭になっていく悪夢の怪物は、わざと国綱の攻撃を受けているようにも見える。
だが、その行動に今までのような一切の油断はない。悪夢の怪物からあの憎たらしいしたり顔は消えていた。
学習している。悪夢の怪物は、自分の特性と能力を理解し、あえて致命に至らない程度の攻撃を受けることで自分を強化しているのだ。
(でも、そんなことはもう……知ってんだよ!)
だからこそ、その隙を突く。致命には至らずとも、悪夢の怪物に攻撃はできる。傷を治せるだけであって、傷ができないわけではない。国綱の選んだ答えは、ほとんど正解に近いやり方だった。
「歪二刀流、”鳥兜”」
国綱が一瞬刀を鞘に納めたその時に、細工は施されていた。自力で倒せないような相手と出会った時のための保険。この手に頼ることは、国綱の矜恃に反することだ。だが、手段を選んでいる暇はない。一瞬の判断が命取りになる場面で、国綱は瞬時に刀を鞘に納め、抜刀する。国綱の鞘にはある特殊な加工がされている。刀を鞘に納め、特殊な抜刀をすることによって、剣先に毒を仕込むことができるのだ。
「アルカロイド。植物毒の中でも一番の猛毒、トリカブトの毒やその他色々な毒が塗り込んである」
ガクンと、悪夢の怪物が膝をつく。身体は治ったそばから崩れていく。神経毒が効いているのか、視点が合っていない。何度斬ったか数え切れないほど斬った。毒は全身に回っているだろう。
「でも、お前は立ってくるだろう? 同じ轍は踏まないさ」
リミットは残り120。2分の時間を余らせて、国綱は悪夢の怪物の首に刀を振り下ろす。空を切る音とともに、ごろりと呆気なく悪夢の怪物の首が落とされた。
「……終わった」
だが――
「アハ……オマエ、ツヨクナイ……!」
悪夢は醒めはしない。いつまでも、その命を喰らうまで続く。国綱を覆うように、首のない悪夢の怪物が影を落とす。
悪夢の怪物は『不死』のなり損ない。その再生能力は『不死』には届かずとも、人外の域に達している。腕が吹き飛べば更に強靭な腕が生え、脚も同様に更に強い肉体となって再生する。それは、毒であっても同じことだ。一度食らった毒はもう効かない。多少の痺れはあっても、膝をつくようなことはもうない。
悪夢の怪物は両腕を広げて国綱に握り潰そうとする。再生を重ねて尋常ではないほど巨大化した悪夢の怪物の手のひらは国綱の身長ほどだ。
逃げ場がない。どう動いても避けきれなかった。巨大化した腕は確実に国綱を捉えている。後退しても巻き込まれる。間合いを詰めても同じことだ。上に飛んでも次の動きでやられる。
国綱は瞬時に思考を切り替える。どう足掻いても結果が変わらないなら、ただでは終わらせない。せめて間合いを詰めて、次で仕留める。徐々に迫ってくる両腕に挟まれて国綱が駆け出す。最低でもどちらかの脚は犠牲になるだろうと国綱は覚悟を決めた。
だが、国綱の予想は大きくハズれた。
「大地よ……命よ! 私に力を貸して!」
その言葉と共に、地面を割って木の根が盛り上がってくる。木の根は迫り来る悪夢の怪物の両腕から国綱を守るように伸びていく。
根をたどった先にある木は大木へと成長していた。大量の葉を落とし、周りの木々とは比べ物にならないほどの高さから国綱たちを見下ろしている。
大木によって月明かりが遮られる。声のする方へ国綱が目をやると、そこにいたのは――
「ヴェローニカ!?」
「お願いします、私も一緒に戦わせてください! 」
「ダメだ! 君はその力を使っちゃいけない!」
国綱はヴェローニカを制止するが、聞く耳を持たない。少し遠くで焔の制御を試みている旭も、ヴェローニカを止めるつもりはないようだった。
「やめるんだ! こいつは僕だけで倒す! 君は――」
「もう、守られるだけは嫌なんです!」
ヴェローニカの力の重要さを知っているからこそ、国綱は声を大にして止めようとする。だが、そんな国綱の言葉にヴェローニカは強く反発した。
「私は、もう操り人形なんかじゃない! あなたに守られるだけのお姫様でもないんです!」
「でも……危険だ! その力は!」
「私が!……私の人生を変えたいんです!」
ヴェローニカの覚悟に呼応するように、力は強くなっていく。ヴェローニカはエルフ種。妖精とも似た力を持つエルフは、森の自然と豊かさを司る。その中でも、高位のエルフには特殊な魔法が宿ることがある。その中でも、ヴェローニカに宿った魔法はエルフ種の持つ魔法は特別なものだった。
それは、単なる植物の操作のようにも見える、単純な魔法。あるいは、苗木を大木にすることも、逆に、千年生きた大木を一瞬で枯れさせることもできる。だが、ヴェローニカの魔法は植物だけに留まらなかった。大地を、川を、魔獣を。人間すらも、ヴェローニカの魔法の対象だ。
そして、ヴェローニカの魔法は決定された。それは、断じて植物の操作などという陳腐な魔法ではない。『生命を与え、奪う魔法』。その魔法の名を――
『命の魔法』
「お願いします、国綱。あなたと一緒に戦わせてください」
覚悟に満ちた表情でそういうヴェローニカの言葉に首を振ることができず、国綱は振り絞るように言った。
「……僕の後ろへ。サポートを頼む」
「――はい!」
激闘はまだ続く。リミットは残り60――
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なぜ流派に『歪』と名をつけたのか。
国綱はいつの日か、旭やレオノールにそう質問されたことがあった。なぜか、と言われて明確に言語化することは難しかったが、強いて言うならば、国綱の剣技がまだ|未《・》|完《・》|成《・》|だ《・》|か《・》|ら《・》だろう。
完全ではない、頂に至らぬまま振るう剣技は、正しく『歪』というほかない。そんな中途半端な状態の剣技に、国綱は戒めとして『歪』の名をつけた。
そもそも、国綱の剣技に本当の意味での|完《・》|成《・》は訪れない。終わりなどない。果てなく続く剣の道。生きてその道を歩み続ける限り、完成などは訪れない。『無』の待つ剣の頂。いつかそこへ至るまでは――
「歪|二《・》|刀《・》|流《・》……」
国綱はダモクレスと似たような戦闘スタイルを得意とする。強化魔法、|身体強化《フィジカルブースト》によって強化された肉体。攻撃魔法はほとんど使わず、武器を用いた物理攻撃を主体とする。接近戦を得意とする珍しい魔法戦士型の戦闘スタイルだ。
しかし、国綱はダモクレスと違い攻撃魔法が使えないわけではない。完全に接近戦に特化したダモクレスとは少しスタイルの異なる、魔法も使いながらの近接戦。味方にも強化魔法を付与し、自分自身も中近距離で戦場を制する万能タイプだ。
二振りの刀を手にした国綱が|悪夢の怪物《ナイトメア》を前に構える。まだ心臓を貫かれた痛みで悶えている|悪夢の怪物《ナイトメア》に容赦なく襲いかかるのは、先程とは比べ物にならない速さと手数の連撃。
「”|紅花《べにばな》”!」
二振りの刀による連撃。その攻撃の一つ一つが致命傷になりうる鋭い斬撃。加えて|身体強化《フィジカルブースト》によって強化された膂力に、大木すら簡単に斬ってしまえるほどの鋭い刀。相手が人間なら、手も足も出ないだろう。手練の魔法使いであっても、国綱の戦闘スタイルは非常にやりづらいはずだ。
「ソレ、ハ……モウ……キカナイ!」
だが、それらを持ってしても、目の前に立ちはだかる|悪夢の怪物《ナイトメア》には届かない。斬って、再生して、また斬って、また再生。それの繰り返し。再生する度に強靭になっていく|悪夢の怪物《ナイトメア》は、わざと国綱の攻撃を受けているようにも見える。
だが、その行動に今までのような一切の油断はない。|悪夢の怪物《ナイトメア》からあの憎たらしいしたり顔は消えていた。
学習している。|悪夢の怪物《ナイトメア》は、自分の特性と能力を理解し、あえて致命に至らない程度の攻撃を受けることで自分を強化しているのだ。
(でも、そんなことはもう……知ってんだよ!)
だからこそ、その隙を突く。致命には至らずとも、|悪夢の怪物《ナイトメア》に攻撃はできる。傷を治せるだけであって、傷ができないわけではない。国綱の選んだ答えは、ほとんど正解に近いやり方だった。
「歪二刀流、”|鳥兜《とりかぶと》”」
国綱が一瞬刀を鞘に納めたその時に、細工は施されていた。自力で倒せないような相手と出会った時のための保険。この手に頼ることは、国綱の矜恃に反することだ。だが、手段を選んでいる暇はない。一瞬の判断が命取りになる場面で、国綱は瞬時に刀を鞘に納め、抜刀する。国綱の鞘にはある特殊な加工がされている。刀を鞘に納め、特殊な抜刀をすることによって、剣先に毒を仕込むことができるのだ。
「アルカロイド。植物毒の中でも一番の猛毒、トリカブトの毒やその他色々な毒が塗り込んである」
ガクンと、|悪夢の怪物《ナイトメア》が膝をつく。身体は治ったそばから崩れていく。神経毒が効いているのか、視点が合っていない。何度斬ったか数え切れないほど斬った。毒は全身に回っているだろう。
「でも、お前は立ってくるだろう? 同じ轍は踏まないさ」
リミットは残り120。2分の時間を余らせて、国綱は|悪夢の怪物《ナイトメア》の首に刀を振り下ろす。空を切る音とともに、ごろりと呆気なく|悪夢の怪物《ナイトメア》の首が落とされた。
「……終わった」
だが――
「アハ……オマエ、ツヨクナイ……!」
悪夢は醒めはしない。いつまでも、その命を喰らうまで続く。国綱を覆うように、首のない|悪夢の怪物《ナイトメア》が影を落とす。
|悪夢の怪物《ナイトメア》は『不死』のなり損ない。その再生能力は『不死』には届かずとも、人外の域に達している。腕が吹き飛べば更に強靭な腕が生え、脚も同様に更に強い肉体となって再生する。それは、毒であっても同じことだ。一度食らった毒はもう効かない。多少の痺れはあっても、膝をつくようなことはもうない。
|悪夢の怪物《ナイトメア》は両腕を広げて国綱に握り潰そうとする。再生を重ねて尋常ではないほど巨大化した|悪夢の怪物《ナイトメア》の手のひらは国綱の身長ほどだ。
逃げ場がない。どう動いても避けきれなかった。巨大化した腕は確実に国綱を捉えている。後退しても巻き込まれる。間合いを詰めても同じことだ。上に飛んでも次の動きでやられる。
国綱は瞬時に思考を切り替える。どう足掻いても結果が変わらないなら、ただでは終わらせない。せめて間合いを詰めて、|次《・》で仕留める。徐々に迫ってくる両腕に挟まれて国綱が駆け出す。最低でもどちらかの脚は犠牲になるだろうと国綱は覚悟を決めた。
だが、国綱の予想は大きくハズれた。
「大地よ……命よ! 私に力を貸して!」
その言葉と共に、地面を割って木の根が盛り上がってくる。木の根は迫り来る|悪夢の怪物《ナイトメア》の両腕から国綱を守るように伸びていく。
根をたどった先にある木は大木へと成長していた。大量の葉を落とし、周りの木々とは比べ物にならないほどの高さから国綱たちを見下ろしている。
大木によって月明かりが遮られる。声のする方へ国綱が目をやると、そこにいたのは――
「ヴェローニカ!?」
「お願いします、私も一緒に戦わせてください! 」
「ダメだ! 君はその力を使っちゃいけない!」
国綱はヴェローニカを制止するが、聞く耳を持たない。少し遠くで焔の制御を試みている旭も、ヴェローニカを止めるつもりはないようだった。
「やめるんだ! こいつは僕だけで倒す! 君は――」
「もう、守られるだけは嫌なんです!」
ヴェローニカの力の重要さを知っているからこそ、国綱は声を大にして止めようとする。だが、そんな国綱の言葉にヴェローニカは強く反発した。
「私は、もう操り人形なんかじゃない! あなたに守られるだけのお姫様でもないんです!」
「でも……危険だ! その力は!」
「私が!……私の人生を変えたいんです!」
ヴェローニカの覚悟に呼応するように、力は強くなっていく。ヴェローニカはエルフ種。妖精とも似た力を持つエルフは、森の自然と豊かさを司る。その中でも、高位のエルフには特殊な魔法が宿ることがある。その中でも、ヴェローニカに宿った魔法はエルフ種の持つ魔法は特別なものだった。
それは、単なる植物の操作のようにも見える、単純な魔法。あるいは、苗木を大木にすることも、逆に、千年生きた大木を一瞬で枯れさせることもできる。だが、ヴェローニカの魔法は|植《・》|物《・》|だ《・》|け《・》|に《・》|留《・》|ま《・》|ら《・》|な《・》|か《・》|っ《・》|た《・》。大地を、川を、魔獣を。人間すらも、ヴェローニカの魔法の対象だ。
そして、ヴェローニカの魔法は決定された。それは、断じて植物の操作などという陳腐な魔法ではない。『生命を与え、奪う魔法』。その魔法の名を――
『命の魔法』
「お願いします、国綱。あなたと一緒に戦わせてください」
覚悟に満ちた表情でそういうヴェローニカの言葉に首を振ることができず、国綱は振り絞るように言った。
「……僕の後ろへ。サポートを頼む」
「――はい!」
激闘はまだ続く。リミットは残り60――