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焔の印 ―4―

ー/ー



 薔薇のように花ひらく焔が、国綱を襲う寸前の悪夢の怪物(ナイトメア)を焦がす。焔を制御できたのではない。暴れる焔の魔法を抑えるため、()()()()()()()()()()ことで魔法の暴走を最小限にしただけに過ぎない。


「何度も連発はできない。次はないぞ」

「あぁ……けど、問題は――」


 国綱の悪い予感は的中した。旭の使う焔の魔法の中でも一番の火力を誇る『妖魔(ようま)彼岸薔薇(ひがんばら)』をもろに食らって倒れ込んだ悪夢の怪物(ナイトメア)がゆっくりと起き上がる。
 焼け焦げた身体は徐々に再生し、より強靭な肉体へと変質していく。赤褐色の身体はより赤黒い色に変わる。自身の傷の具合を確認した悪夢の怪物(ナイトメア)は、まだまだ余裕だと言わんばかりににたりと口角を上げて笑みを浮かべている。


「あいつをやるにはまだ火力が足りない」

「けど、焔はまだ制御しきれないんだろう?」

「あぁ、だから……」

「僕が時間を稼ぐ。それでいいな」

「あっ……おい!」


 旭の言うこともろくに聴いていない国綱は悪夢の怪物(ナイトメア)に向かって走り出した。姿勢を低くした移動。肩越し構えから放たれる一振は悪夢の怪物(ナイトメア)の肥大化した左脚を捉える。
 刀を振り抜き、聞こえてきたのは空を切る音。微かな手応えすら感じられない。悪夢の怪物(ナイトメア)の左脚にはほんの数ミリだけの切り傷があった。その傷が刀の一振によってできた傷だと認識するまでには時間を要した。
 強靭さと鋭利さを兼ね備えた極東の刀。かつては、試し斬りにより、7人の罪人の胴を斬ったという逸話を持つ刀もあったと言う。『剣』や『ナイフ』とは比べ物にならない切れ味を持つ刀。悪夢の怪物(ナイトメア)と言えどそれは例外ではなく、腕や脚を斬るなんてことは容易なはずだ。

 だが――


(斬れて……ない)


 再生によってより強くなって生えてきた肥大化した左脚は国綱の刀をまるで通さない。薄皮一枚を切り裂き、その強靭な肉体に、国綱の一撃は通らなかった。


「くそっ! 手間かけさせやがって!」


 あまりの衝撃に回避を忘れた国綱に、悪夢の怪物(ナイトメア)の無慈悲な一撃が襲いかかる。姿形は人間でも、人間のそれとはかけ離れた膂力。容易く地面を抉る左腕が振り上げられる。


「”陽炎(かげろう)”!」


 鈍い轟音が響き渡り、悪夢の怪物(ナイトメア)の左腕が大地を変形させる。ひび割れた地面。手の形のようにへこんだ地形がその威力を物語っていた。
 ゆらゆらと揺れ、まるで夏に見る幻覚のように悪夢の怪物(ナイトメア)の前から国綱が姿を消す。悪夢の怪物(ナイトメア)の手の届かない場所てをは、大汗をかいた旭が国綱を抱えていた。


「ただえさえ思うように魔法が使えねぇってのに、慣れねぇことさせるんじゃねぇよ! せめて右脚狙え!」

「仕方ないだろ! あんな巨体相手に誰が上手く立ち回れるって言うんだよ!」


 ところ構わず、国綱と旭は言い合いを始める。目の前の相手が見えていないかのように大声で捲し立て、罵詈雑言が飛び交う。緊張さの欠けらもない戦場だ。


「だいたいお前が勝手に突っ込んだのが悪い!」

「あれ相手に策なんか通用するか! お前の一撃に賭けるしかないんだよ! 分かったら早く掴め!」

「俺が一番困惑してんだ無茶言うな!」


 戦場で悠長にも口論を繰り広げる2人目掛けて悪夢の怪物(ナイトメア)が駆け出す。肥大化した左腕、左脚を窮屈そうに動かして走ってくる。左脚は持ち上げることが難しいのか、引きずったままガリガリと地面を削りながら突進する。


「国綱! 避けて!」


 ヴェローニカが反対側でそう叫ぶ。だが2人は言い争いをやめる様子もなく、悪夢の怪物(ナイトメア)はどんどん近づいてきた。そして、間合いに入ったその瞬間、引きずっていた左腕を振り上げ、国綱の旭に狙いを定める。それで、勝敗は決したかのように思えた。悪夢の怪物(ナイトメア)の左腕が直撃する寸前に、獲物たちが牙を剥く。


「邪魔だ!」

「退け!」


 言い争いによって、2人のボルテージは上がっている。


「”紅蓮(ぐれん)”!」


 旭の焔が悪夢の怪物(ナイトメア)の左腕を跳ね返し、難を逃れる。衝撃でバランスを崩した悪夢の怪物(ナイトメア)は体勢を落とす。その瞬間に、国綱は悪夢の怪物(ナイトメア)の懐に潜り込んだ。


(刀は斬るだけの武器じゃない!)


 その武器による攻撃は効かないと理解していた悪夢の怪物(ナイトメア)はにたりと笑う。だが、その笑みは次の瞬間に消えていた。


歪一刀流(いびついっとうりゅう)晴嵐(せいらん)”!」


 国綱の刀による刺突が悪夢の怪物(ナイトメア)の命を手をかけた。ぐさりと突き刺さった刀は悪夢の怪物(ナイトメア)の心臓を確実に捉えた。


「まだだ! ()()()は立ってくるぞ!」

(分かっている! もう油断はしない!)


 倒れ込む悪夢の怪物(ナイトメア)に容赦なく叩き込まれる連撃。心臓、腹、右腕、右脚、そして首。流れるような連撃が悪夢の怪物(ナイトメア)を襲う。

 だが、悪夢は今だ醒めず――


「……なぁ、今何回斬ったと思う?」

「知るか。でも、()()が現実だろ」


 国綱の連撃によって刻まれた傷は治りきらず、刻傷(こくしょう)となって残っている。この時、2人は目の前の相手の認識を改めた。


「オレハ……『記憶する者(レコーダー)』……永遠(とわ)二、忘レルコトナキ……『記憶する者(レコーダー)』!」


 悪夢の怪物(ナイトメア)は再び立ち上がる。再生によってより強くなった身体は、もはや普通の悪夢の怪物(ナイトメア)とはかけ離れている。


「オーケー、『記憶する者(レコーダー)』ね。覚えておいてやるよ」


 その日、2人は互いに互いを認め合う。目の前の相手は、獲物ではなく、敵などでもない、宿()()なのだと。


「でも、お前の相手はまだ俺じゃない」


 そして、悪夢の怪物(ナイトメア)に立ちはだかるのは、刃を持つもの。その背には愛する者がいる。退くわけにも、ましてや負けることなどあってはならない。


「5分で慣れてみせる。それまで頼む」

「へぇ、5分ね……」


 国綱は()()の刃を両手に持ち、悪夢の怪物(ナイトメア)と相対する。その表情に、もう迷いはない。現在のことも、これからの事もどうでもいい。今はただ、この闘いに没頭するだけだ。


「関係ないね。5分も待たずに終わらせてやるよ」


 300リミット。たったそれだけの時間に凝縮された激闘が今始まる。


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 薔薇のように花ひらく焔が、国綱を襲う寸前の|悪夢の怪物《ナイトメア》を焦がす。焔を制御できたのではない。暴れる焔の魔法を抑えるため、|妖《・》|気《・》|を《・》|混《・》|ぜ《・》|て《・》|中《・》|和《・》|す《・》|る《・》ことで魔法の暴走を最小限にしただけに過ぎない。
「何度も連発はできない。次はないぞ」
「あぁ……けど、問題は――」
 国綱の悪い予感は的中した。旭の使う焔の魔法の中でも一番の火力を誇る『|妖魔《ようま》・|彼岸薔薇《ひがんばら》』をもろに食らって倒れ込んだ|悪夢の怪物《ナイトメア》がゆっくりと起き上がる。
 焼け焦げた身体は徐々に再生し、より強靭な肉体へと変質していく。赤褐色の身体はより赤黒い色に変わる。自身の傷の具合を確認した|悪夢の怪物《ナイトメア》は、まだまだ余裕だと言わんばかりににたりと口角を上げて笑みを浮かべている。
「あいつをやるにはまだ火力が足りない」
「けど、焔はまだ制御しきれないんだろう?」
「あぁ、だから……」
「僕が時間を稼ぐ。それでいいな」
「あっ……おい!」
 旭の言うこともろくに聴いていない国綱は|悪夢の怪物《ナイトメア》に向かって走り出した。姿勢を低くした移動。肩越し構えから放たれる一振は|悪夢の怪物《ナイトメア》の肥大化した左脚を捉える。
 刀を振り抜き、聞こえてきたのは空を切る音。微かな手応えすら感じられない。|悪夢の怪物《ナイトメア》の左脚にはほんの数ミリだけの切り傷があった。その傷が刀の一振によってできた傷だと認識するまでには時間を要した。
 強靭さと鋭利さを兼ね備えた極東の刀。かつては、試し斬りにより、7人の罪人の胴を斬ったという逸話を持つ刀もあったと言う。『剣』や『ナイフ』とは比べ物にならない切れ味を持つ刀。|悪夢の怪物《ナイトメア》と言えどそれは例外ではなく、腕や脚を斬るなんてことは容易なはずだ。
 だが――
(斬れて……ない)
 再生によってより強くなって生えてきた肥大化した左脚は国綱の刀をまるで通さない。薄皮一枚を切り裂き、その強靭な肉体に、国綱の一撃は通らなかった。
「くそっ! 手間かけさせやがって!」
 あまりの衝撃に回避を忘れた国綱に、|悪夢の怪物《ナイトメア》の無慈悲な一撃が襲いかかる。姿形は人間でも、人間のそれとはかけ離れた膂力。容易く地面を抉る左腕が振り上げられる。
「”|陽炎《かげろう》”!」
 鈍い轟音が響き渡り、|悪夢の怪物《ナイトメア》の左腕が大地を変形させる。ひび割れた地面。手の形のようにへこんだ地形がその威力を物語っていた。
 ゆらゆらと揺れ、まるで夏に見る幻覚のように|悪夢の怪物《ナイトメア》の前から国綱が姿を消す。|悪夢の怪物《ナイトメア》の手の届かない場所てをは、大汗をかいた旭が国綱を抱えていた。
「ただえさえ思うように魔法が使えねぇってのに、慣れねぇことさせるんじゃねぇよ! せめて右脚狙え!」
「仕方ないだろ! あんな巨体相手に誰が上手く立ち回れるって言うんだよ!」
 ところ構わず、国綱と旭は言い合いを始める。目の前の相手が見えていないかのように大声で捲し立て、罵詈雑言が飛び交う。緊張さの欠けらもない戦場だ。
「だいたいお前が勝手に突っ込んだのが悪い!」
「あれ相手に策なんか通用するか! お前の一撃に賭けるしかないんだよ! 分かったら早く掴め!」
「俺が一番困惑してんだ無茶言うな!」
 戦場で悠長にも口論を繰り広げる2人目掛けて|悪夢の怪物《ナイトメア》が駆け出す。肥大化した左腕、左脚を窮屈そうに動かして走ってくる。左脚は持ち上げることが難しいのか、引きずったままガリガリと地面を削りながら突進する。
「国綱! 避けて!」
 ヴェローニカが反対側でそう叫ぶ。だが2人は言い争いをやめる様子もなく、|悪夢の怪物《ナイトメア》はどんどん近づいてきた。そして、間合いに入ったその瞬間、引きずっていた左腕を振り上げ、国綱の旭に狙いを定める。それで、勝敗は決したかのように思えた。|悪夢の怪物《ナイトメア》の左腕が直撃する寸前に、獲物たちが牙を剥く。
「邪魔だ!」
「退け!」
 言い争いによって、2人のボルテージは上がっている。
「”|紅蓮《ぐれん》”!」
 旭の焔が|悪夢の怪物《ナイトメア》の左腕を跳ね返し、難を逃れる。衝撃でバランスを崩した|悪夢の怪物《ナイトメア》は体勢を落とす。その瞬間に、国綱は|悪夢の怪物《ナイトメア》の懐に潜り込んだ。
(刀は斬るだけの武器じゃない!)
 その武器による攻撃は効かないと理解していた|悪夢の怪物《ナイトメア》はにたりと笑う。だが、その笑みは次の瞬間に消えていた。
「|歪一刀流《いびついっとうりゅう》 ”|晴嵐《せいらん》”!」
 国綱の刀による刺突が|悪夢の怪物《ナイトメア》の命を手をかけた。ぐさりと突き刺さった刀は|悪夢の怪物《ナイトメア》の心臓を確実に捉えた。
「まだだ! |そ《・》|い《・》|つ《・》は立ってくるぞ!」
(分かっている! もう油断はしない!)
 倒れ込む|悪夢の怪物《ナイトメア》に容赦なく叩き込まれる連撃。心臓、腹、右腕、右脚、そして首。流れるような連撃が|悪夢の怪物《ナイトメア》を襲う。
 だが、悪夢は今だ醒めず――
「……なぁ、今何回斬ったと思う?」
「知るか。でも、|こ《・》|れ《・》が現実だろ」
 国綱の連撃によって刻まれた傷は治りきらず、|刻傷《こくしょう》となって残っている。この時、2人は目の前の相手の認識を改めた。
「オレハ……『|記憶する者《レコーダー》』……|永遠《とわ》二、忘レルコトナキ……『|記憶する者《レコーダー》』!」
 |悪夢の怪物《ナイトメア》は再び立ち上がる。再生によってより強くなった身体は、もはや普通の|悪夢の怪物《ナイトメア》とはかけ離れている。
「オーケー、『|記憶する者《レコーダー》』ね。覚えておいてやるよ」
 その日、2人は互いに互いを認め合う。目の前の相手は、獲物ではなく、敵などでもない、|宿《・》|敵《・》なのだと。
「でも、お前の相手はまだ俺じゃない」
 そして、|悪夢の怪物《ナイトメア》に立ちはだかるのは、刃を持つもの。その背には愛する者がいる。退くわけにも、ましてや負けることなどあってはならない。
「5分で慣れてみせる。それまで頼む」
「へぇ、5分ね……」
 国綱は|二《・》|刀《・》の刃を両手に持ち、|悪夢の怪物《ナイトメア》と相対する。その表情に、もう迷いはない。現在のことも、これからの事もどうでもいい。今はただ、この闘いに没頭するだけだ。
「関係ないね。5分も待たずに終わらせてやるよ」
 300リミット。たったそれだけの時間に凝縮された激闘が今始まる。