表示設定
表示設定
目次 目次




小学校の神隠し⑥

ー/ー



 R君に何を見せられたのか、それを詳細に語ると長くなりますし、書けないほどひどいできごともありますので、省略して語ります。

 彼が父親から虐待を受けていたというのは、事実です。虐待をしていたのは、父親だけでなく、母親もそれに加担していました。具体的にどんなことをやっていたのかは書きません。警察に逮捕されてもおかしくないレベルのことをしていた、とだけ言っておきましょう。

 それに対して彼は、なんでこんな目に遭わなきゃならないのか、という思いももちろん抱いていたのですが、それ以上に強い恐怖を感じていました。

 彼は、とにかく親を怒らせないようにしなければ、と怯えながら生きる日々を送っていました。それでもし親を怒らせてしまったら、何をされても黙って状況を受け入れるしかない、という状況でした。

 それが変わるきっかけとなるできごとが起きたのは、今年の正月に父親の故郷へ帰省した時でした。

 帰省したはいいけれど、親も祖父母もまったく彼のことを相手してくれず、また遊ぶようなところもありませんでした。

 それで彼は、一人で山へ行ったのです。彼はその時ちょうど、小学校三年生になったあたりで、自分の足である程度、遠くまで行けるようになる年頃でもありました。

 しかしそれでも、彼はまだ子供で、遭難のリスクとか熊とかそういうものの知識が一切ありませんでした。そのため、どんどん山の奥へ進んでいってしまいました。

 そのうち彼は、木々ばかりのところからひらけたところに出ました。そこには、文字がかすれて読めなくなってしまっている石碑のようなものが立っていて、石碑の前に石のベッドみたいなものがありました。

 彼はそこへ近寄っていって、見たり触ったりしていたのですが、そのうち、後ろから声をかけられました。

 いつの間にか、近くに黒い着物を着たおかっぱの女の子がいました。その子が彼に、”一緒に遊んでくれるか”と尋ねました。彼も暇でしたから、二つ返事で、うんと答えました。

 彼はその子とかくれんぼをして遊びました。楽しさのあまり時間も忘れてしまって、暗くなるまで遊んでしまいました。

 それでもその子の案内があったおかげで、迷うことなく、山から下りることができて、無事に家へ帰ることもできました。

 彼と遊んでいた黒い着物を着た子供、彼女が神様でした。人間の姿をしていたのは、昔に見た村の子供の姿を真似ることで、子供たちと仲良くなろうとしていたからです。

 そして彼はそういったことを、家に帰ったあとで再びその神様と出会った時に、神様自身の口から教えてもらったのでした。

 山の神ではあるのですが、同時にそれは彼の父方の家系が信仰する神様でもありました。

 彼の父方の家系は代々霊感が強くて、神様も見える血筋の人間でした。彼らは、彼らが山神様と呼ぶものを信仰していました。そしていけにえの儀式を行っていました。

 その家系は、一番最初の子供が生まれると、ものごころがついた段階でその子供をいけにえに捧げていたのです。石碑のあるところまで子供を連れて行って、台座に寝かせて、殺して、神様にいけにえとして捧げました。そうして、一族の邪魔になる人の死や、一族の繁栄を願ったのです。

 しかし時代が進んで、法律も厳しくなって、科学も発展していったことで、そういった儀式もすたれていきました。それでも神様と、血筋だけは残っていました。そしてあの時、信仰されていた神様と、それを信仰していた家系の子孫が、あの山の中で再び巡り合ったわけです。

 といっても彼も子供ですから、いけにえを捧げようなどとは考えず、神様と遊ぶことを選んだわけです。そのころには、いけにえとして捧げられて、神様の従者となった子供たちも一緒になって(彼にはその子たちのことも見えていました)遊んでいたわけです。

 遊んでいたのはきまって、人目につかない夜中でした。昼間だと他の子供がいて、その子たちから変な目で見られるからです。そして、家の中には両親がいました。

 しかしそれが一週間も続いた頃、急に父親に夜遊びのことで怒られ、夜に外に出ることを禁止されました。隣の家に住む女性が、彼の父親に苦言を呈したことがそれを引き起こしたわけです。

 彼はその時に初めて、父親に怒りを覚えました。神様と遊ぶ時間という大切なものを、父親に奪われたからです。今まで父親が彼に加えた暴力や、彼に対して行った非道なふるまいも、怒りを大きくする原因となりました。

 このままでは一生幸せになれない、とその時彼は強く思いました。そして、自由になりたい、という望みをその時に彼は持ったわけです。

 そして彼の強い願いを知った神様が、儀式を行えばいい、と彼に提案したのです。儀式を行えば、親から自由になれるし、一生一緒に暮らせると、神様に言われたのです。

 自ら命を絶つという行為に、一時は彼もしり込みしていました。しかしその先に待っているであろうよい未来を信じて彼は、儀式をやることに決めたのです。

 神様に導かれながら、また駅員に聞いたりしながら、わずかなおこづかいを使って電車を乗り継いで、彼はあの山へ行きました。

 そしてそこでいけにえの儀式を行ったのです。

 願いを叶えるための儀式ですから、術者として望みをかなえることができます。そこでまず彼が望んだのは、両親の死でした。

 両親の家に行って、父親と母親を呪い殺そうとしたのです。ところが、途中で恐ろしくなってしまって、殺す寸前で思いとどまってやめたのです。これが、彼の両親が入院するようになってしまった原因です。

 そのあと彼がやったのは、仲間集めでした。自分と同じように大人のせいで不幸になる子供が他にもいることを彼は知っていました。その子たちを親元から救い出して、山の中で子供たちだけで暮らすようにすれば不幸な人間を減らせるのではないか、と子どもながらに考えた結果でした。

 だからYさんの娘さんの通っていた小学校に被害が集中していたのです。彼が知っているかわいそうな子供たちのほとんどが、そこにいたからです。

 彼は、そういった子たちのもとを訪れては、事情を説明して、来ることに同意した子供たちだけを、霊道を通して山まで連れて行きました。

 山へ連れて行った子供たちは、神様や神様の従者たちで面倒をみていました。そうして彼らはそこに、子供たちだけの楽園を作ろうとしていたのです。

 もちろん、何回も子供に接触し続けていれば、いつかは接触された子供の誰かが、彼のことを大人に言ったりしたことでしょう。また、山に連れてこられた子たちのあいだでも、なんらかのトラブルが起きていたことでしょう。

 しかし事態がそこまで進むよりも前に、山に我々が来ました。彼ははじめ、怯えていましたし、なぜ邪魔をするのかと我々に対して怒りを感じていました。しかし伊沢さんが山の前であいさつをしたことで、話を聞く気になったようです。

 そして彼は山の中で、彼女にこれまであったことを聞かせました。すると彼女は、このままここでさらった子供たちが暮らすことはできないから家に帰さないといけない、ということを伝えました。

 そしたら、神様のほうがそれは嫌だと言い出しました。もともと、この神様は寂しがりやで子供が好きだったから、子供が欲しくて願いを叶えていたという背景がありました。ここで生きている子たちと別れ別れになるのは嫌だったようです。

 しばらくのあいだ、そのことで揉めました。

 しかしやがて、うちの事務所に来て大切に祀る、というところで話がつきました。

 そして彼女は、バッグからホテルで買ったあのクマのぬいぐるみを取り出しました。神様と、神様の従者、そして彼をそのぬいぐるみへ宿らせるためです。

 伊沢さんの手元にあって伊沢さんの気を吸っていて、かつ人型に近いそのぬいぐるみは、依代としてよかったそうです。無事、魂はぬいぐるみに宿りました。

 のちに伊沢さんは「あの時、異様にぬいぐるみが欲しくなったのは、もしかしたら何か、神様とかそういうものの導きだったのかもしれない」と言っていました。

 そういうものが本当にあるのかはわかりません。しかしあのぬいぐるみを買っていなければ、あの時に神様を宿らせるものがない、ということになっていたでしょう。もしそうなっていたら、状況は今とはまったく違ったものになっていたかもしれません。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 小学校の神隠し⑦


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 R君に何を見せられたのか、それを詳細に語ると長くなりますし、書けないほどひどいできごともありますので、省略して語ります。
 彼が父親から虐待を受けていたというのは、事実です。虐待をしていたのは、父親だけでなく、母親もそれに加担していました。具体的にどんなことをやっていたのかは書きません。警察に逮捕されてもおかしくないレベルのことをしていた、とだけ言っておきましょう。
 それに対して彼は、なんでこんな目に遭わなきゃならないのか、という思いももちろん抱いていたのですが、それ以上に強い恐怖を感じていました。
 彼は、とにかく親を怒らせないようにしなければ、と怯えながら生きる日々を送っていました。それでもし親を怒らせてしまったら、何をされても黙って状況を受け入れるしかない、という状況でした。
 それが変わるきっかけとなるできごとが起きたのは、今年の正月に父親の故郷へ帰省した時でした。
 帰省したはいいけれど、親も祖父母もまったく彼のことを相手してくれず、また遊ぶようなところもありませんでした。
 それで彼は、一人で山へ行ったのです。彼はその時ちょうど、小学校三年生になったあたりで、自分の足である程度、遠くまで行けるようになる年頃でもありました。
 しかしそれでも、彼はまだ子供で、遭難のリスクとか熊とかそういうものの知識が一切ありませんでした。そのため、どんどん山の奥へ進んでいってしまいました。
 そのうち彼は、木々ばかりのところからひらけたところに出ました。そこには、文字がかすれて読めなくなってしまっている石碑のようなものが立っていて、石碑の前に石のベッドみたいなものがありました。
 彼はそこへ近寄っていって、見たり触ったりしていたのですが、そのうち、後ろから声をかけられました。
 いつの間にか、近くに黒い着物を着たおかっぱの女の子がいました。その子が彼に、”一緒に遊んでくれるか”と尋ねました。彼も暇でしたから、二つ返事で、うんと答えました。
 彼はその子とかくれんぼをして遊びました。楽しさのあまり時間も忘れてしまって、暗くなるまで遊んでしまいました。
 それでもその子の案内があったおかげで、迷うことなく、山から下りることができて、無事に家へ帰ることもできました。
 彼と遊んでいた黒い着物を着た子供、彼女が神様でした。人間の姿をしていたのは、昔に見た村の子供の姿を真似ることで、子供たちと仲良くなろうとしていたからです。
 そして彼はそういったことを、家に帰ったあとで再びその神様と出会った時に、神様自身の口から教えてもらったのでした。
 山の神ではあるのですが、同時にそれは彼の父方の家系が信仰する神様でもありました。
 彼の父方の家系は代々霊感が強くて、神様も見える血筋の人間でした。彼らは、彼らが山神様と呼ぶものを信仰していました。そしていけにえの儀式を行っていました。
 その家系は、一番最初の子供が生まれると、ものごころがついた段階でその子供をいけにえに捧げていたのです。石碑のあるところまで子供を連れて行って、台座に寝かせて、殺して、神様にいけにえとして捧げました。そうして、一族の邪魔になる人の死や、一族の繁栄を願ったのです。
 しかし時代が進んで、法律も厳しくなって、科学も発展していったことで、そういった儀式もすたれていきました。それでも神様と、血筋だけは残っていました。そしてあの時、信仰されていた神様と、それを信仰していた家系の子孫が、あの山の中で再び巡り合ったわけです。
 といっても彼も子供ですから、いけにえを捧げようなどとは考えず、神様と遊ぶことを選んだわけです。そのころには、いけにえとして捧げられて、神様の従者となった子供たちも一緒になって(彼にはその子たちのことも見えていました)遊んでいたわけです。
 遊んでいたのはきまって、人目につかない夜中でした。昼間だと他の子供がいて、その子たちから変な目で見られるからです。そして、家の中には両親がいました。
 しかしそれが一週間も続いた頃、急に父親に夜遊びのことで怒られ、夜に外に出ることを禁止されました。隣の家に住む女性が、彼の父親に苦言を呈したことがそれを引き起こしたわけです。
 彼はその時に初めて、父親に怒りを覚えました。神様と遊ぶ時間という大切なものを、父親に奪われたからです。今まで父親が彼に加えた暴力や、彼に対して行った非道なふるまいも、怒りを大きくする原因となりました。
 このままでは一生幸せになれない、とその時彼は強く思いました。そして、自由になりたい、という望みをその時に彼は持ったわけです。
 そして彼の強い願いを知った神様が、儀式を行えばいい、と彼に提案したのです。儀式を行えば、親から自由になれるし、一生一緒に暮らせると、神様に言われたのです。
 自ら命を絶つという行為に、一時は彼もしり込みしていました。しかしその先に待っているであろうよい未来を信じて彼は、儀式をやることに決めたのです。
 神様に導かれながら、また駅員に聞いたりしながら、わずかなおこづかいを使って電車を乗り継いで、彼はあの山へ行きました。
 そしてそこでいけにえの儀式を行ったのです。
 願いを叶えるための儀式ですから、術者として望みをかなえることができます。そこでまず彼が望んだのは、両親の死でした。
 両親の家に行って、父親と母親を呪い殺そうとしたのです。ところが、途中で恐ろしくなってしまって、殺す寸前で思いとどまってやめたのです。これが、彼の両親が入院するようになってしまった原因です。
 そのあと彼がやったのは、仲間集めでした。自分と同じように大人のせいで不幸になる子供が他にもいることを彼は知っていました。その子たちを親元から救い出して、山の中で子供たちだけで暮らすようにすれば不幸な人間を減らせるのではないか、と子どもながらに考えた結果でした。
 だからYさんの娘さんの通っていた小学校に被害が集中していたのです。彼が知っているかわいそうな子供たちのほとんどが、そこにいたからです。
 彼は、そういった子たちのもとを訪れては、事情を説明して、来ることに同意した子供たちだけを、霊道を通して山まで連れて行きました。
 山へ連れて行った子供たちは、神様や神様の従者たちで面倒をみていました。そうして彼らはそこに、子供たちだけの楽園を作ろうとしていたのです。
 もちろん、何回も子供に接触し続けていれば、いつかは接触された子供の誰かが、彼のことを大人に言ったりしたことでしょう。また、山に連れてこられた子たちのあいだでも、なんらかのトラブルが起きていたことでしょう。
 しかし事態がそこまで進むよりも前に、山に我々が来ました。彼ははじめ、怯えていましたし、なぜ邪魔をするのかと我々に対して怒りを感じていました。しかし伊沢さんが山の前であいさつをしたことで、話を聞く気になったようです。
 そして彼は山の中で、彼女にこれまであったことを聞かせました。すると彼女は、このままここでさらった子供たちが暮らすことはできないから家に帰さないといけない、ということを伝えました。
 そしたら、神様のほうがそれは嫌だと言い出しました。もともと、この神様は寂しがりやで子供が好きだったから、子供が欲しくて願いを叶えていたという背景がありました。ここで生きている子たちと別れ別れになるのは嫌だったようです。
 しばらくのあいだ、そのことで揉めました。
 しかしやがて、うちの事務所に来て大切に祀る、というところで話がつきました。
 そして彼女は、バッグからホテルで買ったあのクマのぬいぐるみを取り出しました。神様と、神様の従者、そして彼をそのぬいぐるみへ宿らせるためです。
 伊沢さんの手元にあって伊沢さんの気を吸っていて、かつ人型に近いそのぬいぐるみは、依代としてよかったそうです。無事、魂はぬいぐるみに宿りました。
 のちに伊沢さんは「あの時、異様にぬいぐるみが欲しくなったのは、もしかしたら何か、神様とかそういうものの導きだったのかもしれない」と言っていました。
 そういうものが本当にあるのかはわかりません。しかしあのぬいぐるみを買っていなければ、あの時に神様を宿らせるものがない、ということになっていたでしょう。もしそうなっていたら、状況は今とはまったく違ったものになっていたかもしれません。