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小学校の神隠し③

ー/ー



 公園を見たあと、車を停めてあるところまで戻りました。僕は町中で車を走らせて、伊沢さんは車の中から街を霊視する、というようなことをしていきました。

伊沢さん
「村山君、あそこで停まって。あのカフェ」

「カフェですね、わかりました」

 車をカフェの駐車場に停めると、僕は後ろを向きました。

「この店に何かありましたか?」

伊沢さん
「え? いや、お昼食べたかったから」

「え? ああ、そういえばお昼食べてなかったですね」

 どうやら、ただおなかがすいただけのようでした。お昼をまだ食べていなかった、というのもあるのでしょうが、霊力を使うとおなかが減るそうです。特に甘いものが食べたくなるそうで、伊沢さんはけっこう甘いものが好きです。

 にもかかわらず、彼女はなぜか痩せています。食べた分のカロリーは全部、霊力になっているのかもしれません。

 店内の席に座って、料理を注文したあと、僕は彼女に質問をしてみました。

「それにしても、なんで特定の小学校の生徒ばかりが狙われるんでしょうね? 別に、他の学校の子供でもなんら違いはないはずですけど」

伊沢さん
「偶然の可能性もあるけど、なんらかのこだわりがある可能性のほうが高いと思う。土地とか。でも私が思うのは、このできごとに人間がからんでるような気がする。あそこの子供が狙われ続けるのも、それなのかなって気がする」

「でも子供をさらってるのは、霊的なものなんですよね?」

伊沢さん
「そう。悪霊とか神とか、そういうものなのは間違いないと思う。やっぱ、人の目もあるし警察も今は優秀だから、生きてる人間が犯人だとしたら、もういい加減捕まってないとおかしい」

「それじゃあ、死んだ人間が神になったとか、そういう話ですか?」

伊沢さん
「それはなんとも言えない。死んだ人間が神様になったっていうやつを、私は見たことがないから。仏教だと、お釈迦様が死んだあとで神様になったみたいなのはあるけど、私はお釈迦様に会ったことないし」

「あー。じゃあシンプルに、変態が死んで悪霊化して子供をさらってるとか、何かしらの恨みをもった怨霊がそういうことをしてるって考えたほうがいいんですかね?」

伊沢さん
「それも違和感があるんだよね」

「え、なんでですか?」

伊沢さん
「だって、さらうより普通にやったほうが簡単じゃない? 実際、今まで見てきた悪霊だって人をさらったりなんてしなかったでしょ?」

「あ、確かに」

 霊には肉体がありません。子供の手をつかむという、生きている人なら当たり前にできることも、霊にはできません。一応、霊力を使って生きている人に干渉することはできるらしいです(たとえば金縛り)。

 ただ、それは生きてる人でたとえるなら、念じるだけで物を動かそうとするようなもので、かなり大変だそうです。それならさらうよりも、海の中で足をひっぱるとかしたほうがよほど簡単でしょう。

伊沢さん
「そもそも、悪霊って日光が浴びられないから。人の魂を喰うっていう罪を犯したことで神の怒りを買ってるから、神の恩恵である日光が魂を焼くんだよね」

「子どもって夜は外に出ませんからね。それならなおさら、子供たちをさらうのは難しいでしょうね」

伊沢さん
「そうなると神様しかないんだけど、神様がなんで人をさらうのかがわからない」

「それは僕に気になってて。神様がなんで子供をさらうのかっていうのもそうなんですけど、なんで今この街で子供をさらうのかっていうのがわからなくて。

 元からここに子供をさらう神様がいたっていうなら、昔から神隠しが起こっていないとおかしいし、よそから来たにしてもなんで来たのかって謎が残るじゃないですか」

伊沢さん
「そうなんだよね。この事件、わけのわからないことがありすぎて、もうなんもわからない。霊視はできるけど、謎解きは苦手なんだっつうの、こっちは」

「伊沢さんがわからないとなったら、もうお手上げじゃないですか」

伊沢さん
「だから、君が考えるんだって。犯人は誰か」

「ええ! いや無理ですって。僕、探偵じゃないし、頭もそんなよくないんですから」

伊沢さん
「いやこれ、マジだから。私は私ができることをやる。君は、私ができないこととやりたくないことを全部やる」

「なんですか、それ。無茶苦茶じゃないですか」

 とはいえ、給料分かそれ以上の働きをしなければ、いつクビになってもおかしくありません。そろそろ何かしらの役に立って僕の有用性を証明しないといけないかもしれない、とこのごろ僕は思い始めていました。

 腹ごしらえを終えたあと、また車で街の中を走ってみましたが、めぼしいものは見つかりませんでした。

 今後、学校に結界を張る作業が控えているということもあって、僕らは早めにホテルに行って、休むことにしました。広範囲に結界を張る作業は、かなり体力を使いますから。

 ホテルの中に売店があるのですが、そこへ伊沢さんと寄っていったところ、彼女が意外なものに興味を示したのです。

「欲しいんですか、そのぬいぐるみ?」

伊沢さん
「なんかめっちゃかわいくない? どう?」

 彼女がクマのぬいぐるみを両手で持って、僕に見せてきました。彼女のその様子は、いつもクールで凛々しい雰囲気とは全く違って、子供っぽいかわいらしさがありました。

「ええまあ、かわいいと思います」

伊沢さん
「でも、ちょっと子供っぽいかな」

「いや、大丈夫でしょ。大人の女性でもぬいぐるみ好きの女性とかいっぱいいるし、持ってるから悪いってこともないし」

伊沢さん
「うーん。よし、買おう」

 伊沢さんはそのぬいぐるみを買いました。

 夜七時ごろ、Yさんから電話がありました。学校への入校許可が下りたという連絡でした。明日が日曜日ということもあって子供がいないので、さっそく明日、仕事にとりかかることになりました。

 翌日、小学校へ行って結界を張る作業を行いました。お香やあら塩、日本酒を使って校内の敷地を清めたあと、結界の礎となる水晶を校内の敷地を囲うような形で埋めていきました。

 最後に伊沢さんが結界を張って、作業は完了しました。朝の九時から午後四時までずっと作業しっぱなしで、かなり疲れました。

 しかし幸いなことに、校内に特別悪いものはいなかったので、作業が滞ることはありませんでした。これで悪霊などがうようよいたとなったら、もっと時間がかかったことでしょう。

 そしてこの作業によって、学校の土地には問題がないということも明らかになりました。やはり敵は、学校外をうろついているようです。

 ともあれ、これでYさんの娘が通う学校の安全は確保されました。しかしそれは逆にいえば、災いが他の土地に向くということでもあったのです。


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 公園を見たあと、車を停めてあるところまで戻りました。僕は町中で車を走らせて、伊沢さんは車の中から街を霊視する、というようなことをしていきました。
伊沢さん
「村山君、あそこで停まって。あのカフェ」
「カフェですね、わかりました」
 車をカフェの駐車場に停めると、僕は後ろを向きました。
「この店に何かありましたか?」
伊沢さん
「え? いや、お昼食べたかったから」
「え? ああ、そういえばお昼食べてなかったですね」
 どうやら、ただおなかがすいただけのようでした。お昼をまだ食べていなかった、というのもあるのでしょうが、霊力を使うとおなかが減るそうです。特に甘いものが食べたくなるそうで、伊沢さんはけっこう甘いものが好きです。
 にもかかわらず、彼女はなぜか痩せています。食べた分のカロリーは全部、霊力になっているのかもしれません。
 店内の席に座って、料理を注文したあと、僕は彼女に質問をしてみました。
「それにしても、なんで特定の小学校の生徒ばかりが狙われるんでしょうね? 別に、他の学校の子供でもなんら違いはないはずですけど」
伊沢さん
「偶然の可能性もあるけど、なんらかのこだわりがある可能性のほうが高いと思う。土地とか。でも私が思うのは、このできごとに人間がからんでるような気がする。あそこの子供が狙われ続けるのも、それなのかなって気がする」
「でも子供をさらってるのは、霊的なものなんですよね?」
伊沢さん
「そう。悪霊とか神とか、そういうものなのは間違いないと思う。やっぱ、人の目もあるし警察も今は優秀だから、生きてる人間が犯人だとしたら、もういい加減捕まってないとおかしい」
「それじゃあ、死んだ人間が神になったとか、そういう話ですか?」
伊沢さん
「それはなんとも言えない。死んだ人間が神様になったっていうやつを、私は見たことがないから。仏教だと、お釈迦様が死んだあとで神様になったみたいなのはあるけど、私はお釈迦様に会ったことないし」
「あー。じゃあシンプルに、変態が死んで悪霊化して子供をさらってるとか、何かしらの恨みをもった怨霊がそういうことをしてるって考えたほうがいいんですかね?」
伊沢さん
「それも違和感があるんだよね」
「え、なんでですか?」
伊沢さん
「だって、さらうより普通にやったほうが簡単じゃない? 実際、今まで見てきた悪霊だって人をさらったりなんてしなかったでしょ?」
「あ、確かに」
 霊には肉体がありません。子供の手をつかむという、生きている人なら当たり前にできることも、霊にはできません。一応、霊力を使って生きている人に干渉することはできるらしいです(たとえば金縛り)。
 ただ、それは生きてる人でたとえるなら、念じるだけで物を動かそうとするようなもので、かなり大変だそうです。それならさらうよりも、海の中で足をひっぱるとかしたほうがよほど簡単でしょう。
伊沢さん
「そもそも、悪霊って日光が浴びられないから。人の魂を喰うっていう罪を犯したことで神の怒りを買ってるから、神の恩恵である日光が魂を焼くんだよね」
「子どもって夜は外に出ませんからね。それならなおさら、子供たちをさらうのは難しいでしょうね」
伊沢さん
「そうなると神様しかないんだけど、神様がなんで人をさらうのかがわからない」
「それは僕に気になってて。神様がなんで子供をさらうのかっていうのもそうなんですけど、なんで今この街で子供をさらうのかっていうのがわからなくて。
 元からここに子供をさらう神様がいたっていうなら、昔から神隠しが起こっていないとおかしいし、よそから来たにしてもなんで来たのかって謎が残るじゃないですか」
伊沢さん
「そうなんだよね。この事件、わけのわからないことがありすぎて、もうなんもわからない。霊視はできるけど、謎解きは苦手なんだっつうの、こっちは」
「伊沢さんがわからないとなったら、もうお手上げじゃないですか」
伊沢さん
「だから、君が考えるんだって。犯人は誰か」
「ええ! いや無理ですって。僕、探偵じゃないし、頭もそんなよくないんですから」
伊沢さん
「いやこれ、マジだから。私は私ができることをやる。君は、私ができないこととやりたくないことを全部やる」
「なんですか、それ。無茶苦茶じゃないですか」
 とはいえ、給料分かそれ以上の働きをしなければ、いつクビになってもおかしくありません。そろそろ何かしらの役に立って僕の有用性を証明しないといけないかもしれない、とこのごろ僕は思い始めていました。
 腹ごしらえを終えたあと、また車で街の中を走ってみましたが、めぼしいものは見つかりませんでした。
 今後、学校に結界を張る作業が控えているということもあって、僕らは早めにホテルに行って、休むことにしました。広範囲に結界を張る作業は、かなり体力を使いますから。
 ホテルの中に売店があるのですが、そこへ伊沢さんと寄っていったところ、彼女が意外なものに興味を示したのです。
「欲しいんですか、そのぬいぐるみ?」
伊沢さん
「なんかめっちゃかわいくない? どう?」
 彼女がクマのぬいぐるみを両手で持って、僕に見せてきました。彼女のその様子は、いつもクールで凛々しい雰囲気とは全く違って、子供っぽいかわいらしさがありました。
「ええまあ、かわいいと思います」
伊沢さん
「でも、ちょっと子供っぽいかな」
「いや、大丈夫でしょ。大人の女性でもぬいぐるみ好きの女性とかいっぱいいるし、持ってるから悪いってこともないし」
伊沢さん
「うーん。よし、買おう」
 伊沢さんはそのぬいぐるみを買いました。
 夜七時ごろ、Yさんから電話がありました。学校への入校許可が下りたという連絡でした。明日が日曜日ということもあって子供がいないので、さっそく明日、仕事にとりかかることになりました。
 翌日、小学校へ行って結界を張る作業を行いました。お香やあら塩、日本酒を使って校内の敷地を清めたあと、結界の礎となる水晶を校内の敷地を囲うような形で埋めていきました。
 最後に伊沢さんが結界を張って、作業は完了しました。朝の九時から午後四時までずっと作業しっぱなしで、かなり疲れました。
 しかし幸いなことに、校内に特別悪いものはいなかったので、作業が滞ることはありませんでした。これで悪霊などがうようよいたとなったら、もっと時間がかかったことでしょう。
 そしてこの作業によって、学校の土地には問題がないということも明らかになりました。やはり敵は、学校外をうろついているようです。
 ともあれ、これでYさんの娘が通う学校の安全は確保されました。しかしそれは逆にいえば、災いが他の土地に向くということでもあったのです。