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小学校の神隠し①

ー/ー



 現代では、神隠しという言葉を使うことはもうあまりないですね。人が消えるとまっさきに人々の頭に思い浮かぶのは、町中であれば誘拐とか、山の中であれば遭難とか、そういう言葉でしょう。

 昔こそ、人が異世界に迷い込んで帰ってこられなくなってしまうだとか、天狗にさらわれるとか、そういった話が真剣に恐れられていたこともあるでしょう。しかし現代ではもうそんなこともありません。

 ですから僕も、現代の世の中にあって神隠しが起こるなどとは思ってもいませんでした。

 これは二月のはじめごろ、今からおよそ三か月ほど前のお話です。ご依頼者様はYさんという方で、実業家で、イケメンの男性でした。30代くらいに見えたのですが、実際は40代だったのには驚きました。

Yさん
「最初の誘拐事件から、二週間経っても犯人が見つからないから、さすがにちょっと不安になってきてしまって。もう警察をあてにすることもできないというか。

 うちも小学校に通う娘がいるので心配ですし、できることがあるならなんでもしたいっていうので、霊視をしてもらったんですね。

 うちは、会社の風水とか運気を視てくれる心霊カウンセラーの先生にお世話になっていて、その方は霊視もできる方でして。被害者の子供たちの居場所や犯人の居場所なんかを霊視してくれないか、とお願いしてみたんです。

 そうしたら先生から”これは人間のしわざではありません、神隠しです”と言われまして。それでまあ”私ではこれを解決することはできませんが、代わりにそれができる者を紹介します”と言ってくださって。その時に聞いたのが伊沢先生のお名前だったんですね。それでこうして呼ばせていただいたんですけれども、どうでしょうか?」

「うちの伊沢は、人の話を聞くことで霊視をすることができまして、あるいは写真を使っての霊視もできますが」

Yさん
「写真でしたら、被害者の顔写真と名前をまとめた資料を用意してあります。ネットに公表されている情報をまとめたものなんですけど、これは役に立ちそうですか?」

 Yさんは複数枚のプリントをホチキスでまとめたものを、机の上に置きました。

Yさん
「よろしければどうぞお持ちになって、調査に役立ててください」

「ありがとうございます。これは助かります」

Yさん
「それで伊沢さん、これで霊視は可能でしょうか? プリントアウトした写真で、元の写真とかではないんですけど」

伊沢さん
「やってみます」

 伊沢さんは資料に載せられた、子供の顔写真のところに指を置いて、目を閉じました。

 しばらくして、伊沢さんは首を横に振りました。

伊沢さん
「だめですね」

Yさん
「あー、やっぱりプリントアウトした写真だけじゃ」

伊沢さん
「いいえ、違います。見るのを妨害されました。相当力の強い霊体か、神か、あるいは人間の可能性もありますが、そういった霊力の非常に強い存在が、見るのを邪魔するような術をかけています。

 ただおそらく、人間ではないと思います。犯人が人間だったら、とっくに警察が捕まえているはずなので。たぶんですが、心霊カウンセラーの方は人間ではない何かが犯人かもしれない、という理由から神隠しという言葉を使ったのではないか、と思います」

 僕は資料を手に取って、内容を読んでみました。被害者の子供たちに何か、共通点はないか、あればそれに従って調べる範囲を絞れるかもしれないと思って探してみました。

Yさん
「じゃあその、いわゆる神的なものが犯人であるのは間違いないんですか?」

伊沢さん
「神だけでなく、悪霊の可能性もあります。子供たちを霊道っていう、霊だけしか知らない通り道があるんですけど、そこに誘い込んで、さらってしまうってこともあります」

Yさん
「子供たちは無事なんでしょうか?」

伊沢さん
「それは、わかりません。ただ、神様が子供と一緒に遊びたくてさらった、という可能性もあるので、生きている可能性自体は十分あると思います」

Yさん
「犯人は見つけられそうですか?」

伊沢さん
「見つけられますが、時間はかかると思います。どこにいるかがわからないので、町中をしらみつぶしに探さなきゃいけなくなる可能性もありますから」

「伊沢さん、被害者の子たちは全員、同じ学校に通っているみたいです」

 僕は資料に載っている情報の中で、気になったものを伝えました。

伊沢さん
「同じ学校?」

Yさん
「ええ、そうなんですよ。うちの娘が通っている学校の生徒が立て続けに神隠しにあっていて、それもあってよけい心配なんですよ」

「だとしたら、犯人は何回もそこに来ているはずなので、痕跡とか残ってるんじゃないんですか?」

 これは伊沢さんから聞いた話なのですが、霊体や人間というものは、その場にいるだけで念や霊力の残りかすを発散しているそうです。その場を離れた後も、においみたいにそれがその場に残るそうです。犯人が獲物を探すために頻繁に小学校を訪れていたのだとしたら、そういう痕跡が残っているはずなのです。

伊沢さん
「こんだけ時間が経ってると散っちゃってると思う。それにそもそも、入れないかもしれない」

Yさん
「小学校に行ければ、犯人を見つけられますか?」

伊沢さん
「手がかりが見つかるかはわかりませんが、学校に入る許可が下りるんであれば、結界を張ることはできます」

Yさん
「結界?」

伊沢さん
「悪いもの、たとえば神隠しの犯人とか悪霊とかが入ってこようとしても、入ってこられないようにする結界です。張ればしばらくは持ちますから、娘さんや小学校の生徒たちが学校にいる間の安全は確保されます」

Yさん
「しばらくってどれくらいですか?」

伊沢さん
「五百年とか、それぐらいです」

Yさん
「しばらくってレベルじゃないですね。そんなにもつんですね」


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 現代では、神隠しという言葉を使うことはもうあまりないですね。人が消えるとまっさきに人々の頭に思い浮かぶのは、町中であれば誘拐とか、山の中であれば遭難とか、そういう言葉でしょう。
 昔こそ、人が異世界に迷い込んで帰ってこられなくなってしまうだとか、天狗にさらわれるとか、そういった話が真剣に恐れられていたこともあるでしょう。しかし現代ではもうそんなこともありません。
 ですから僕も、現代の世の中にあって神隠しが起こるなどとは思ってもいませんでした。
 これは二月のはじめごろ、今からおよそ三か月ほど前のお話です。ご依頼者様はYさんという方で、実業家で、イケメンの男性でした。30代くらいに見えたのですが、実際は40代だったのには驚きました。
Yさん
「最初の誘拐事件から、二週間経っても犯人が見つからないから、さすがにちょっと不安になってきてしまって。もう警察をあてにすることもできないというか。
 うちも小学校に通う娘がいるので心配ですし、できることがあるならなんでもしたいっていうので、霊視をしてもらったんですね。
 うちは、会社の風水とか運気を視てくれる心霊カウンセラーの先生にお世話になっていて、その方は霊視もできる方でして。被害者の子供たちの居場所や犯人の居場所なんかを霊視してくれないか、とお願いしてみたんです。
 そうしたら先生から”これは人間のしわざではありません、神隠しです”と言われまして。それでまあ”私ではこれを解決することはできませんが、代わりにそれができる者を紹介します”と言ってくださって。その時に聞いたのが伊沢先生のお名前だったんですね。それでこうして呼ばせていただいたんですけれども、どうでしょうか?」
「うちの伊沢は、人の話を聞くことで霊視をすることができまして、あるいは写真を使っての霊視もできますが」
Yさん
「写真でしたら、被害者の顔写真と名前をまとめた資料を用意してあります。ネットに公表されている情報をまとめたものなんですけど、これは役に立ちそうですか?」
 Yさんは複数枚のプリントをホチキスでまとめたものを、机の上に置きました。
Yさん
「よろしければどうぞお持ちになって、調査に役立ててください」
「ありがとうございます。これは助かります」
Yさん
「それで伊沢さん、これで霊視は可能でしょうか? プリントアウトした写真で、元の写真とかではないんですけど」
伊沢さん
「やってみます」
 伊沢さんは資料に載せられた、子供の顔写真のところに指を置いて、目を閉じました。
 しばらくして、伊沢さんは首を横に振りました。
伊沢さん
「だめですね」
Yさん
「あー、やっぱりプリントアウトした写真だけじゃ」
伊沢さん
「いいえ、違います。見るのを妨害されました。相当力の強い霊体か、神か、あるいは人間の可能性もありますが、そういった霊力の非常に強い存在が、見るのを邪魔するような術をかけています。
 ただおそらく、人間ではないと思います。犯人が人間だったら、とっくに警察が捕まえているはずなので。たぶんですが、心霊カウンセラーの方は人間ではない何かが犯人かもしれない、という理由から神隠しという言葉を使ったのではないか、と思います」
 僕は資料を手に取って、内容を読んでみました。被害者の子供たちに何か、共通点はないか、あればそれに従って調べる範囲を絞れるかもしれないと思って探してみました。
Yさん
「じゃあその、いわゆる神的なものが犯人であるのは間違いないんですか?」
伊沢さん
「神だけでなく、悪霊の可能性もあります。子供たちを霊道っていう、霊だけしか知らない通り道があるんですけど、そこに誘い込んで、さらってしまうってこともあります」
Yさん
「子供たちは無事なんでしょうか?」
伊沢さん
「それは、わかりません。ただ、神様が子供と一緒に遊びたくてさらった、という可能性もあるので、生きている可能性自体は十分あると思います」
Yさん
「犯人は見つけられそうですか?」
伊沢さん
「見つけられますが、時間はかかると思います。どこにいるかがわからないので、町中をしらみつぶしに探さなきゃいけなくなる可能性もありますから」
「伊沢さん、被害者の子たちは全員、同じ学校に通っているみたいです」
 僕は資料に載っている情報の中で、気になったものを伝えました。
伊沢さん
「同じ学校?」
Yさん
「ええ、そうなんですよ。うちの娘が通っている学校の生徒が立て続けに神隠しにあっていて、それもあってよけい心配なんですよ」
「だとしたら、犯人は何回もそこに来ているはずなので、痕跡とか残ってるんじゃないんですか?」
 これは伊沢さんから聞いた話なのですが、霊体や人間というものは、その場にいるだけで念や霊力の残りかすを発散しているそうです。その場を離れた後も、においみたいにそれがその場に残るそうです。犯人が獲物を探すために頻繁に小学校を訪れていたのだとしたら、そういう痕跡が残っているはずなのです。
伊沢さん
「こんだけ時間が経ってると散っちゃってると思う。それにそもそも、入れないかもしれない」
Yさん
「小学校に行ければ、犯人を見つけられますか?」
伊沢さん
「手がかりが見つかるかはわかりませんが、学校に入る許可が下りるんであれば、結界を張ることはできます」
Yさん
「結界?」
伊沢さん
「悪いもの、たとえば神隠しの犯人とか悪霊とかが入ってこようとしても、入ってこられないようにする結界です。張ればしばらくは持ちますから、娘さんや小学校の生徒たちが学校にいる間の安全は確保されます」
Yさん
「しばらくってどれくらいですか?」
伊沢さん
「五百年とか、それぐらいです」
Yさん
「しばらくってレベルじゃないですね。そんなにもつんですね」