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祟りの木

ー/ー



 その日は思いがけなく、予定していたよりもはやく依頼が終わったおかげで少しスケジュールに余裕ができました。それで、せっかく遠出したことだしどこかに寄ろうか、という話になりました。そこで僕がある場所を提案しました。

「伊沢さん、鎧武者の木ってご存じですか?」

伊沢さん
「知らない。なにそれ?」

「僕もちょっとうろおぼえなんですけど、道路の真ん中にぽつんと立ってる木があるらしくて、それが鎧武者の木って呼ばれてるんですよ。

 なんでも工事の時にその木が邪魔だからって切り倒そうとしたら、人身事故が多発したそうで。あまりにも不自然なほどに人が死ぬから、おかしいっていうことになって霊が見えるという神主に見てもらったそうなんです。そしたら、鎧武者の怨霊がこの木に宿っていて、だから木を切ろうとする人は祟り殺されるんだってその神主が言ったそうなんです。それで結局、木は切らないまま、木をよけるようなかたちで道路を作ったそうなんですよ」

伊沢さん
「ふうん。で、私にどうしろと?」

「せっかくだから見に行きませんか? 伊沢さんの目にどう見えるのか知りたいですし」

伊沢さん
「別に構わないけど」

 伊沢さんの賛成を得られたところで、僕は記憶を頼りにその木のところまで行きました。木の近くのところにあるコンビニに車を停めて、木が見えるところまで行ってみました。

 それは、立派なイチョウの木でした。枝が頭上で野放図に伸びていて、道路の上を覆っています。

「伊沢さん。何が見えますか?」

 伊沢さんは答えませんでした。黙ってじっと木を見つめています。少しして、伊沢さんが口を開きました。

伊沢さん
「言っていいの、これ?」

「なんですか? なんかやばいんですか?」

伊沢さん
「聞かなきゃよかったって思うかも」

「そうなんですか? えっと、まず鎧武者はいますか?」

伊沢さん
「鎧武者はいない」

「じゃあ、なんか別のものがいるってことですか?」

伊沢さん
「いるって言っていいのか、よくわからない」

「いったい、何が見えるんですか? 教えてもらえますか?」

伊沢さん
「木の幹とか枝とかそこらじゅうから、人の頭とか手足がたくさん生えてる。それもすり抜けてるとかじゃなくて、木と完全に一体化してる状態」

 あまりにも予想外の答えに、一瞬僕は黙り込んでしまいました。

「どういうことですか、それ? 何が起きてるんですか?」

伊沢さん
「わからない。でも見たかんじだと、あの木の中で何人もの人の魂が融合しちゃってるように思える」

「え、じゃあ元は普通の人の魂だったってことですか? それって、助けられそうですか?」

伊沢さん
「無理。一度融合してしまった魂は、元のものとはまったくの別物になってしまうから。分離しようとしても引きちぎれて壊れる」

 僕はこの時、知らなきゃよかったと本気で後悔しました。これを知ってしまったからには、これから一生、木のそばを通るたびにこれのことを思い出すはめになるでしょう。

「その、人の頭とかには意志はまだ残ってるんですか?」

伊沢さん
「意志は残ってると思う。でも魂が他の人のと融合しちゃってるせいで身動きが取れなくなってる。たぶんそれが苦しかったせいなのかもしれないけれど、すでに怨霊と化してる。事故もたぶんあれが引き起こしたものだと思う」

「でも、なんでそんなことに・・・・・・」

伊沢さん
「関係あるかわからないけど、こことは全く別の場所で私は、同じものを見たことがある」

「え、そうなんですか?」

伊沢さん
「うん。それで、まったく同じような見た目の木があって、その木のそばを通ろうとしてた霊がいたのね。そしたら、その霊が急に木の根元へ吸い込まれて始めて。霊は何とか逃げ出そうと叫びながらもがいてたんだけど、最終的には木の根元の地面に吸い込まれていった。その直後ね、木の枝から頭が一つ、ぽんって飛び出してきた」

 僕はなんと言っていいのかわからなくて、それ以上に怖すぎて何も言えなくなってしまっていました。そうしていたら、伊沢さんがこう言いました。

伊沢さん
「もしかしたらだけど、この世には人の魂を喰う木のようなものがあるのかもしれないね」


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 その日は思いがけなく、予定していたよりもはやく依頼が終わったおかげで少しスケジュールに余裕ができました。それで、せっかく遠出したことだしどこかに寄ろうか、という話になりました。そこで僕がある場所を提案しました。
「伊沢さん、鎧武者の木ってご存じですか?」
伊沢さん
「知らない。なにそれ?」
「僕もちょっとうろおぼえなんですけど、道路の真ん中にぽつんと立ってる木があるらしくて、それが鎧武者の木って呼ばれてるんですよ。
 なんでも工事の時にその木が邪魔だからって切り倒そうとしたら、人身事故が多発したそうで。あまりにも不自然なほどに人が死ぬから、おかしいっていうことになって霊が見えるという神主に見てもらったそうなんです。そしたら、鎧武者の怨霊がこの木に宿っていて、だから木を切ろうとする人は祟り殺されるんだってその神主が言ったそうなんです。それで結局、木は切らないまま、木をよけるようなかたちで道路を作ったそうなんですよ」
伊沢さん
「ふうん。で、私にどうしろと?」
「せっかくだから見に行きませんか? 伊沢さんの目にどう見えるのか知りたいですし」
伊沢さん
「別に構わないけど」
 伊沢さんの賛成を得られたところで、僕は記憶を頼りにその木のところまで行きました。木の近くのところにあるコンビニに車を停めて、木が見えるところまで行ってみました。
 それは、立派なイチョウの木でした。枝が頭上で野放図に伸びていて、道路の上を覆っています。
「伊沢さん。何が見えますか?」
 伊沢さんは答えませんでした。黙ってじっと木を見つめています。少しして、伊沢さんが口を開きました。
伊沢さん
「言っていいの、これ?」
「なんですか? なんかやばいんですか?」
伊沢さん
「聞かなきゃよかったって思うかも」
「そうなんですか? えっと、まず鎧武者はいますか?」
伊沢さん
「鎧武者はいない」
「じゃあ、なんか別のものがいるってことですか?」
伊沢さん
「いるって言っていいのか、よくわからない」
「いったい、何が見えるんですか? 教えてもらえますか?」
伊沢さん
「木の幹とか枝とかそこらじゅうから、人の頭とか手足がたくさん生えてる。それもすり抜けてるとかじゃなくて、木と完全に一体化してる状態」
 あまりにも予想外の答えに、一瞬僕は黙り込んでしまいました。
「どういうことですか、それ? 何が起きてるんですか?」
伊沢さん
「わからない。でも見たかんじだと、あの木の中で何人もの人の魂が融合しちゃってるように思える」
「え、じゃあ元は普通の人の魂だったってことですか? それって、助けられそうですか?」
伊沢さん
「無理。一度融合してしまった魂は、元のものとはまったくの別物になってしまうから。分離しようとしても引きちぎれて壊れる」
 僕はこの時、知らなきゃよかったと本気で後悔しました。これを知ってしまったからには、これから一生、木のそばを通るたびにこれのことを思い出すはめになるでしょう。
「その、人の頭とかには意志はまだ残ってるんですか?」
伊沢さん
「意志は残ってると思う。でも魂が他の人のと融合しちゃってるせいで身動きが取れなくなってる。たぶんそれが苦しかったせいなのかもしれないけれど、すでに怨霊と化してる。事故もたぶんあれが引き起こしたものだと思う」
「でも、なんでそんなことに・・・・・・」
伊沢さん
「関係あるかわからないけど、こことは全く別の場所で私は、同じものを見たことがある」
「え、そうなんですか?」
伊沢さん
「うん。それで、まったく同じような見た目の木があって、その木のそばを通ろうとしてた霊がいたのね。そしたら、その霊が急に木の根元へ吸い込まれて始めて。霊は何とか逃げ出そうと叫びながらもがいてたんだけど、最終的には木の根元の地面に吸い込まれていった。その直後ね、木の枝から頭が一つ、ぽんって飛び出してきた」
 僕はなんと言っていいのかわからなくて、それ以上に怖すぎて何も言えなくなってしまっていました。そうしていたら、伊沢さんがこう言いました。
伊沢さん
「もしかしたらだけど、この世には人の魂を喰う木のようなものがあるのかもしれないね」