そして、迎えた春。
翔さんが復帰すると言った、約束の春だ。
レース本番を前日に控えた早朝。
俺は翔さんに呼び出され、指定された待ち合わせ場所へと向かった。
休日の朝ということもあり、人通りのない市街地。
その中から1人、こちらに向かって走ってくる——女の子。
「おはよう!」
近づいてきた彼女は、競技用のユニフォームを着た翔さんだった。
「お、おざます」
「挨拶から噛んでるじゃん」
朝から元気そうに、翔さんは笑う。仕方ないだろう、と内心思う。
真冬の厚着からは気づかなかった、翔さんの女性的なライン。それが際立つユニフォーム姿を見せられたら……正直、動揺する。
ましてや、最初に会ってからしばらくは、翔さんを兄貴分のように思っていたんだから。
「キミも元気そうで何より」
「翔さんこそ……復帰できてよかったです」
「それは他でもない、キミのおかげだよ。冬の間に頑張る姿をずっと見せてくれたから、僕もここまで来れた。ここからは、僕が頑張るところを見せる番だ」
恥ずかしげもなく、真っ直ぐな言葉をぶつけてくる翔さん。
そんな彼女がまぶしくて、俺は——
俺は?
今、翔さんにどんな感情を抱いた?
「はい、そういうわけで今日は荷物持ちとタイム計測係よろしく!」
一瞬で駆け抜けていった気持ちの正体がわからぬまま、翔さんから持っていたスポーツバッグを押しつけられる。
「よし、身軽になったことだし、走って公園行くよ! 遅かったら置いてくからね!」
「ちょっ、俺は重くなったんですが⁉︎」
荷物を抱え、慌てて翔さんを追いかけていく。
前を走る翔さんのランニングフォーム。
それは躍動感にあふれて、楽しそうで——美しかった。

<終>