「骨折ですね。ここが真っ二つに割れています」
医者が牛郎のレントゲン写真を広げ、上腕骨中央部を指し示している。該当箇所は見事に断裂し、素人目線からしても痛々しい。
「上腕骨はとても丈夫な骨のはず……おそらく、かなり強い衝撃がかかったのでしょうね」
そりゃそうだろう。牧場の柵を体当たりでぶち破る小学生なんて、ウチの甥っ子以外で聞いたこともない。
というより、牛郎の骨格はきちんと人間なんだな。さすがに頭蓋骨は牛なんだろうが、今はこの好奇心を胸の内に秘めておこう。
「なるほど、柵に体当たり……子供がやりがちな遊びですね」
医者はさもありなんと言わんばかりの口調だが、そもそも柵をぶち破ることに違和感を覚えないのだろうか? 第一、牛頭の小学生を診察している時点でおかしな話なのだが……?
「とりあえず、2週間くらい様子を見ましょう」
診察は何事もなかったかのように終わり、看護師がしれっと牛郎の右腕にギプスと包帯を巻いた。どうやら、今回の骨折は自然治癒で済みそうだ。
「先生、僕から聞きたいことがあります」
おや、牛郎から質問だなんて珍しいな。もしかして、他に何か気になる症状でもあるのか?
「僕、昔からくせ毛に悩んでいるんです。頭の両端が、どうしてもツンツンしちゃって……」
甥っ子はさも髪の悩みみたいに相談しているが、それはお前の角だ。牛頭だろっ!!
「牛郎くん、それは角だね。牛なら誰にでも生えているんだよ?」
医者は平然と語っている。牛郎は人間? 牛? どっちなんだいっ!
「へぇ〜〜これって角なんだぁ。知らなかった!」
牛郎は納得しているが、今の言葉を真に受けたらお前は自身が牛だと認めることになるぞ? ここは異議を唱えたほうがいい。
「先生。お言葉ですが、こう見えて牛郎は人間なんです。差別的な発言は慎んでもらいたい」
その言葉を聞いて、俺は医者を諌める。いくら医者といえど、俺は我慢がならなかった。
「お父さん、人と違うからって息子さんを軽蔑してはいけません。たとえ角が生えていようと、馬面な貴方の子供に変わりないのですから」
おかしいな……なぜか俺が説教を食らってしまった。俺は牛郎のお父さんではないし、難なら悪口を言われた気もする。
ツッコミどころ満載だが、一体どこからツッコめば良いのやら。何だか頭がこんがらがってきた。
「とにかく、1人の父親としてきちんと息子さんと向き合ってください。それと、念の為に痛み止めを処方しますね」
何だろう……俺の言葉がしれっと受け流されてしまった。いろいろと腑に落ちない。
「お大事にどうぞ!」
俺の心などつゆ知らず、看護師はにこやかな表情で手を振る。この気持ち、どうしたらいいのだろう……?