「ただいまぁっ!」
牛郎が帰ってきた。例のごとく、ランドセルは玄関に放り投げているけれど。
「午郎、宿題忘れるなよぉ?」
俺はこうやって毎回諭しているけれど、おそらく牛郎は聞いていないんだろうなぁ。俺としては、宿題は先に終わらせてから遊ぶ方が気楽だと思うけれどな。先憂後楽……ちと違うか。
「よいしょっと!」
例のごとく、俺が代わりに牛郎のランドセルを運ぶ。それにしても、今時のランドセルはどうしてこうも重いものか。
近年は教科書の巨大化でA4サイズのものが増え、1冊の厚みも相当なものだ。加えてタブレット端末も教材の1つとなっているため、ランドセルの重量化へ更なる拍車をかける。
様々な要因が複合し、ランドセルの重さはなんと8㎏に達することもあるそう。これは、小学生低学年では全体重の3分の1に達する重さだ。大人に換算すると、米俵1俵を担いでいる状態に等しい。
こういった背景から、近年は『ランドセル症候群』という症状に陥る小学生も少なくないという。ランドセル症候群とは、物理的な重さから肩や腰などの身体を痛めたり、重いランドセルを担ぐことへの倦怠感から不登校に陥るという精神を病んだ状態を指す。
ランドセル症候群を重く見た社会は、かつて禁じられていた『置き勉』を推奨したりランドセルの軽量化を図るなどの変容を見せている。置き勉を推奨とは、世の中も変わったものだ。
そういえば最近、牛郎のクラスメイトがランドセルを買い替えたそうだ。重量が1㎏未満と軽量で、しかもチェストベルトまで実装されているそうだ。今時のランドセルは軽量化への執念が尋常でない。
当然、それを見た牛郎は羨ましがっていたな。目新しいものに飛びつく、これは小学生の生態といってもいい。
牛郎はランドセルの買い替えを要望してきたが、俺は頑としてそれを突っぱねた。近年のランドセル価格は高騰が著しく、10万円程度のものも珍しくない。
金額の問題もさることながら、ランドセルを背負う甥っ子の顔は何だか涼しげなんだよな。ランドセル症候群なんてどこ吹く風と言わんばかりだ。
心なしか、牛郎は小学生になってから筋肉質になった気がする。その証拠に、先日牧場の柵をぶち破ったことがいい例だろう。
能書きはここまでにして、ランドセルは机の脇にでも置いておこう。大人からしても、やっぱり今時のランドセルは重い。
「おじさん、そういえばさぁ……」
先程、玄関から飛び出したはずの甥っ子が帰ってきた。神妙な面持ちをしているが、一体何があったのだろうか。
「何だか、腕に痛みがあってさ……」
そういえば、ここ最近の牛郎は右腕を庇う場面が散見されていたな。とりあえず、近場の町医者を受診するか。
その後、牛郎は右上腕を骨折していたことが発覚する。おそらく、柵をぶち破った時に右腕を負傷していたのだろう。
上腕骨の骨折も、実は小学生にありがちな怪我らしい。甥っ子よ、それは早く言って欲しかった。