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【3】

ー/ー



 今日、あゆ美先輩はこの高校を卒業する。
 卒業式は、一年生と二年生はクラスの代表しか式には出られない。
 義務だけど面倒で出たくないって子もいるはずだし、できたら変わって欲しかった。でも私はクラス委員じゃないから、先生に何か言われたら委員の子に迷惑掛けちゃう。
 だけど登校禁止とは聞いてないもん。
 一応担任の先生に確認したら、別に来るのは構わないみたい。部活の後輩がお祝いに来たりするから禁止なんかできないよ、って笑ってた。そりゃそうだよね。
 アキとセンちゃんに話したら一緒に来てくれるんだって。
 
「あの、先輩。ボタン、──セーラー服のボタンをいただけませんか?」
 なんとか嚙まずにお願いできた! 家で練習してきた甲斐あったよ。
「わたしでいいの?」
 どうしてそんなに自信ないんですか? 先輩はとても、とても素敵な方なのに。
 不思議そうに問い返す先輩に、思わず口から出そうになった言葉を必死で飲み込む。今言うことじゃないくらい、私にもわかってるから。
「ボタン、取れるかしら」
 確かに簡単に引きちぎれないよね。先輩の声に初めてそれに気づいた。鋏かなんか持ってくればよかった!
 そこへ元生徒会長の野上先輩が近寄って来る。小さなカッターをあゆ美先輩に渡そうとするのを見て、私は考える前に身体が動いてた。
「ありがとうございます! でも、あんまりあゆ美先輩には──」
 近寄って欲しくない、とまではさすがに言えない。
 てか、センちゃんとアキに止められた。……やっぱやらかした。
 慌てる二人に野上先輩が笑って私の手に乗せてくれたカッターを、そのままあゆ美先輩に渡す。
 あゆ美先輩にお礼言われて、彼が片手上げて離れて行った。あんな失礼なことしたのに謝ってもない。私ダメダメじゃん……。

「はい、どうぞ」
 先輩が真剣な顔で糸を切って外してくれたボタンがこの掌にある。
 私の制服についてるのと同じ、購買部でいくらでも買える量産品だよ。だけど……。
「あ、ありがとう、ございます……。大事に、します、から」
 半分泣き声で何言ってんのかわかんない。先輩だってきっと困ってる。
 なのに、あとからあとから溢れる涙が止まんなかった。

「ノッコ、よかったねぇ」
「宝物だよね」
 もう何も言えない私に、友達二人が両側から支えるみたいにして声掛けてくれる。
 センちゃんの言葉がそのまま私の想いだわ。
 
 ただのプラスティックのボタンが宝石みたいに輝いてる。
 最後にもう一度先輩にお別れをと思ったけど、私はもう喋れる状態じゃなかった。涙でぐしゃぐしゃのきったない顔で、アキとセンちゃんと並んで何度も頭だけ下げる。
 呆れた様子も見せないで優しい笑顔で付き合ってくれてる先輩は、私の想いは知らない。
 この二年近く知られないようにして来たんだからそれでいいんだ。
 私に『恋』をくれた人。
貴女(あなた)に逢って初めてわかったの。これが恋、する気持ちなのかもって。

 ──この手に握ったボタンを、私は心にも抱いて歩いてく。今日この瞬間から。

  ~END~



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 今日、あゆ美先輩はこの高校を卒業する。
 卒業式は、一年生と二年生はクラスの代表しか式には出られない。
 義務だけど面倒で出たくないって子もいるはずだし、できたら変わって欲しかった。でも私はクラス委員じゃないから、先生に何か言われたら委員の子に迷惑掛けちゃう。
 だけど登校禁止とは聞いてないもん。
 一応担任の先生に確認したら、別に来るのは構わないみたい。部活の後輩がお祝いに来たりするから禁止なんかできないよ、って笑ってた。そりゃそうだよね。
 アキとセンちゃんに話したら一緒に来てくれるんだって。
「あの、先輩。ボタン、──セーラー服のボタンをいただけませんか?」
 なんとか嚙まずにお願いできた! 家で練習してきた甲斐あったよ。
「わたしでいいの?」
 どうしてそんなに自信ないんですか? 先輩はとても、とても素敵な方なのに。
 不思議そうに問い返す先輩に、思わず口から出そうになった言葉を必死で飲み込む。今言うことじゃないくらい、私にもわかってるから。
「ボタン、取れるかしら」
 確かに簡単に引きちぎれないよね。先輩の声に初めてそれに気づいた。鋏かなんか持ってくればよかった!
 そこへ元生徒会長の野上先輩が近寄って来る。小さなカッターをあゆ美先輩に渡そうとするのを見て、私は考える前に身体が動いてた。
「ありがとうございます! でも、あんまりあゆ美先輩には──」
 近寄って欲しくない、とまではさすがに言えない。
 てか、センちゃんとアキに止められた。……やっぱやらかした。
 慌てる二人に野上先輩が笑って私の手に乗せてくれたカッターを、そのままあゆ美先輩に渡す。
 あゆ美先輩にお礼言われて、彼が片手上げて離れて行った。あんな失礼なことしたのに謝ってもない。私ダメダメじゃん……。
「はい、どうぞ」
 先輩が真剣な顔で糸を切って外してくれたボタンがこの掌にある。
 私の制服についてるのと同じ、購買部でいくらでも買える量産品だよ。だけど……。
「あ、ありがとう、ございます……。大事に、します、から」
 半分泣き声で何言ってんのかわかんない。先輩だってきっと困ってる。
 なのに、あとからあとから溢れる涙が止まんなかった。
「ノッコ、よかったねぇ」
「宝物だよね」
 もう何も言えない私に、友達二人が両側から支えるみたいにして声掛けてくれる。
 センちゃんの言葉がそのまま私の想いだわ。
 《《宝物》》。
 ただのプラスティックのボタンが宝石みたいに輝いてる。
 最後にもう一度先輩にお別れをと思ったけど、私はもう喋れる状態じゃなかった。涙でぐしゃぐしゃのきったない顔で、アキとセンちゃんと並んで何度も頭だけ下げる。
 呆れた様子も見せないで優しい笑顔で付き合ってくれてる先輩は、私の想いは知らない。
 この二年近く知られないようにして来たんだからそれでいいんだ。
 私に『恋』をくれた人。
貴女《あなた》に逢って初めてわかったの。これが恋、する気持ちなのかもって。
 ──この手に握ったボタンを、私は心にも抱いて歩いてく。今日この瞬間から。
  ~END~