【2】
ー/ー
「あゆ美せんぱ──」
見掛けてつい声掛けちゃったけど、お話し中だった!
有坂先輩だ。ものすごく綺麗で可愛らしい人。
身長も髪の長さもたぶん私と変わらない。でも容姿は比べるのも失礼なくらいだし、髪もちょっと癖のある私と違って超サラサラストレート。シャンプーのCM出られそう。
こんな人いるんだ、って妬む気も起きないよ。別世界の存在って感じ。
「じゃーね、あゆ美」
あゆ美先輩にひらひら手を振ると、私に目だけで会釈みたいにして隣の教室に入って行く彼女を見送る。
「あの、すみません。お邪魔しちゃって、私……」
どうしよう!? ってオロオロする私にあゆ美先輩がクスって笑う。
「ああ、いいのよ。怜那ちゃんは怒ってるんじゃなくていつもああいう感じなの。デフォルト? って言うのかしら」
先輩が、こんな風に楽しそうに他の人の話するの聞いたことない。なんていうか、みんなとフツーに付き合うけど特別親しい人はいないみたいだったんだ。
そういう主義なのかな、と最初は思ってたんだけど。
一緒にいさせてもらううちに、ちょっと人見知りっぽくて自分から行く人じゃないから馴染めないのかも、ってわかった。
むしろ私が一番なんじゃない? って勘違いしちゃうくらいだったけど、きっと有坂先輩は違うんだ。あゆ美先輩の『特別』なんだ。
──だけど悔しくなんかない。強がりでも何でもなくて、友達ってすごく大事だもん。所詮、私はただの後輩だから。
私だってアキとセンちゃんにいっぱい助けてもらってる。
だから私も、ちょっとでも彼女たちの役に立ててたら嬉しいんだけど。
「アキ、センちゃん! あゆ美先輩に仲の良いお友達できたらしいんだよ! よかったぁ!」
「ノッコってホントいい子だよね~。『私だけの先輩なのに!』とか身勝手なこと言わないもん」
「そこがいいんだよ、ノッコは。きっと先輩もわかってるから優しいんじゃない? 『私が、私が!』みたいな子、しょっちゅう来られたら鬱陶しいよ」
センちゃんはたぶん何気なく言ったんだと思うけど、一瞬血の気が引いちゃった。
「……私、やっぱり迷惑かな? もうちょっと控えた方がいい?」
「いやゴメン! ノッコがそうだって意味じゃないから! それに毎日押し掛けてるわけでもないじゃん?」
私の沈んだ声に、センちゃんが謝って来る。
「ねぇ、そのお友達って誰? あたしの知ってる人かわかんないけど」
話逸らすためもあるのかな、アキに訊かれた。
「知ってると思うよ。有坂先輩」
「あー! すっごい美少女だよね!?」
やっぱり。ホントに綺麗だもんね。
「……でもさぁ、ノッコ知ってる? あの人ってさ、なんか一部で評判良くないらしいけど──」
「あ、もしかして『キレイだからお高く留まってる、中身サイアク』とか何とかってやつ? それって振られた男が腹いせに撒いたガセっぽいって聞いたよ。みっともねぇ! そんなちっせえ男だから振られんだっての!」
心配そうに切り出したアキを遮るみたいに、センちゃんが言葉被せる。
「マジ!? やだ、あたし乗せられてんじゃん! ……誰にも言わなくてよかった」
「それは田島に聞いたんだけどさ。あと、中学の頃もひどかったんだって。顔では絶対叶わない、内面までブッサイクな女が妬んでたんじゃねーの?」
もともと口悪い方だけどいつも以上に荒ぶってるセンちゃんが、教室の奥の方に向かって声上げた。
「田島~! ちょっと今いい?」
「おー、何? 千堂」
用を聞く前に、もうこっちに向かって歩いて来てる田島くん。いい人なんだよね。
私、男子って基本的に苦手なんだけど、田島くんは話し易いんだ。
「ああ、あれか。その『フラれた奴が~』ってのは部の先輩に聞いたんだよ。自分でフラれたって言い触らしてバカじゃねーの? お前のがよっぽどサイアクだよ! って何人もが笑ってたからホントなんじゃないかな」
センちゃんに説明されて、田島くんが答えてくれた。
「中学の時のは俺もよく知らないんだ。でも前、部活でトラブルあった時に生徒会の人たちが助けてくれてさ。会長の野上先輩が俺たちの話聞いてくれたんだけど」
なんか急に話変わった気がしたけど、すぐに繋がった。
「野上先輩って有坂先輩と幼馴染みで、結構一緒にいることあったんだよ。俺たちが行くと有坂先輩はすっと離れてくから話したことはないけど、嫌なカンジ全然しなかったな。あんなきれいなのに笑わない人だなとは思ったけど。──今までいろいろあったからって会長が暗ーい声でぼそって零して、なんか察した」
ホラ、会長すげーモテるじゃん? て田島くんが付け加えたから鈍い私でもうっすら想像ついた。
「会長も『妹みたいなもんなのに』って言ってたし、ホントにそんな雰囲気だったんだよ」
生徒会長はすごいカッコよくて人気ある、らしい。特に興味ない私でも知ってるくらい。
その隣にあんな綺麗な人がいたら面白くないとか? ……たぶんそういうことだよね?
さっきも有坂先輩は笑顔見せなかったけど、態度悪いとかは全然思わなかった。
確かに愛想はなさそうだけどそれくらい自由でしょ。
「ま、真実なんて周りにはわかんねーよ。でもさ、ノッコの大好きな『あゆ美先輩』はそんな性格悪いような人にしか相手してもらえないわけ? 先輩が自分で選んで付き合ってる友達じゃないの?」
田島くんが行っちゃったあとのセンちゃんの台詞が、私の心に沁みてく気がした。
そうだ、先輩は一人でいたくないからって嫌な人間と我慢して付き合うような人じゃない。私は知ってる。……知ってる、つもり。
だから有坂先輩はそんな人じゃない。私は「よかった!」とだけ思ってよう。
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「あゆ美せんぱ──」
見掛けてつい声掛けちゃったけど、お話し中だった!
|有坂《ありさか》先輩だ。ものすごく綺麗で可愛らしい人。
身長も髪の長さもたぶん私と変わらない。でも容姿は比べるのも失礼なくらいだし、髪もちょっと癖のある私と違って超サラサラストレート。シャンプーのCM出られそう。
こんな人いるんだ、って妬む気も起きないよ。別世界の存在って感じ。
「じゃーね、あゆ美」
あゆ美先輩にひらひら手を振ると、私に目だけで会釈みたいにして隣の教室に入って行く彼女を見送る。
「あの、すみません。お邪魔しちゃって、私……」
どうしよう!? ってオロオロする私にあゆ美先輩がクスって笑う。
「ああ、いいのよ。|怜那《れいな》ちゃんは怒ってるんじゃなくていつもああいう感じなの。デフォルト? って言うのかしら」
先輩が、こんな風に楽しそうに他の人の話するの聞いたことない。なんていうか、みんなとフツーに付き合うけど特別親しい人はいないみたいだったんだ。
そういう主義なのかな、と最初は思ってたんだけど。
一緒にいさせてもらううちに、ちょっと人見知りっぽくて自分から行く人じゃないから馴染めないのかも、ってわかった。
むしろ私が一番なんじゃない? って勘違いしちゃうくらいだったけど、きっと有坂先輩は違うんだ。あゆ美先輩の『特別』なんだ。
──だけど悔しくなんかない。強がりでも何でもなくて、友達ってすごく大事だもん。所詮、私はただの後輩だから。
私だってアキとセンちゃんにいっぱい助けてもらってる。
だから私も、ちょっとでも彼女たちの役に立ててたら嬉しいんだけど。
「アキ、センちゃん! あゆ美先輩に仲の良いお友達できたらしいんだよ! よかったぁ!」
「ノッコってホントいい子だよね~。『私だけの先輩なのに!』とか身勝手なこと言わないもん」
「そこがいいんだよ、ノッコは。きっと先輩もわかってるから優しいんじゃない? 『私が、私が!』みたいな子、しょっちゅう来られたら鬱陶しいよ」
センちゃんはたぶん何気なく言ったんだと思うけど、一瞬血の気が引いちゃった。
「……私、やっぱり迷惑かな? もうちょっと控えた方がいい?」
「いやゴメン! ノッコがそうだって意味じゃないから! それに毎日押し掛けてるわけでもないじゃん?」
私の沈んだ声に、センちゃんが謝って来る。
「ねぇ、そのお友達って誰? あたしの知ってる人かわかんないけど」
話逸らすためもあるのかな、アキに訊かれた。
「知ってると思うよ。有坂先輩」
「あー! すっごい美少女だよね!?」
やっぱり。ホントに綺麗だもんね。
「……でもさぁ、ノッコ知ってる? あの人ってさ、なんか一部で評判良くないらしいけど──」
「あ、もしかして『キレイだからお高く留まってる、中身サイアク』とか何とかってやつ? それって振られた男が腹いせに撒いたガセっぽいって聞いたよ。みっともねぇ! そんなちっせえ男だから振られんだっての!」
心配そうに切り出したアキを遮るみたいに、センちゃんが言葉被せる。
「マジ!? やだ、あたし乗せられてんじゃん! ……誰にも言わなくてよかった」
「それは|田島《たじま》に聞いたんだけどさ。あと、中学の頃もひどかったんだって。顔では絶対叶わない、内面までブッサイクな女が妬んでたんじゃねーの?」
もともと口悪い方だけどいつも以上に荒ぶってるセンちゃんが、教室の奥の方に向かって声上げた。
「田島~! ちょっと今いい?」
「おー、何? |千堂《せんどう》」
用を聞く前に、もうこっちに向かって歩いて来てる田島くん。いい人なんだよね。
私、男子って基本的に苦手なんだけど、田島くんは話し易いんだ。
「ああ、あれか。その『フラれた奴が~』ってのは部の先輩に聞いたんだよ。自分でフラれたって言い触らしてバカじゃねーの? お前のがよっぽどサイアクだよ! って何人もが笑ってたからホントなんじゃないかな」
センちゃんに説明されて、田島くんが答えてくれた。
「中学の時のは俺もよく知らないんだ。でも前、部活でトラブルあった時に生徒会の人たちが助けてくれてさ。会長の|野上《のがみ》先輩が俺たちの話聞いてくれたんだけど」
なんか急に話変わった気がしたけど、すぐに繋がった。
「野上先輩って有坂先輩と幼馴染みで、結構一緒にいることあったんだよ。俺たちが行くと有坂先輩はすっと離れてくから話したことはないけど、嫌なカンジ全然しなかったな。あんなきれいなのに笑わない人だなとは思ったけど。──今までいろいろあったからって会長が暗ーい声でぼそって零して、なんか察した」
ホラ、会長すげーモテるじゃん? て田島くんが付け加えたから鈍い私でもうっすら想像ついた。
「会長も『妹みたいなもんなのに』って言ってたし、ホントにそんな雰囲気だったんだよ」
生徒会長はすごいカッコよくて人気ある、らしい。特に興味ない私でも知ってるくらい。
その隣にあんな綺麗な人がいたら面白くないとか? ……たぶんそういうことだよね?
さっきも有坂先輩は笑顔見せなかったけど、態度悪いとかは全然思わなかった。
確かに愛想はなさそうだけどそれくらい自由でしょ。
「ま、真実なんて周りにはわかんねーよ。でもさ、ノッコの大好きな『あゆ美先輩』はそんな性格悪いような人にしか相手してもらえないわけ? 先輩が自分で選んで付き合ってる友達じゃないの?」
田島くんが行っちゃったあとのセンちゃんの台詞が、私の心に沁みてく気がした。
そうだ、先輩は一人でいたくないからって嫌な人間と我慢して付き合うような人じゃない。私は知ってる。……知ってる、つもり。
だから有坂先輩は《《そんな》》人じゃない。私は「よかった!」とだけ思ってよう。