《穂香ちゃん、これあんまりだから! すぐにコメ削除してブロックして!》
帰る途中では動揺しそうで、穂香は家に着いて自分の部屋で佳織に簡単にまとめた事情を送信した。数分後に返って来たメッセージ。
《あ、でも。》
《いいんでしょうか?》
穂香はもう、何もかもに自信がない。削除にブロックなどして、いい気になっていると思われたら……。
《本当に親切心で「伸びて欲しい、良くなって欲しい」って思いがあるのなら、絶対にこんな言葉選ばない! 読み専の私にだってそれくらいわかるわ。》
《言い方とか伝え方もちゃんとしてない人なんか、いちいち相手せずに無視していいのよ。》
すぐに返って来た文字を読んだ途端、耐え切れず涙が零れた。
《ありがとうございます。ホントに。今、ブロックしました。》
佳織のアドバイスに従って機械的に操作したあと、お礼と報告のメッセージを作成して送信ボタンを押す。
《それでいい。あと、放置すると「ここはこういうのオッケーなんだ」って荒れるもとになったりするって。『割れ窓理論』に近いのかも。》
まったく別の観点からの指摘にも、彼女の存在の大きさを身に染みて感じた。
《ねえ、穂香ちゃん。最初読ませてもらった時にも言ったけど、穂香ちゃんの小説って私はいいと思うよ。》
《早織の友達だからヨイショとかじゃなくて。そりゃ、未熟って言えばまあそうだとは思うんだけど。》
またすぐに、ポンと浮かぶ次の文章。
《でも、「若さ」ってすごい武器だって私が交流してもらってるずっと年上の書き手さんもよく話してるんだよね。今の穂香ちゃんにしか書けないもの、きっとあるから。嫌でも年は取ってくんだし、未熟でも青くても、
今の感性を大事にしようよ。》
《なんて、書けもしないのに偉そうに説教しちゃってごめんね。》
佳織が綴ってくれた文字を、穂香は最初から最後まで何度も繰り返し目でなぞった。まだ乾いていない瞳から、さらに涙が溢れて来る。
《とんでもないです! 嬉しいです。あたし佳織さんに聞いてもらえなかったら、もう怖くて何も書けなくなってたかも。》
偉そうだのお節介だの、まったく感じなかった。心から、穂香は佳織に感謝している。
──あたしはまた、書ける。気遣ってくれる友達、そして何よりこの人のおかげで。もうそれだけでいい。
きっと穂香はいま、力を蓄える時期なのだ。そう思って充電しつつ行動も起こして行こう。
嬉しいことも、傷ついた経験も、すべてが創作の糧になると信じることしかできなかった。
今は我楽多にしか思えないものが、もしかしたら夢の
礎になるかもしれない。
意識的に、無意識のうちに、拾い集めた何かの
欠片を繋ぎ合わせたら綺麗なものが出来上がる。
限りなくゼロに近くとも、可能性がないとは誰にも言い切れない。
そして、たとえ結果が出なくても、努力したことは必ず身になるはずだから。
十年後、二十年後、……もっと先の未来でも。その時文章など書いていなかったとしても。
穂香が「十六歳の春、小説家を夢見ていた事実」は、きっと永遠に色褪せない。
~END~