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商談100 伴侶にして導師

ー/ー



「もしかして社長になるとか!?」
 秋子よ。お前はおそらく、分かっていながらすっとぼけていただろう。けど、こういうところがまた憎めない。
「冬樹が社長かぁ……なんか変な感じ」
 俺が社長の人柄じゃないこと、すでにお見通しだな。この反応は俺も見越していた。
「ということは、やっぱりお義父さんの先は長くないのかぁ……」
 次期社長の話から一転、秋子はしんみりした様子。いけない、親父が危篤だったことをすっかり忘れていた。
「今は昏睡状態が続いているけれど、親父はいつ息を引き取ってもおかしくないらしい」
 俺は親父の現況を淡々と話す。不思議なもので、悲しいわけでもなければ涙が出るわけでもない。
「冬樹、今のお義父さんを見てどう思う?」
 俺の言葉に刹那の間を置き、秋子は静かな口調で尋ねる。言うまでもなく、俺の答えはただ一つ。
「あぁ、清々するさ」
 これまで幾重にもわたって苦行を強いた男だ、内心は親父に天誅が下ればいいとさえ思う。冷酷かも知れないが、これが長年抱いていた負の感情だ。
「冬樹とお義父さん、昔から仲違いしていたと思う。けれどお義父さんにとって、冬樹は唯一の肉親。せめて、最期だけでも親子として接して欲しいところかな?」
 俺の意志を慮りながらも、秋子は親子の大切さを訴えた。既に父を亡くした彼女だからこそ、素直に出てくる言葉なのだろうな。
「貧富を問わず、命の終わりは皆同じ。現世からの旅立ち、見送る人がいないと切ないでしょ?」
 実父を見送った秋子の言葉、それは俺の胸にズシンと重くのしかかる。(かたき)のように思う親父だが、その言葉を聞くとどうにも心が痛い。
「……分かった、親父ともう一度だけ向き合ってみるよ」
 今の親父が何か言うわけでもない。けれど、自分の為にも親子として向き合う時間が必要かもしれないな。
「冬樹、グッドラック!」
 電話を切る間際、秋子が電話越しに俺の背中を押した。こういうところ、思わず彼女に惚れ直してしまう。
「……あれ?」
 スマートフォンに不在着信の通知。話し中に誰が掛けてきたのだろうか? 俺は着信履歴を確認した。
「えっと、利根越病院からか」
 親父の入院している病院から電話。この状況、電話の理由は限られている。俺は矢継ぎ早に電話を折り返した。
「冬樹さんですね。お父様の容態が急変しましてーー」
 案の定、親父が最期の時を迎えようとしている。俺は会話を中断し、病院へ急いだ。


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「もしかして社長になるとか!?」 秋子よ。お前はおそらく、分かっていながらすっとぼけていただろう。けど、こういうところがまた憎めない。
「冬樹が社長かぁ……なんか変な感じ」
 俺が社長の人柄じゃないこと、すでにお見通しだな。この反応は俺も見越していた。
「ということは、やっぱりお義父さんの先は長くないのかぁ……」
 次期社長の話から一転、秋子はしんみりした様子。いけない、親父が危篤だったことをすっかり忘れていた。
「今は昏睡状態が続いているけれど、親父はいつ息を引き取ってもおかしくないらしい」
 俺は親父の現況を淡々と話す。不思議なもので、悲しいわけでもなければ涙が出るわけでもない。
「冬樹、今のお義父さんを見てどう思う?」
 俺の言葉に刹那の間を置き、秋子は静かな口調で尋ねる。言うまでもなく、俺の答えはただ一つ。
「あぁ、清々するさ」
 これまで幾重にもわたって苦行を強いた男だ、内心は親父に天誅が下ればいいとさえ思う。冷酷かも知れないが、これが長年抱いていた負の感情だ。
「冬樹とお義父さん、昔から仲違いしていたと思う。けれどお義父さんにとって、冬樹は唯一の肉親。せめて、最期だけでも親子として接して欲しいところかな?」
 俺の意志を慮りながらも、秋子は親子の大切さを訴えた。既に父を亡くした彼女だからこそ、素直に出てくる言葉なのだろうな。
「貧富を問わず、命の終わりは皆同じ。現世からの旅立ち、見送る人がいないと切ないでしょ?」
 実父を見送った秋子の言葉、それは俺の胸にズシンと重くのしかかる。|敵《かたき》のように思う親父だが、その言葉を聞くとどうにも心が痛い。
「……分かった、親父ともう一度だけ向き合ってみるよ」
 今の親父が何か言うわけでもない。けれど、自分の為にも親子として向き合う時間が必要かもしれないな。
「冬樹、グッドラック!」
 電話を切る間際、秋子が電話越しに俺の背中を押した。こういうところ、思わず彼女に惚れ直してしまう。
「……あれ?」
 スマートフォンに不在着信の通知。話し中に誰が掛けてきたのだろうか? 俺は着信履歴を確認した。
「えっと、利根越病院からか」
 親父の入院している病院から電話。この状況、電話の理由は限られている。俺は矢継ぎ早に電話を折り返した。
「冬樹さんですね。お父様の容態が急変しましてーー」
 案の定、親父が最期の時を迎えようとしている。俺は会話を中断し、病院へ急いだ。