商談40 惑う杜(もり)
ー/ー
俺は全速力であいつの背中を追いかけた......はずだったが、再び現れた雑木林の茂みに視界を遮られてしまい、その影を見失ってしまった。
全く逃げ足の速いヤツだ。逃げるが勝ちという言葉もあるが、あれはあんまりだったぞ。あいつは俺の剣道人生における最大の屈辱を遺していったからなぁ。俺の知る限りだが、あの時ほど剣道界が震撼したことはおそらくないだろう。
今は昔話なんてしてる場合じゃない、とにかくあいつを追いかけるぞ! 俺は尚も雑木林を邁進していく。だが、何だか周囲の様子がおかしい。というより、さっきから同じ場所をぐるぐる回ってないか?
もしかしてこれは、キツネに化かされているのかもしれない。そういえば、俺はガキの頃に婆さんから『キツネは人を化かして道を迷わせることがあるから気を付けな?』って言い聞かされていた。俺は迷信だと馬鹿にして聞き流していたが、まさかこんな所でキツネに化かされるとは!
これは参った。このままでは進むことはおろか戻ることもできない。俺はこの雑木林から一生抜け出せなくなるのか!? 一体どうすればいいんだ!!
『カァ―! カァ―!』
そんな時、上空に一羽のカラスが羽ばたいていた。そいつはしばらく俺の頭上を旋回した後、ある方向へ進んでいった。そうか、おそらくカラスは俺を導こうとしているのかもしれない。根拠はないが、そう直感した俺はそいつの後をつけることにした。
直感は正しかったのか、ようやく俺はぐるぐる回っていた景色を抜け出すことが出来た。世間一般では嫌われ者のカラスだが、こういった善良な存在がいることも忘れてはならない。今の俺は、カラスに対して感謝の思いでいっぱいだ。
俺は尚もカラスの案内にしたがって後をつけていく。そして、気付いた時には雑木林を抜け出していた。
「道案内、ありがとうーっ!」
感謝の念でいっぱいだった俺は、手元に残っていた枝豆を空に向かって放り投げた。カラスはそれを見事に嘴で受け止めると、遥か遠くへ飛び去って行った。
雑木林の抜けた先にあったのは、天にも届くほどの巌。それもただの岩じゃない、何か生き物を思わせるような形をしている。
今にも飛び跳ねそうな後ろ足、どことなくへの字に曲がった口、玉のように真ん丸な瞳。それを見た俺は思った、これはきっと『カエル岩』だなぁと。
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全く逃げ足の速いヤツだ。逃げるが勝ちという言葉もあるが、あれはあんまりだったぞ。あいつは俺の剣道人生における最大の屈辱を遺していったからなぁ。俺の知る限りだが、あの時ほど剣道界が震撼したことはおそらくないだろう。
今は昔話なんてしてる場合じゃない、とにかくあいつを追いかけるぞ! 俺は尚も雑木林を邁進していく。だが、何だか周囲の様子がおかしい。というより、さっきから同じ場所をぐるぐる回ってないか?
もしかしてこれは、キツネに化かされているのかもしれない。そういえば、俺はガキの頃に婆さんから『キツネは人を化かして道を迷わせることがあるから気を付けな?』って言い聞かされていた。俺は迷信だと馬鹿にして聞き流していたが、まさかこんな所でキツネに化かされるとは!
これは参った。このままでは進むことはおろか戻ることもできない。俺はこの雑木林から一生抜け出せなくなるのか!? 一体どうすればいいんだ!!
『カァ―! カァ―!』
そんな時、上空に一羽のカラスが羽ばたいていた。そいつはしばらく俺の頭上を旋回した後、ある方向へ進んでいった。そうか、おそらくカラスは俺を導こうとしているのかもしれない。根拠はないが、そう直感した俺はそいつの後をつけることにした。
直感は正しかったのか、ようやく俺はぐるぐる回っていた景色を抜け出すことが出来た。世間一般では嫌われ者のカラスだが、こういった善良な存在がいることも忘れてはならない。今の俺は、カラスに対して感謝の思いでいっぱいだ。
俺は尚もカラスの案内にしたがって後をつけていく。そして、気付いた時には雑木林を抜け出していた。
「道案内、ありがとうーっ!」
感謝の念でいっぱいだった俺は、手元に残っていた枝豆を空に向かって放り投げた。カラスはそれを見事に|嘴《くちばし》で受け止めると、遥か遠くへ飛び去って行った。
雑木林の抜けた先にあったのは、天にも届くほどの|巌《いわお》。それもただの岩じゃない、何か生き物を思わせるような形をしている。
今にも飛び跳ねそうな後ろ足、どことなくへの字に曲がった口、玉のように真ん丸な瞳。それを見た俺は思った、これはきっと『カエル岩』だなぁと。