この場所は、俺にとって憩いの場だった。小学生の頃、放課後に仲間と集まって他愛の無い会話をしていた頃が懐かしい。
「積もる話はあるだろうが、とりあえずこれ喰うべぇ?」
正美おじさんが差し出したのは、俺がよく食べていた五平餅。俺の大好物、正美おじさんは覚えててくれたんだなぁ。
「ありがとう、いただきます!!」
懐かしの味を、俺は噛み締める。砂糖醤油の優しい甘さ、ふんわりとしたお米の食感。これもまた健在だった。
「ふっ君、相変わらず旨そうに喰うなぁ?」
俺が五平餅を頬張る横で、正美おじさんは恵比須顔を浮かべている。思えば、この恵比須顔も何十年ぶりに見ただろうか。
「ふっ君、まー君のこと覚えてっか? まー君、実はこの街で商工会の課長さんになっただよぉ!」
まー君、俺と一緒に五平餅を食べていた友達だ。彼は昔から成績優秀で、県内の進学校へ進んだと風の噂で聞いていた。そうか、まー君も今や管理職かぁ……。
「まー君、ふっ君のこと気にかけてただよぉ? オラも、ふっ君が鹿児島さ進学した時は魂消たっぺなぁ!」
まー君は地元の幼馴染みで、中学生の頃までは親交が深かった。家庭の都合とは言え、まー君には悪いことをした。
「ふっ君のこと、まー君に話しとくべ。まー君、きっと喜ぶどぉ!」
まー君、そのうち会えるといいなぁ。俺も、なかなかここへ帰郷する機会もないしな。
「正美おじさんの五平餅、美味しいです!!」
この五平餅を噛み締める度、俺の思い出が蘇ってくる。そういう意味で、俺は正美おじさんへの謝意を込めた。
「ふっ君、ありがとなぁ。オラも老いぼれだけんが、死ぬまでこの看板は下ろさねぇべ!」
そういえば、正美おじさんって何歳くらいなんだろうか? はっきりとは分からないけど、おそらく80歳は超えているんじゃなかろうか?
「オラも今年は卒寿。次は白寿目指すべっ!!」
老いぼれと自嘲しながらも、正美おじさんは意気揚々の力こぶを浮かべている。卒寿って言うと……90歳っ!?
「ふっ君、豆鉄砲でも喰らったような顔してどしただぇ?」
正美おじさんは、俺の顔を不思議そうに眺めている。90歳って、こんなに心身ともにしっかりしているものなのか!?
それに引き換え、俺の親父は喜寿にして生死を彷徨っている。果たして、両者はどこで明暗が分かれたのだろうか……?
「元気の秘訣だべか? そだなぁ〜、みんなのくれる笑顔だっべなぁ! あっはっは!!」
豪放磊落、その言葉は正美おじさんの代名詞と言っても過言ではない。