「あぁ、眩しい……」
酒呑童子の扉を開けた俺は、外界の明るさに目が眩んだ。そういえば、今はまだ昼下がりだったな。
叔父さんの毒牙に悶えながらも、現世に生還した心持ちの俺である。黄泉がえりって、こういう感じなのだろうか?
念の為に確認しておこう。うん、足はきちんとついてる。
太陽の下に帰還したものの、あまりに深刻な話題で俺は足取りが重い。とりあえず、気分を変えるために故郷を観光しようか。
利根越は小江戸と呼ばれているだけあって、古風な町並みに惹かれてやって来る観光客が数多い。自身の故郷を観光というのも妙な話だが、それもまた一興。
「おぉ……懐かしい香りだ」
利根越といったら、やっぱり和の甘味は外せない。おさつチップスにお団子、鯛焼き……挙げていけばきりがないくらいだ。
甘味処は所狭しと立ち並び、そこへやって来た大勢の観光客が通りを占拠してしまっている。ここを通り抜けるのは容易じゃないな。
「うぅ……ぐほっ!」
人流に押され、俺の腹が圧迫される。まずい、これでは先程の田楽味噌が口へ逆流するかも知れない。
「ふぅ〜〜危なかった」
どうにか腹への圧迫を耐え抜いた俺は、大通りから外れて裏通りへ辿り着いた。先程の喧騒とはうってかわって、裏通りは閑散としている。
だが、これこそ利根越の真骨頂。本来の姿は裏通りにある。この周辺はあまり開発が進んでおらず、昔ながらの光景を今に伝えている。
「ここだ。甘味処喰う兵衛」
裏通りの一角に構えるのは、幼少の頃の俺が世話になった懐かしの店だ。店外へ漂う砂糖醤油の甘い香り、今も健在だ。
「おぉ、いらっしゃい! お客さん、ここへ来るとはなかなかに通だねぇ?」
そして、店主の正美おじさんも健在だった。頭はすっかり禿げ上がってしまったが、柔和な笑顔は相変わらずだ。
「正美おじさん、お久しぶりです。冬樹です」
正美おじさんが、俺の顔を覚えていないのは仕方ない。何せ、ここへ足を運ぶのは数十年ぶりだからな。
「お〜っ? ……あぁ! ふっ君かぁ!! ずいぶん大人になったもんだなぁ!!」
俺の顔を思い出したのか、正美おじさんはあだ名で俺を呼んでくれた。昔の俺は『ふっ君』って呼ばれていたんだ。
あまりに昔の話で、誰が言い出したかも覚えていない。けれど、気づいた頃にはクラスのみんなからそう呼ばれていたんだ。
「正美おじさんも、お変わりないようで安心しました」
目まぐるしく変わっていく世界で、今も変わらず残っている場所。ここは俺にとって、憩いの場だったんだ。