表示設定
表示設定
目次 目次




【2】②

ー/ー



    ◇  ◇  ◇
 一学期の終業式の日。
 ホームルームで、空気の読めるお調子者の前川(まえかわ)が挙手までして発表した八木の結婚。
 質問の(てい)を取ってはいたが、これは発表であり暴露だろう。もちろん、彼に悪気などないのは明らかなのだが。
 教室のざわめきの中、大雅はただ郁のことを考えていた。
 郁は知っていたのだろうか。八木が結婚するということを。知っていたら苦しんでいたのかもしれないし、もし知らなかったら。

 ──知らなかったのなら。大雅と同様に、この場で初めて知った、のだとしたら。

 いつも陰ながら目を向けていた郁の様子を、肝心のいま大雅は見ることができなかった。彼の傷ついた顔を目の当たりにしてしまったら、冷静を保つ自信などはない。
 取り乱して何をしでかすか、自分でもわからなかった。

 内心の混乱を押し隠し、大雅は適当に周りのクラスメイトに挨拶だけして、まるで逃げるように学校を出て帰宅した。
 どうすればいいのか、そもそも自分が何かしていいものなのか判断がつかないままに、時間だけが過ぎて行く。
 郁を好きだと気づいた。同時に、彼には別の想い人がいることも知った。しかし郁の想いは、どうやら一方通行で終わったらしい。
 だからと言って、好きな相手の傷心に付け込むような真似はしたくなかった。
 けれど、恋人ではなくても、トモダチでも。少し、──ほんの少しだけ、郁の特別な存在になれる、かもしれない……?

 ふと時計に目をやると十時が近かった。
 さすがにこれ以上遅くなれば、いくら家の固定電話ではないとはいえ掛けるのは失礼に当たるだろう。
 大雅は思い切ってスマートフォンを手に取り、様式美のように交換したきり一度も使う機会のなかった郁の電話番号をディスプレイに表示させる。悩んでいる時間はない、という思いが指を動かした。

 耳に当てたスマートフォンから呼び出し音が鳴っている。五回、六回、……。
 思い直すなら今だ、と弱気が頭を(よぎ)った瞬間、郁の声が聞こえた。

『……はい』

                            ~END~



スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



    ◇  ◇  ◇
 一学期の終業式の日。
 ホームルームで、空気の読めるお調子者の|前川《まえかわ》が挙手までして発表した八木の結婚。
 質問の|体《てい》を取ってはいたが、これは発表であり暴露だろう。もちろん、彼に悪気などないのは明らかなのだが。
 教室のざわめきの中、大雅はただ郁のことを考えていた。
 郁は知っていたのだろうか。八木が結婚するということを。知っていたら苦しんでいたのかもしれないし、もし知らなかったら。
 ──知らなかったのなら。大雅と同様に、この場で初めて知った、のだとしたら。
 いつも陰ながら目を向けていた郁の様子を、肝心のいま大雅は見ることができなかった。彼の傷ついた顔を目の当たりにしてしまったら、冷静を保つ自信などはない。
 取り乱して何をしでかすか、自分でもわからなかった。
 内心の混乱を押し隠し、大雅は適当に周りのクラスメイトに挨拶だけして、まるで逃げるように学校を出て帰宅した。
 どうすればいいのか、そもそも自分が何かしていいものなのか判断がつかないままに、時間だけが過ぎて行く。
 郁を好きだと気づいた。同時に、彼には別の想い人がいることも知った。しかし郁の想いは、どうやら一方通行で終わったらしい。
 だからと言って、好きな相手の傷心に付け込むような真似はしたくなかった。
 けれど、恋人ではなくても、トモダチでも。少し、──ほんの少しだけ、郁の特別な存在になれる、かもしれない……?
 ふと時計に目をやると十時が近かった。
 さすがにこれ以上遅くなれば、いくら家の固定電話ではないとはいえ掛けるのは失礼に当たるだろう。
 大雅は思い切ってスマートフォンを手に取り、様式美のように交換したきり一度も使う機会のなかった郁の電話番号をディスプレイに表示させる。悩んでいる時間はない、という思いが指を動かした。
 耳に当てたスマートフォンから呼び出し音が鳴っている。五回、六回、……。
 思い直すなら今だ、と弱気が頭を|過《よぎ》った瞬間、郁の声が聞こえた。
『……はい』
                            ~END~