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【5】②

ー/ー



《彬くん。あの、明日のお昼一緒に食べない?》
《二人で。》
 散々迷った末、作成したメッセージの送信ボタンを押した。肝心のことを書き漏らしたのに気づいてもう一回。
《いいの? ゆきのちゃんは?》
 数分後に返って来た彬からのメッセージ。
《薫乃とは必ず一緒にランチ、って決めてるわけじゃないもん。いつもべったりの小学生じゃあるまいし、他の人とランチしたからどうこうなんてないよ~(*'▽')》
《わかった。僕は大丈夫。学食?》
 返信に、彬からの承諾が届く。
《できたら外行かない? あ、でも学食よりは高くつくかも。いいかな?》
 学生の身なので、自分の分は自分で負担するのが当然だと思っている。
 四人で会うときは言うまでもないが、たとえ『デート』だとしてもそれは変わらない。
 誕生日や記念日などはまた別なのだろうが。
 それでも、まだ彬の経済的な事情までは把握できていなかった。金銭感覚が人によって千差万別だということは、瑠璃も知識として持っている。
 ほんの数百円が重い場合がある事実も。

《大丈夫だよ。大学の近くのお店なら、そこまで高くないよね?》
《たぶんね。というか、安めのお店選べばいいじゃない。》
 詳しいことは明日会ってから決めることにして、最後のメッセージの送信ボタンを押した瑠璃はスマートフォンを左手から離した。

 駅から大学へ向かう通りを僅かに逸れたところにあるカフェレストラン。
 お洒落な外観やインテリアと料理の味の割には、基本的に学生相手というだけあって値段設定はリーズナブルだ。
 もちろん昨日も話していたように学食よりは高価格帯になるので、普段はまず足を向けることはない。少なくとも瑠璃や、周りの友人たちは。
「私、もうちょっと早く彬くんに会えてたらよかったな~、なんて」
 食後の紅茶を飲みながら冗談めかして本音を告げた瑠璃に、目の前の彬はふと真剣な面持ちになった。
「瑠璃ちゃん、いくつ? 僕は十九歳だけど」
 どういう関連があるのかも不明な彬の問いに、瑠璃は逆らう気もなく答える。
「私も十九歳。早生まれだから。二月なの。彬くん、誕生日いつだった?」
 そんなことさえ、互いに知らなかった。
 本当に『友達』でしかなかったのだ。今までは。
「ああ、そうだったんだ。僕は七月生まれだよ」
 まずは瑠璃にそう返して、彬は言葉を継いだ。
「平均寿命がどこまで当てになるのかはわからないけど。細かい数字はともかくとして、イレギュラーが無ければ僕たちにはこれから先何十年も時間があるんだよね。そういうスケールの中では、『一、二年』なんて誤差の範囲でしかないよ、きっと」
「……そう、かな。そうかも。なんかありがと、彬くん」
 まったく想定外の彼の思考に、瑠璃は煙に巻かれた気分で思わず礼を述べていた。
 単なる『時間』ではなく『順番』の問題だというのも、おそらく彬は理解しているのではないか。その上で、何も訊かずに敢えて……?
 少し変わった人、なのかもしれない。──けれどそれもまた、彼の魅力だと今は思える。
 瑠璃の心のうちなど知る由もない目の前の彬は、一瞬俯いたかと思うと顔を上げてゆっくり口を開いた。
「瑠璃ちゃん。正式に僕と付き合ってもらえますか? ──『その時間』を本当に誤差にしようよ、二人で」
「……うん。ありがとう、よろしく」
 薫乃たちへの憤りは今もない。
 いいやり方だったのかはともかく、あの『見合い』がなければこの人とこんな関係にはなれなかった。

 ──ちょっと悔しい気はするけど、騙されたことも感謝するよ。新しい「恋」の種と、育む手助けをくれたこと。

 ~END~



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《彬くん。あの、明日のお昼一緒に食べない?》
《二人で。》
 散々迷った末、作成したメッセージの送信ボタンを押した。肝心のことを書き漏らしたのに気づいてもう一回。
《いいの? ゆきのちゃんは?》
 数分後に返って来た彬からのメッセージ。
《薫乃とは必ず一緒にランチ、って決めてるわけじゃないもん。いつもべったりの小学生じゃあるまいし、他の人とランチしたからどうこうなんてないよ~(*'▽')》
《わかった。僕は大丈夫。学食?》
 返信に、彬からの承諾が届く。
《できたら外行かない? あ、でも学食よりは高くつくかも。いいかな?》
 学生の身なので、自分の分は自分で負担するのが当然だと思っている。
 四人で会うときは言うまでもないが、たとえ『デート』だとしてもそれは変わらない。
 誕生日や記念日などはまた別なのだろうが。
 それでも、まだ彬の経済的な事情までは把握できていなかった。金銭感覚が人によって千差万別だということは、瑠璃も知識として持っている。
 ほんの数百円が重い場合がある事実も。
《大丈夫だよ。大学の近くのお店なら、そこまで高くないよね?》
《たぶんね。というか、安めのお店選べばいいじゃない。》
 詳しいことは明日会ってから決めることにして、最後のメッセージの送信ボタンを押した瑠璃はスマートフォンを左手から離した。
 駅から大学へ向かう通りを僅かに逸れたところにあるカフェレストラン。
 お洒落な外観やインテリアと料理の味の割には、基本的に学生相手というだけあって値段設定はリーズナブルだ。
 もちろん昨日も話していたように学食よりは高価格帯になるので、普段はまず足を向けることはない。少なくとも瑠璃や、周りの友人たちは。
「私、もうちょっと早く彬くんに会えてたらよかったな~、なんて」
 食後の紅茶を飲みながら冗談めかして本音を告げた瑠璃に、目の前の彬はふと真剣な面持ちになった。
「瑠璃ちゃん、いくつ? 僕は十九歳だけど」
 どういう関連があるのかも不明な彬の問いに、瑠璃は逆らう気もなく答える。
「私も十九歳。早生まれだから。二月なの。彬くん、誕生日いつだった?」
 そんなことさえ、互いに知らなかった。
 本当に『友達』でしかなかったのだ。今までは。
「ああ、そうだったんだ。僕は七月生まれだよ」
 まずは瑠璃にそう返して、彬は言葉を継いだ。
「平均寿命がどこまで当てになるのかはわからないけど。細かい数字はともかくとして、イレギュラーが無ければ僕たちにはこれから先何十年も時間があるんだよね。そういうスケールの中では、『一、二年』なんて誤差の範囲でしかないよ、きっと」
「……そう、かな。そうかも。なんかありがと、彬くん」
 まったく想定外の彼の思考に、瑠璃は煙に巻かれた気分で思わず礼を述べていた。
 単なる『時間』ではなく『順番』の問題だというのも、おそらく彬は理解しているのではないか。その上で、何も訊かずに敢えて……?
 少し変わった人、なのかもしれない。──けれどそれもまた、彼の魅力だと今は思える。
 瑠璃の心のうちなど知る由もない目の前の彬は、一瞬俯いたかと思うと顔を上げてゆっくり口を開いた。
「瑠璃ちゃん。正式に僕と付き合ってもらえますか? ──『その時間』を本当に誤差にしようよ、二人で」
「……うん。ありがとう、よろしく」
 薫乃たちへの憤りは今もない。
 いいやり方だったのかはともかく、あの『見合い』がなければこの人とこんな関係にはなれなかった。
 ──ちょっと悔しい気はするけど、騙されたことも感謝するよ。新しい「恋」の種と、育む手助けをくれたこと。
 ~END~