あやめは二十五歳になった。
大学を卒業すると同時に家を出て、就職先の近くで一人暮らしをしながら働いている。特に関係が切れたというわけでもなく、年末年始には必ず帰省して来ていた。
母親である妻とは、頻繁とはいえずとも連絡を取り合っているらしい。
ちょうど一年前に大学を卒業して自宅から通勤しているさくらも、来年を目途に独立を考えているようだ。
「子どもたちの成長は喜ばしいことなんでしょうけど、……寂しくなるわねぇ」
娘に相談されていたというみどりがそう零していた。
「お父さん、『アレ』はあたし一生忘れないからね~。これからもいろいろ埋め合わせしてもらうよ。就職祝いとか、結婚祝いとかぁ」
大学生の頃には、もうあやめも笑いながら冗談めかして話題にできるようにはなっていた。さくらとも、たまに揉めることはあっても基本仲のいい姉妹だと思う。
それでも、彼女の本当の想いはわからないままだった。
もちろん大島は、一番の問題が「入学式に参列できたのにしなかったこと」ではないことくらい重々承知している。
娘が何よりも傷ついたのは、『妹との差をはっきりと見せつけられた』事実なのだ。
実際はどうあれ、そんな風に感じさせること自体があってはならなかった。親としての禁忌を犯してしまったのが、今も悔やまれる。
まだ幼かった娘の中に芽生えた『父への不信』は、今いったいどういう形で存在しているのか。
もう完全に枯れ果てていればいいが、大島はそこまで楽観的にはなれなかった。せめて大きく育つことなく『芽』のまま眠ってくれていれば御の字だろう。
そして、この情けない父親を反面教師にして欲しかった。
彼女がいつか親になったとき、我が子に同じ哀しみを味わわせることだけはないと信じられる。
間違えるのは自分だけで十分だった。
──同じ
轍を踏む人間は少ないほどいい。部下でも、娘でも。たとえまったく無関係の『誰か』でも。
~END~