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【3】

ー/ー



    ◇  ◇  ◇
「……そういやそうだわ。ありがと、職場で言ったりしてとんでもない恥かかなくて済んだ」
 一瞬過去に飛んだ意識を引き戻し、平静を装って礼を言う私に彼女は笑みを浮かべて手を振った。

「ううん。そういうことってあるよね。多分『桜と卒業式』って、あとで刷り込まれたイメージだと思うよ。絵になるから歌とかお話とかの演出で使われてそうだもん」
「ああ! 確かに〜」
 刷り込み、すり替え。
 そうね、きっとその通りだわ。
 私の中で、勝手に記憶が改竄(かいざん)されていた。
 桜と結びついた彼との別れの痛みが、卒業式の級友との別れのその場限りの寂しさに。
 十年の月日で、私は心の中とは裏腹の表情を取り繕える大人になった。

 だから今、笑って友人と会話しながらも心の片隅で考えている。の過去も修正したし、そもそも桜に責任なんかないんだけど。
 初めて気がついた。自覚した。
 学校でも職場でも、何かと理由をつけて避けていたことに。
 直前に交わした高校の友達との約束も、口実をつけて行かなかったから。

 ──あれ以来、私は「お花見」をしたことはないんだわ。

  ~END~



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    ◇  ◇  ◇
「……そういやそうだわ。ありがと、職場で言ったりしてとんでもない恥かかなくて済んだ」
 一瞬過去に飛んだ意識を引き戻し、平静を装って礼を言う私に彼女は笑みを浮かべて手を振った。
「ううん。そういうことってあるよね。多分『桜と卒業式』って、あとで刷り込まれたイメージだと思うよ。絵になるから歌とかお話とかの演出で使われてそうだもん」
「ああ! 確かに〜」
 刷り込み、すり替え。
 そうね、きっとその通りだわ。
 私の中で、勝手に記憶が|改竄《かいざん》されていた。
 桜と結びついた彼との別れの痛みが、卒業式の級友との別れのその場限りの寂しさに。
 十年の月日で、私は心の中とは裏腹の表情を取り繕える大人になった。
 だから今、笑って友人と会話しながらも心の片隅で考えている。《《捏造》》の過去も修正したし、そもそも桜に責任なんかないんだけど。
 初めて気がついた。自覚した。
 学校でも職場でも、何かと理由をつけて避けていたことに。
 直前に交わした高校の友達との約束も、口実をつけて行かなかったから。
 ──あれ以来、私は「お花見」をしたことはないんだわ。
  ~END~