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高校の卒業式も終わり、みんな大学進学で散り散りになってしまう。
そろそろ桜も満開が近かった。
ほとんどの国立大の発表の後、仲の良い友達で集まって「こっちに残った子たちだけでもお花見しようよ」って話してたのよ。
見頃はまだもう少し先だけど、地元の大学構内の桜の大木が何本も植えられた、学校案内のパンフにも必ず載せられる自慢のスポットで。
卒業式と入学式の間なら、部外者の高校生が立ち入っても邪魔にはならないから。
解散したあと、約束してた「彼」とよく行く公園で会ったんだ。
「俺たち、これ以上一緒にいる意味あんの?」
冷たい口調。冷たい態度。
もうお前に興味なんか欠片もないと、全身で表すような。
原因の一つはわかってたわ。
受験勉強で、私は彼のことは二の次どころかそれ以下だった。
年が明けて三年生が自由登校になってからは《会いたい。》って連絡が来ても《今は無理。》って断ることが多かった。
今が一番大事でしょ? あんたもそうじゃないの?
大学入ったらいくらでも会えるし、一緒にいられるじゃない。二人とも、自宅通学できる大学希望なんだから。
だけど彼は違ったんだよね、きっと。「恋愛は今は不要」だった私と、「恋愛が受験の励みになった」彼……?
「……そっか、わかった」
あっさりした私の返事で、二人の関係は簡単に終わった。
強がりには違いないけど、彼に縋る気なんかなかったのよ。そこまで捨て身にはなれなかった。
──つまり、こっちもその程度の気持ちだった、のかな。
突然の風に顔の前にかざした右手に、小さな花びら。
私を気にする素振りさえなく立ち去る彼を、指と透き通るようなピンク越しに見送った。
上手く行っていた頃なら心配してくれた筈だよね。「大丈夫か? 目に入ってないよな?」なんて。
もう私は、彼にとってそんな気を遣う相手じゃなくなったってことか。
落とした視線の先の地面にも、無数の花びら。時間が経ったものは、もう色も形も『桜』を留めていない。
今はまだ咲き誇ってるけど、桜の季節はあっという間に終わりになってしまう。この恋と同じく。
十八のあの日、私は一人残された公園でただそれだけを嚙み締めていた。
桜には期間限定だからこその儚い美しさもある、とは思う。だけど人の想いは違うよね。
私はなんで、彼と付き合ってたんだろう。互いにどこが気に入ってたんだろう。もう思い出せない。
だけど確かに好きだった。
彼だけ見つめて笑い合った時間は嘘じゃなかったわ。それだけは、事実。
今なら素直に言えるのに。
本当は続けたかった。だけど続かなかった、続ける努力さえしなかった、幼かった私の恋。
あのとき泣いて縋っていたら何かが変わったのかな。
……私にそんな真似できるわけないのに、詮無いことがふと浮かんで消える。