【その後の話】カイ・デルフィヌス

ー/ー



いつもの決まった時間に、本邸の庭でティータイム。

今日のお供は直近の交易品のリスト……休憩といいながら仕事をする。
目新しいものを見つけたら、今までの経験から得た知識でどんな新しいものを生み出せるかを思考(しこう)する。

「カイ様……お茶の時間ぐらいお仕事は忘れてもいいんじゃないですか?」
「そういう訳にもいかないでしょリリー。……そろそろ来るんじゃない?」
「あ、あぁ~……確かに……ですね……」

遠くにいても聞こえてくる。パタパタという足音が近づくのが。

「カイ兄さま!!」
「あたしもいっちょにおかちたべうーーー!」

続けてやってきたのはおんぶ(ひも)でふたりの子供を背負い、両腕でさらにふたりの子供を抱っこして走ってくるヒゲ面の男。

「ユース……それは危ないからやめた方がいいって言ったでしょう?ほら……おいで。」
「カイ~~~助かる!さすが長男!頼りになる!っということで……ちょっとまかせた!」
「わかってますよ……気を付けて行ってきてくださいね。」

ユースがデルフィヌスに来てティアと結婚(けっこん)してから……あっという間に10年が経った。
ほぼ毎年と言っていいだろうね……ふたりの愛の結晶が産れ、ボクには6人の妹と弟ができた。仲がいいのはいい事だし、下の子たちは可愛いし大事なんだけど……もう少し辺境伯(へんきょうはく)らしい行動をしてもらいたいもの。

でも、それが今のユースだから……ボクは受け入れて支えるように(つと)めている。

「今日はどちらへ行くんでしたっけ?」
「火山のある島に行くんだ。開通(かいつう)した温泉の搬送口(はんそうぐち)最終整備(さいしゅうせいび)!週末に間に合わせなきゃいけないからね!子供たちはカイがしっかり見てくれるから助かるよ。あ!リリーも……ティアと一緒で身重(みおも)なんだから無理しないようにね?」
「ありがとうございますユーステッド様。でも……予行練習ってことで一緒に遊びます!」
「あはは!ありがとう!じゃあ行ってくる!また夜にな!」

元気よく手を振ってユースは本邸を後にする。

ジュリアンとリリーも夫婦になって3年。今年初めて子供を(さず)かった。今は一緒に子供たちを見てくれているけど、自分の子供ができたらかかりっきりになるだろうから……ボクの苦労は増えるだろうと思っている。

けど……それでも。

これが今までで一番の幸せなんだ。

おいかけっこをして、おままごとに付き合って、おやつを一緒に食べて、子供たちを寝かしつけて……静かな時間が訪れる。本邸の1階の大部屋で、春の暖かい風を受けながら眠る妹と弟たちの頭を()で……テーブルに戻る。

1回目はひどいものだった。
2回目は理解できないまま同じ運命を辿った。
3回目は状況を理解することに努めた。
4回目は――。

ボクはこの世界を繰り返している。

何度目かわからない今回は、今まで良い方向に運んだことをすべて実践(じっせん)し……今の幸せを手に入れることができた。

ユースが変わってくれたことが一番大きいんじゃないかと思ってる。今まではアリーズにしがみついたまま……ティアと形だけの結婚をして子供も生まれることもなく、冷え切った家族ごっこをしていた。
無理やりな伝手(つて)を使ってボクをアリーズに留学生(りゅうがくせい)として送り込み、不思議な力を持って降り立った『聖女』とか呼ばれる女性を(うば)い合う意味の分からない争いに巻き込まれていった。唯一(ゆいいつ)いいところがあったと言えば……そこで得た知識(ちしき)だろうか。

海綿(かいめん)の加工や石鹸(せっけん)を作る方法。フルーツを加工して作ったミルク……細かいものを上げたらきりがないけれど……すべて『聖女』から得た知識をティアに提案(ていあん)し、ここで浸透(しんとう)するようにうまく動いた。

そこだけは感謝しているけれど……もう……あんな意味の無い争いに巻き込まれたくない。

すべて5歳から始まることに意味があるならそれは……ユースがこの島にくるということが起点(きてん)。少しおかしな5歳児だと思われたとしてもなんとかしていい方向へ進むようにしなければいけない……それなりに苦労するからもうこりごりだけど。

「さて……もう戻ることがないといいけど……」

祝福(ギフト)』なんて得体(えたい)のしれない力はもう……ボクには必要ない。

『聖女』に関わることで巻き込まれる。だから今回は絶対に聖女に会うことがないようにしないといけない。そうしなければティアの幸せも、ユースの幸せも、ボクの幸せも、島の皆の幸せも……無かったことになってしまう。絶対に、そんなことがあってはいけない。

「カイ様ー!お手紙が届いていますよ~?」
「ボクに手紙……?」

15歳になったボク。今までだったらアリーズにいる。今回初めて、デルフィヌスから出ることなく、過ごしている。いやな予感、ってやつかな?だったらそんなもの……最初からなかったことにすればいい。

「リリー捨てておいてくれないかな?ボクには必要のないものだからね。」
「いいんですか?アリーズの刻印(こくいん)が入った封蠟(ふうろう)がされていますけど……」
「構わないよ。ベンにでも渡してカマドの火にくべちゃって?」

ボクがアリーズに行って学ぶことはもうない。ここでユースとティアに振り回されながら、沢山の家族に囲まれて一生を()げられたらそれでいいのだから。

「カイ~?子供たちは……あら……うふふ。気持ちよさそうに寝ているのね?」
「いっぱい遊んだからぐっすりです。あ、ティア!座ってください!あとですね?今回の交易品(こうえきひん)に面白いのがあったんです。少しお話いいですか?」
「仕事熱心なんだから……頑張りすぎも良くないわよ?」
「大丈夫です。ボクは今こうしているのが幸せですから」

また家族も増えるんだから……遠くになんて行ってられないしね?


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いつもの決まった時間に、本邸の庭でティータイム。
今日のお供は直近の交易品のリスト……休憩といいながら仕事をする。
目新しいものを見つけたら、今までの経験から得た知識でどんな新しいものを生み出せるかを|思考《しこう》する。
「カイ様……お茶の時間ぐらいお仕事は忘れてもいいんじゃないですか?」
「そういう訳にもいかないでしょリリー。……そろそろ来るんじゃない?」
「あ、あぁ~……確かに……ですね……」
遠くにいても聞こえてくる。パタパタという足音が近づくのが。
「カイ兄さま!!」
「あたしもいっちょにおかちたべうーーー!」
続けてやってきたのはおんぶ|紐《ひも》でふたりの子供を背負い、両腕でさらにふたりの子供を抱っこして走ってくるヒゲ面の男。
「ユース……それは危ないからやめた方がいいって言ったでしょう?ほら……おいで。」
「カイ~~~助かる!さすが長男!頼りになる!っということで……ちょっとまかせた!」
「わかってますよ……気を付けて行ってきてくださいね。」
ユースがデルフィヌスに来てティアと|結婚《けっこん》してから……あっという間に10年が経った。
ほぼ毎年と言っていいだろうね……ふたりの愛の結晶が産れ、ボクには6人の妹と弟ができた。仲がいいのはいい事だし、下の子たちは可愛いし大事なんだけど……もう少し|辺境伯《へんきょうはく》らしい行動をしてもらいたいもの。
でも、それが今のユースだから……ボクは受け入れて支えるように|努《つと》めている。
「今日はどちらへ行くんでしたっけ?」
「火山のある島に行くんだ。|開通《かいつう》した温泉の|搬送口《はんそうぐち》の|最終整備《さいしゅうせいび》!週末に間に合わせなきゃいけないからね!子供たちはカイがしっかり見てくれるから助かるよ。あ!リリーも……ティアと一緒で|身重《みおも》なんだから無理しないようにね?」
「ありがとうございますユーステッド様。でも……予行練習ってことで一緒に遊びます!」
「あはは!ありがとう!じゃあ行ってくる!また夜にな!」
元気よく手を振ってユースは本邸を後にする。
ジュリアンとリリーも夫婦になって3年。今年初めて子供を|授《さず》かった。今は一緒に子供たちを見てくれているけど、自分の子供ができたらかかりっきりになるだろうから……ボクの苦労は増えるだろうと思っている。
けど……それでも。
これが今までで一番の幸せなんだ。
おいかけっこをして、おままごとに付き合って、おやつを一緒に食べて、子供たちを寝かしつけて……静かな時間が訪れる。本邸の1階の大部屋で、春の暖かい風を受けながら眠る妹と弟たちの頭を|撫《な》で……テーブルに戻る。
1回目はひどいものだった。
2回目は理解できないまま同じ運命を辿った。
3回目は状況を理解することに努めた。
4回目は――。
ボクはこの世界を繰り返している。
何度目かわからない今回は、今まで良い方向に運んだことをすべて|実践《じっせん》し……今の幸せを手に入れることができた。
ユースが変わってくれたことが一番大きいんじゃないかと思ってる。今まではアリーズにしがみついたまま……ティアと形だけの結婚をして子供も生まれることもなく、冷え切った家族ごっこをしていた。
無理やりな|伝手《つて》を使ってボクをアリーズに|留学生《りゅうがくせい》として送り込み、不思議な力を持って降り立った『聖女』とか呼ばれる女性を|奪《うば》い合う意味の分からない争いに巻き込まれていった。|唯一《ゆいいつ》いいところがあったと言えば……そこで得た|知識《ちしき》だろうか。
|海綿《かいめん》の加工や|石鹸《せっけん》を作る方法。フルーツを加工して作ったミルク……細かいものを上げたらきりがないけれど……すべて『聖女』から得た知識をティアに|提案《ていあん》し、ここで|浸透《しんとう》するようにうまく動いた。
そこだけは感謝しているけれど……もう……あんな意味の無い争いに巻き込まれたくない。
すべて5歳から始まることに意味があるならそれは……ユースがこの島にくるということが|起点《きてん》。少しおかしな5歳児だと思われたとしてもなんとかしていい方向へ進むようにしなければいけない……それなりに苦労するからもうこりごりだけど。
「さて……もう戻ることがないといいけど……」
『|祝福《ギフト》』なんて|得体《えたい》のしれない力はもう……ボクには必要ない。
『聖女』に関わることで巻き込まれる。だから今回は絶対に聖女に会うことがないようにしないといけない。そうしなければティアの幸せも、ユースの幸せも、ボクの幸せも、島の皆の幸せも……無かったことになってしまう。絶対に、そんなことがあってはいけない。
「カイ様ー!お手紙が届いていますよ~?」
「ボクに手紙……?」
15歳になったボク。今までだったらアリーズにいる。今回初めて、デルフィヌスから出ることなく、過ごしている。いやな予感、ってやつかな?だったらそんなもの……最初からなかったことにすればいい。
「リリー捨てておいてくれないかな?ボクには必要のないものだからね。」
「いいんですか?アリーズの|刻印《こくいん》が入った|封蠟《ふうろう》がされていますけど……」
「構わないよ。ベンにでも渡してカマドの火にくべちゃって?」
ボクがアリーズに行って学ぶことはもうない。ここでユースとティアに振り回されながら、沢山の家族に囲まれて一生を|遂《と》げられたらそれでいいのだから。
「カイ~?子供たちは……あら……うふふ。気持ちよさそうに寝ているのね?」
「いっぱい遊んだからぐっすりです。あ、ティア!座ってください!あとですね?今回の|交易品《こうえきひん》に面白いのがあったんです。少しお話いいですか?」
「仕事熱心なんだから……頑張りすぎも良くないわよ?」
「大丈夫です。ボクは今こうしているのが幸せですから」
また家族も増えるんだから……遠くになんて行ってられないしね?