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商談94 継雄の本懐

ー/ー



 俺は古の味わいに戦慄している。何故なら、このようにいくらでも口にできてしまうからだ。
「やっぱり、故郷の味が一番だよなぁ?」
 叔父さんの言葉は核心を突いていた。俺も津々浦々を巡っていろんなものを味わってきたが、やはり故郷の味は特別なものがある。
 故郷は俺を育ててきたものであり、故郷の味というのはまさに俺の血肉に同じ。地産地消の精神は、俺自身のアイデンティティにも大きく寄与している。
「ふぅ……」
 叔父さんの呑む各務山とて例に漏れない。故郷の味を故郷で味わう、これこそ至高なのだ。
 そういえば、叔父さんが俺を呼び出したのには訳があるはずだ。さてさて、機をみて探り出すとするか……。
「はぁ〜……」
 叔父さんは各務山に郷愁を重ねているのか、時折眉間にしわが寄る。話も長いが、こうやって余韻に浸る時間も長い。そう、叔父さんは何もかもが長いのだ。
「う〜〜たまらん!」
 叔父さんの余韻はまだまだ続いている。正直言うと、この間延びした時間はどうにも耐え難い。さて、そろそろ本懐を聞き出すとしよう。
「……ところでおじさん、話って何だい?」
 叔父さんの余韻に水を指すのも申し訳ないが、俺とて時間が限られている。これは止むなし。
「おぉ、すまない。話ってのはだなぁ……」
 余韻に浸って今にも顔が(とろ)けそうな叔父さんだったが、オレの一声が耳に入り真面目な表情へ切り替わる。何というか……畳返しを見るような鮮やかさだ。
「俺の兄さん、お前からすれば父親だなぁーー」
 叔父さん、前置きが長い。今さら親族関係を確認してどうする? もう少し単刀直入に!
「兄さんはここ数年、体調を崩しながらも入間ホールディングスの会長を務めてきた。だが、それも引き際が迫っているーー」
 叔父さん、何だか遠回しに話を進めたいようだ。人間誰しもそうだが、肝心な話ってなかなか進めにくいよなぁ。
「入間ホールディングス会長の後任、それは言うまでもなく俺だ。だが、経営の手腕を握る社長を誰に据え置くか……これは実に悩ましい」
 なるほど、入間ホールディングス社長の後任人事か。そりゃそうだよなぁ、会長の息子である俺が婿に出てしまったのだから。それはもはや、神のみぞ知る領域だ。
「俺の息子達はまだ若い、役員など到底無理がある」
 そういえば、叔父さんは結婚が遅かったんだよな。2人の息子に恵まれたものの、いずれもまだ大学生だと聞いている。社会を知らない人間に会社役員はあまりにも重責というものだ。
「そこでだ……冬樹、お前が社長をやってみるつもりはないか?」
 そうそう、社長は他に適任がいるだろう。俺みたいな中堅どころが……って、俺っ!!?


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 俺は古の味わいに戦慄している。何故なら、このようにいくらでも口にできてしまうからだ。
「やっぱり、故郷の味が一番だよなぁ?」
 叔父さんの言葉は核心を突いていた。俺も津々浦々を巡っていろんなものを味わってきたが、やはり故郷の味は特別なものがある。
 故郷は俺を育ててきたものであり、故郷の味というのはまさに俺の血肉に同じ。地産地消の精神は、俺自身のアイデンティティにも大きく寄与している。
「ふぅ……」
 叔父さんの呑む各務山とて例に漏れない。故郷の味を故郷で味わう、これこそ至高なのだ。
 そういえば、叔父さんが俺を呼び出したのには訳があるはずだ。さてさて、機をみて探り出すとするか……。
「はぁ〜……」
 叔父さんは各務山に郷愁を重ねているのか、時折眉間にしわが寄る。話も長いが、こうやって余韻に浸る時間も長い。そう、叔父さんは何もかもが長いのだ。
「う〜〜たまらん!」
 叔父さんの余韻はまだまだ続いている。正直言うと、この間延びした時間はどうにも耐え難い。さて、そろそろ本懐を聞き出すとしよう。
「……ところでおじさん、話って何だい?」
 叔父さんの余韻に水を指すのも申し訳ないが、俺とて時間が限られている。これは止むなし。
「おぉ、すまない。話ってのはだなぁ……」
 余韻に浸って今にも顔が|蕩《とろ》けそうな叔父さんだったが、オレの一声が耳に入り真面目な表情へ切り替わる。何というか……畳返しを見るような鮮やかさだ。
「俺の兄さん、お前からすれば父親だなぁーー」
 叔父さん、前置きが長い。今さら親族関係を確認してどうする? もう少し単刀直入に!
「兄さんはここ数年、体調を崩しながらも入間ホールディングスの会長を務めてきた。だが、それも引き際が迫っているーー」
 叔父さん、何だか遠回しに話を進めたいようだ。人間誰しもそうだが、肝心な話ってなかなか進めにくいよなぁ。
「入間ホールディングス会長の後任、それは言うまでもなく俺だ。だが、経営の手腕を握る社長を誰に据え置くか……これは実に悩ましい」
 なるほど、入間ホールディングス社長の後任人事か。そりゃそうだよなぁ、会長の息子である俺が婿に出てしまったのだから。それはもはや、神のみぞ知る領域だ。
「俺の息子達はまだ若い、役員など到底無理がある」
 そういえば、叔父さんは結婚が遅かったんだよな。2人の息子に恵まれたものの、いずれもまだ大学生だと聞いている。社会を知らない人間に会社役員はあまりにも重責というものだ。
「そこでだ……冬樹、お前が社長をやってみるつもりはないか?」
 そうそう、社長は他に適任がいるだろう。俺みたいな中堅どころが……って、俺っ!!?