今日は甥っ子を連れて中心街へ買い物に来ている。牧場の近隣は観光向けの飲食店や宿泊施設ばかりであるため、仕事に必要や資材などはこうやって中心街へ買い出しに出なければならない。
近年、本須賀町は栃木県でも指折りの中核都市に成長してきたが、それでも中心街とそうでない地域の格差が激しい。客観的に見れば、牧場の周辺は限界集落といっても過言ではない。
「おじさん、今日はたくさん買い物したね!」
この街で、こんな風に助手席で嬉々としている子供はあまり見かけなくなってきている。そういう意味で、たとえ牛頭だとしても子供の存在は貴重なのだ。
「まぁ、久々の買い出しだったからなぁ。それに、牛郎の勉強道具も買ったしな!」
俺が子供の頃は、田舎であっても文房具屋が点在していた。けれど、過疎化でそういった店も次々に廃業していった。時代の流れは、時に残酷なものである。
「これ欲しかったんだ、バトル鉛筆!!」
バトル鉛筆、俺が子供の頃にもあったなぁ。六角鉛筆を転がして、出た面の数値によって勝敗を決するというもの。
バトル鉛筆は、今でも小学生男児の心をくすぐる魔性のアイテムのようだ。だからと言って、10ダースは流石に買い過ぎじゃなかろうか?
「この戦いに勝てば、僕は給食のデザートを総取り出来るんだ!!」
あぁ、そういうことか。小学生って、給食のデザートに対する執着が強いんだよなぁ。つまり、デザートの権利を牛耳る為の準備をしていたわけだな……牛だけに。
「たくさんのデザート、朱莉ちゃんにプレゼントしたら喜んでくれるだろうなぁ……」
小学生のくせに下心も見え透いている。甥っ子よ、蹄……じゃなかった、小手先で女は振り向いてくれない。そういうのは、牛歩のように一つ一つ思いを積み重ねていくのが肝要なんだ。
けれど、小学生に物事を俯瞰することを語っても仕方あるまい。馬耳東風というやつだ。
「あれ、これってもしかして……」
バトル鉛筆を眺めて嬉々としていた牛郎の表情が一変、困惑の表情に変わった。一体どうしたというのか?
「これ、バトル鉛筆じゃなくて占い鉛筆だった!! あぁ〜下手こいた〜〜〜っ!!!」
甥っ子は頭を抱えて項垂れた。けれど、そんなのは関係ない。俺はここで、とっておきの言葉を放つ。
「牛郎、それだけの占い鉛筆があるわけだ。1ダースくらい、朱莉ちゃんとやらにプレゼントしてみたらどうだ? もちろん、貰いすぎてお裾分けっていう口実をつけてな?」
牛郎は全身に電流が走ったかの如く、それか! と納得の表情を浮かべた。女というのは、大概にして占いが好きなものだ……知らんけど。
「名案だね! おじさんありがとう!!」
俺の言葉を聞いて、牛郎に笑顔が戻った。甥っ子よ、何事もまずは『人を射んとせば先ず馬を射よ』だ。