ミノタウルスの出産から1週間が経った。ただでさえ壮絶な出産立ち会い、そこに牛顔の甥っ子誕生。加えて、誰一人として違和感を持たない狂気。混沌とした状況に俺はまだついていけてない。
幸い母子ともに健康らしく、今日を以てみのり達は退院することが決まった。とりあえず、幸先は良さそうだ……甥っ子が牛頭である事以外。
ーー
そういえば、ミノタウルスの名前で久々に兄妹喧嘩になった。当初から、みのりは『うしたろう』という名前以外を頑なに拒んだ。
確かに牛頭だけど、いくらなんでも『うしたろう』は可哀想だろう。今日流行りのキラキラネームよりも質が悪い。
そこで俺は、牛という言葉を活かしつつまともな名前にならないか熟考した。うし……ぎゅう……モー……駄目だ駄目だ!! どうやってもいい感じの名前が思い浮かばない!!
そもそも、どうやったら牛頭の子供が生まれるんだ!? いろんな意味で、父親はどういう男なのかと詮索したくなる。
それにしても、何で父親の素性を明かせないんだろうなぁ……もしかして不義の子……? ミノタウルスだけに。いや、甥っ子の名誉のため、今の言葉は取り消そう。
その時の俺は、ごぼうチップス片手に思いあぐねていた。そういえば……ごぼうってどんな漢字を書いたっけかなぁ? 何となく気になった俺は、手元のスマホでごぼうを漢字に変換してみた。
「『牛蒡』かぁ……」
牛蒡……うしたろう……そうだ、牛郎ならいけるかもしれない!! さっそく俺は、面会でみのりに新しい名前を提案してみた。
「牛に郎で牛郎……語呂がいいね!」
みのりは快諾のピースサイン。やっぱり語呂って大事だろ? みのりの快諾を受け、俺はその日に町役場へ出生届を提出した。うしたろう改め、甥っ子を牛郎と名付けた。
ーー
そして今、俺はみのりと牛郎の待つ栃木県立本須賀病院へ向けて車を走らせているところだ。この一帯は道路のアップダウンが激しく、車体が上下に揺さぶられる。牛郎、乗り物酔いしないといいなぁ……。
牛郎のためにチャイルドシートを取り付けたが、要領を得ていない俺はなかなかに苦戦した。というより、ISOFIXなんて子供が居なかったら気付かないだろうな。
そんな事を考えていたら、病院も近くなってきた。待っていろよ、2人とも!!
ーー
病院に到着して早々に、俺は驚愕の場面に遭遇した。それはだなぁ……。
「天上天下唯我独尊!!」
牛郎、立ってるじゃないか……。しかも、天地をそれぞれ指差しながら意味不明な言葉を発している。
「あはは、牛郎が立ったぁ!!」
牛郎の佇まいに嬉々としているみのり。もうわけわからん……。