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あなただけの楽園

ー/ー




髪を結いあげていたリボンがほどけ、白金色の髪が波を打つ。
夜に溶け込む烏の濡れ羽色がつくる風に目を閉じた。

「ダメだった」

弱々しい弦の震える音。
皮が厚くなるほどに努力した手は引っ掻き跡でいっぱいだ。

さめざめと泣くヴィタの前に膝をつき、ルークはそっと抱きしめる。
耳元に唇を寄せ、吐息混じりにささやいた。

「僕はうれしかったよ。君の想いは誰にも貶されてはいけない」

目尻にたまった涙を寄せた唇で掬いとる。

「君ほど純粋で、焦がれるものはない。嫉妬でしかないんだ」

それは熱さに溶ける角砂糖。

「誰も君には敵わない。僕にとって君は愛おしいを超えた存在」

上唇にやわらかな感触があたる。

「泣いてもいいよ。……愛してる。僕は君が欲しくてたまらない」

酷い人だ。
最初からヴィタを堕とすために仕向けたくせに。

知っている。
絶望に突き落とされる瞬間、囚われる感覚を。

もう何度もこの手に囚われて、愛に溺れて息が出来なくなったことか。


(抗えない。それほどまでに彼の誘惑は甘い)

美しいものを彫りたいと願い続けたこの手が作り出したのは……罪深き者。
真っ黒に染まった手を知り、ヴィタは涙を流して目を閉じる。

(ずっと逃げなきゃと思ってたのに、捕まっちゃったんだ)

「あなた、悪魔だったのね」

その言葉に答えはなく、まばゆい暁だけがあった。

唇が重なると同時にヴィタの中で時が止まる。
それは天の使いでありながら地に落ち、這いずる生き方をしていた。

手を汚すことなく、人の心に生まれた影にささやくだけ。
果実から溢れ出す密な味に抗うことはもっとも難しい。

「長かった。これで君は僕のものだ」

何度も出会い、何度も別れてきた。

手に入れるためだけにこの声はあると、ルークは誘惑に誘惑をかさねて、甘く優しくささやいた。

「僕はね、君を手に入れられるなら傷つけても構わないんだ。……やさしいだけだと、君はすぐどこかに行ってしまうからね」


はじまりの女は傷ついた心を癒す甘い誘惑に墜ちていく。

一度知ってしまえば、その蜜を吸わずにはいられない。

苦難の果てよりも、目の前の甘い果実がほしい。

「ルーク、愛してる。私の暁」

それは愛の象徴。
よく似た美しき明けの明星。

魂は、永遠に囚われる。

後に語られるは「悪魔に誘惑されし原初の女の物語」。

天の使いとなんら変わらぬ美しさで甘くささやくだけ。
決して生命を奪わず、誘惑だけをもつ。

この手は罪深いか?
人一人殺さぬ柔い手に何を恐れる?

愛情を抱いた相手を手に入れるために、ほんの少し甘さを足しただけ。

はじめて見た時から欲した人間の女。
もう、何度目の誘惑かわからない。

ようやく堕ちてきたと、暁に似た男は艶やかに微笑んだ。


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髪を結いあげていたリボンがほどけ、白金色の髪が波を打つ。
夜に溶け込む烏の濡れ羽色がつくる風に目を閉じた。
「ダメだった」
弱々しい弦の震える音。
皮が厚くなるほどに努力した手は引っ掻き跡でいっぱいだ。
さめざめと泣くヴィタの前に膝をつき、ルークはそっと抱きしめる。
耳元に唇を寄せ、吐息混じりにささやいた。
「僕はうれしかったよ。君の想いは誰にも貶されてはいけない」
目尻にたまった涙を寄せた唇で掬いとる。
「君ほど純粋で、焦がれるものはない。嫉妬でしかないんだ」
それは熱さに溶ける角砂糖。
「誰も君には敵わない。僕にとって君は愛おしいを超えた存在」
上唇にやわらかな感触があたる。
「泣いてもいいよ。……愛してる。僕は君が欲しくてたまらない」
酷い人だ。
最初からヴィタを堕とすために仕向けたくせに。
知っている。
絶望に突き落とされる瞬間、囚われる感覚を。
もう何度もこの手に囚われて、愛に溺れて息が出来なくなったことか。
(抗えない。それほどまでに彼の誘惑は甘い)
美しいものを彫りたいと願い続けたこの手が作り出したのは……罪深き者。
真っ黒に染まった手を知り、ヴィタは涙を流して目を閉じる。
(ずっと逃げなきゃと思ってたのに、捕まっちゃったんだ)
「あなた、悪魔だったのね」
その言葉に答えはなく、まばゆい暁だけがあった。
唇が重なると同時にヴィタの中で時が止まる。
それは天の使いでありながら地に落ち、這いずる生き方をしていた。
手を汚すことなく、人の心に生まれた影にささやくだけ。
果実から溢れ出す密な味に抗うことはもっとも難しい。
「長かった。これで君は僕のものだ」
何度も出会い、何度も別れてきた。
手に入れるためだけにこの声はあると、ルークは誘惑に誘惑をかさねて、甘く優しくささやいた。
「僕はね、君を手に入れられるなら傷つけても構わないんだ。……やさしいだけだと、君はすぐどこかに行ってしまうからね」
はじまりの女は傷ついた心を癒す甘い誘惑に墜ちていく。
一度知ってしまえば、その蜜を吸わずにはいられない。
苦難の果てよりも、目の前の甘い果実がほしい。
「ルーク、愛してる。私の暁」
それは愛の象徴。
よく似た美しき明けの明星。
魂は、永遠に囚われる。
後に語られるは「悪魔に誘惑されし原初の女の物語」。
天の使いとなんら変わらぬ美しさで甘くささやくだけ。
決して生命を奪わず、誘惑だけをもつ。
この手は罪深いか?
人一人殺さぬ柔い手に何を恐れる?
愛情を抱いた相手を手に入れるために、ほんの少し甘さを足しただけ。
はじめて見た時から欲した人間の女。
もう、何度目の誘惑かわからない。
ようやく堕ちてきたと、暁に似た男は艶やかに微笑んだ。