俺は、叔父さんの待つイベントルームへと向かう。確か、店の最奥部だったな。
イベントルーム、そこは四季折々の風情をCGによるホログラムで体験できるスペース。今回は春先ということもあり、夜桜が再現されている。
しかしながら、幹の質感から花弁の色合いまできめ細かく再現されており、実物の桜と見間違うほど。思わず花の香りを誤認してしまいそうだ。
また、ここだけは春先の外気温を忠実に再現しており、実に心地良い。春眠暁を覚えず、その風景はここにあり。
「ふぁ〜ぁ、やっぱり桜ってのはいつ見てものはいいもんだぁ〜」
見つけた。スペースの片隅で腰掛け、偽物の夜桜に見惚れて呆ける呑気な壮年男性。あれは紛れもなく俺の叔父、入間次雄だ。
叔父さんは、イタリア人もびっくりするほど彫りの深い顔が印象的。もし古代ローマのテルマエで寛いでいても、誰一人として気付かないだろう。
パンチパーマのようにカールするくせっ毛も相変わらずだが、歳のせいか白髪が目立つ。月日は流れたものだなぁ。
「おっ、やっと来たか冬樹。叔父さん、まちくたびれちゃったよぉ〜」
俺に気付いた叔父さんの第一声がそれだった。嘘こけ、ついさっきまで偽物の夜桜を愛でていたじゃないか。まぁ、俺も屋台に夢中で時間を忘れていたから、叔父さんの事は言えないけれども。
「冬樹、体型が少しばかり肥えたんじゃないか? お前も歳をとったもんだなぁ!」
それはお互い様だ。こうして叔父さんと面と向かって話をするのも、俺が大学生の時以来だ。それは至極当然だろう。
「叔父さん、昔はイケイケだったからなぁ。入間不動産もイケイケっ!」
叔父さん、昔から口が達者でな。俺が黙っていても延々と喋り続けるんだ。そう、さながらマシンガンのように。
俺が叔父さんと会うのが億劫なのは、こういう理由からだ。しかし、経営者というのはどうして軒並み冗長に話すのが好きなのだろうか?
「……おっといけない、少々前置きが長かったな。積もる話も互いにあるだろうが、まずは一杯やろうじゃないか」
その言葉を皮切りに、俺と叔父さんは杯を交わす。思えば、このやりとりも数十年ぶりだろうか。
「では、乾杯」
叔父さんの合図で、互いのお猪口を合わせる。向かいに見る叔父さんの表情は、心なしかにこやかだ。